**安永三年、幕府に弓引く凶人あり。尾張藩の者の屋敷を立て続けに焼き、遂には御曲輪内の一橋家をも焼かんと窺う。
しかし、ここに二十一年前に死んだと思われていた火消現れて大いに奮戦す。その名、伊神甚兵衛なり。かつて炎聖と呼ばれし伝説の火消に候。
伊神甚兵衛、その命を懸けて民を救って斃れるも、かつて黄金の世代と呼ばれし火消たち、十八年の時を経て一堂に会し、奮起して焔に立ち向かう。火消の意志は斯くして受け継がれ、御府内の安寧が守られていることを改めて想う。
江戸火消天晴也。**(334頁)物語の最後に載っている読売の文面を引用した。簡にして要を得た記事、当たり前か。
『羽州ぼろ鳶組 襲大鳳 下』今村翔吾(祥伝社文庫2020年初版第1刷、2023年第5刷)を読み終えた。あとがきによると、作者はシーズン1の最終回のつもりでこの「襲大鳳(かさねおおとり)」を書いたという。謎解き的な物語でもあるので(と、言い訳をして)、あらすじは省略。
**「古き者の知恵でもどうにもならぬ苦難に直面した時、打ち破るのはいつの世も若き力よ」**(259頁)
加賀藩火消の頭取・大音勘九郎が所属の異なる三人の町火消の鳶、慎太郎と藍助、慶司にかけたこのことば、作者の若い読者に向けたエールとも取れる。
江戸の火消したちの火消連合のような横の繋がり、それから黄金の世代と呼ばれた火消たちと若い世代との縦の繋がり。多様に繋がる火消たちの奮闘ぶりが描かれた物語。多くの登場人物に活躍の場を与え、物語を構成していく今村翔吾という作家はすごい。