透明タペストリー

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「金閣を焼かなければならぬ」を読む

2025-03-06 | A 読書日記

『金閣を焼かなければならぬ 林 養賢と三島由紀夫』内海 健(河出文庫2024年)を読んだ。本年(2025年)1月14日に生誕100年を迎えた三島由紀夫の代表作である『金閣寺』を再読する前に読んでおこうと思って。

著者の内海 健氏は精神科医。専門は精神病理学(本書のカバー折り返しに載っている著者のプロフィールによる)。内海氏は精神病理学の知見によって、ふたりの精神構造がどにように変わっていったのか、そのプロセスを分析する。青年僧・林 養賢はどのように変わっていき、金閣寺に火を放つに至ったのか。『金閣寺』 を書いた三島由紀夫はどうであったのか。

分析は専門的であり、哲学的でもあって、難しく、内容が理解できたとは言い難い。単行本が文庫化されたということは、よく読まれているということだろう。

『金閣寺の燃やし方』酒井順子(講談社2010年 図書館本)を読んで、「金閣寺を描いた三島由紀夫、林 養賢を描いた水上 勉」と括ったが、本書で、三島由紀夫は金閣寺にばかり関心があったわけではなく、林 養賢が陥った精神的な病のことについて、理解していたということを知った。そう、あくまでも林 養賢個人ではなく、病について。

**三島由紀夫は(中略)調書や公判記録などの一次資料にも目を通している。だが、養賢個人に対して関心を示した跡がない。**(49頁)
**三島は執筆に先駆けて入念な調査を行った。だが、それはあくまで小説の題材の渉猟である。そこに養賢に対する感情移入は一欠片もみられない。**(196頁)

**ミンコフスキーの『精神分裂病』(1927)は本格的な精神病理学のモノグラフであるが、ある程度の読解力があれば、門外漢にとっても格好の入門書となる。三島の分裂病に対する筋のよさの一部は、そこに由来している。**(78頁)
**三島の分裂病に対するセンスは秀逸である。**(246頁)

内海氏は精神分裂病という今では使われていない呼称を意図をもって使っていて、その理由も書いている(62頁)が、ここでは略す。

三島由紀夫の作品を納めた文庫は全て古書店に引き取ってもらったので、『金閣寺』を改めて注文した(*1)。本書により、『金閣寺』の違う読み方ができるような気がする。再読が楽しみ(過去ログ)。


*1 現在書店にある新潮文庫の『金閣寺』はカバーデザインが好きではないので、古いデザインのものを入手するためにネット注文した次第。


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