『カラダで感じる源氏物語』(ちくま文庫2002年)
『源氏物語の教え もし紫式部があなたの家庭教師だったら』(ちくまプリマ―新書2018年)
『やばい源氏物語』(ポプラ新書2023年)
■ 源氏物語について書かれた本はできるだけ読もうと思っている。大塚ひかりさんにも源氏本が何冊かあるが、これまでに3冊読んでいる。先日書店で目にした『嫉妬と階級の『源氏物語』』(新潮選書2023年)を買い求めて読んだ。
『嫉妬と階級の『源氏物語』』 なるほど、確かに『源氏物語』の長大な物語は「嫉妬」で始まる。光源氏の生母・桐壺更衣は身分が低いけれど帝の寵愛を受ける。そのために上位の女性たちから嫉妬され、陰湿ないじめもされて、病に臥して亡くなってしまう・・・。
『源氏物語』には多くのヒロインが登場するけれど、「嫉妬」という言葉からまず浮かぶのは六条御息所。身分も高く、美人で教養もあるのに、光源氏の正式な妻にはなれず、嫉妬から生き霊となって夕顔を変死させてしまうし、正妻の葵の上も取り殺してしまう。大塚さんは他の嫉妬例をいくつも挙げている。因みに六条御息所は女性に人気があるようだ。また、夕顔は男性に人気のあるヒロインとのこと(確か瀬戸内寂聴さんの本に出ていたと思う)。
本書を読むと「嫉妬」は『源氏物語』を読み解くのに実に有効な切り口だということがよく分かる。
以前書いた記事から引く。**『カラダで感じる源氏物語』(ちくま文庫)の解説文に小谷野 敦(比較文学者)さんは**その解釈には専門家のなかにも一目置いている人たちがいる。**(292頁)と書き、さらに**『源氏物語』などおそらく全文を諳んじているはずだし(後略)**(292頁)とまで書いている。**
大塚さんは『源氏物語』を中学生の時に読んでいたということだし、個人全訳もしている(ちくま文庫全6巻)から、長大な物語を細部まできちんと把握しているだろう。だからこそ、縦横無尽な論考ができるのだ。
大塚さんは本書の「おわりに」で、浮舟を取り上げて、次のように書いている。
**時に作家は、登場人物に自己を仮託しながらも、その登場人物が作家の思想を超えて、思いも寄らぬ境地に達することがあるものだ。その境地に達したのが、最後のヒロイン浮舟ではないか。**(242頁)
**誰の身代わりでもない自身の人生を、心もとない足取りながらも歩もうとする様は、今に生きる私にとっては、不思議なすがすがしさと開放感を覚える。**(243頁)
自分だけは自分を見捨てるべきではない。大塚さんが紫式部メッセージだとするこの言葉、覚えておきたい。
国文学者で平安文学、中でも「源氏物語」と「枕草子」が専門だという三田村雅子さんは、NHKの100分de名著「源氏物語」の解説で物語最後のヒロイン浮舟が好きだと言っていた。浮舟には紫式部の願いが投影されているとも。そう、浮舟は紫式部が望んだもう一つの人生を歩んだ女性だった。