透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「氷壁」

2015-07-22 | A 読書日記


上高地横尾より前穂高岳東壁を望む 撮影日150714



■ 井上靖の長編小説『氷壁』を再読した。切れないはずのザイルが岩壁登攀中に切れた、という「事件」。この小説の重要なモチーフはよく知られている。

『氷壁』を読んだのは確か高校生の時だったと思う。しばらく前、上高地の横尾から前穂高岳を望む機会があったが、その時にこの小説を思い出していた。

若きふたりの登山家が正月に前穂高岳の東壁を登攀中、ナイロンザイルが切れて、ひとりが墜落死してしまうのだった。小説のストーリーはなんとなく覚えてはいたが、どんな結末だったのか、すっかり忘れてしまっていた。

自室の書棚にこの文庫本を見つけることができなかったので、先日都内の書店で改めて買い求めた。その日(16日)は台風11号の影響でJR中央線も高速バスも運休していたので、 長野経由で夜遅くに帰松したが、その車中で読み、さらに週末にも読んで、昨晩(21日)読み終えた。

『氷壁』は山岳小説というイメージがあるかと思う(文庫本のカバー写真からもそんな印象を受ける)が、恋愛小説だ。

主要な登場人物は主人公魚津恭太と彼の親友小坂乙彦、ふたりが魅せられて恋する人妻八代美那子、小坂の妹かおる。それに魚津の上司常盤大作と美那子の夫教之助。

忘れてしまっていたラスト。魚津は小坂の妹かおると結婚の約束をしたものの、美那子への思慕の情は断ちがたく・・・。涸沢岳の西尾根の斜面で起きた落石、回避できたであろう落石の中を進み・・・。

**ガスの流れの中に魚津は立ちつくしていた。後方には美那子がいる。前方にはかおるがいる。そう魚津は思った。そう思うと、実際、そのように魚津には信じられて来た。
前へ進むべきだ。進まなければならぬと魚津は思った。自分はかおるのところへ行かなければならぬ。美那子の幻影を払いすてるために、自分はこの困難な危険の多い山行きを思い立ったのではないか。**(560頁)


ああ、なんと男は純なことか、そして愚かなことか・・・。 


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