昨日の晩は、本社の弟子が社内で千キロと呼ばれる超高圧電子顕微鏡の関係者に
声をかけて慰労会を開いてくれた。
千キロとは1000KV、100万Vのこと。1M(メガ)Vと呼ばないところは我社のこだわりなのか?
昔からこう呼ばれてきた、会社のステータスシンボルのような装置です。
予想はしていたが、この夜に集まってくれた仲間は、
僕に負けない強い個性を持った、濃い連中ばかり。
本社で活躍する僕の愛弟子M、
弟子の同期で僕が可愛がっていた、サッカー仲間でもある製造の若手A、
プロト機、北大機の納入で一緒だった、僕が顧問をしていたスノボ部に所属する組み立てのK、
今はサービス部門の責任者で、濃さでは3本の指に入る男KB、
怪力でスポーツマンの組み立てのH。
今や超高圧電子顕微鏡の責任者となって、こういった個性派を仕切る役目をしているが、
北大機を納入したときには、まだ学生で、北大機を使った研究で卒論を書いた、O。
そして会社人生の中で、一番やり合って、僕に顧客のことを考えろと教えられた、盟友T。
社内調整中から一触即発で、他のメンバーが二人の傍に近寄れない雰囲気だったうえに、
北大の納入現場でも、一歩も譲らず僕に喧嘩腰で難題を投げかけて来たけれど、
最後はその装置を駆使して見事に性能を出し、世界の学者を驚かせたN。
その後、東北大のモノクロ顕微鏡の納入では、6ヶ月間に渡って片腕となってくれた、
先生との折衝も上手くやってくれて、仕事に集中させてくれた、一番頼りになった盟友です。
そして、忘れてはいけない御大のOさん。
この人が居なければ、今の僕はない。いろいろな意味で手本になった恩師です。
この仲間は社内で片手の中に入るような、本当に個性が強い連中ばかり。
声をかけた弟子が『今日のメンバーは濃い人ばかりで凄いなぁ』
なんて、皆が集まる前に弟子と同期のAが話していた。
慰労会が始まり、お約束事のように、まずTとNが僕を弄る。
この日は黄色いチノパンに、黄色ベースのストライブのシャツで出かけた僕を見て、
T:『いやぁ、黄色が似合うなぁ・・・・会社でこの格好できるのはYさんだけだなぁ』
それに間髪を入れず、Nがフォローする。
N:『これだけ黄色が合うのは、Yさんくらい。あとはおでんに付いたカラシだけだな・・・』
これを聞いて若い二人は大笑い。
こういったやり取りが、テンポよくでるのでとても付いて来れないという。
このメンバーには本当に世話になっている。
僕は20年以上誰も手をつけなかった、新しい電源を作りあげたと言う事は間違いないが、
いわば『やりっぱなし』。
それを弟子が引き継ぎ、今では安定した信頼できる装置に進化させた。
その『やりっぱなし』を辛抱しながら、装置として作り上げてきてくれたTやNが居たから、
客先に滞りなく、装置を納めることができたのです。
それを取りまとめて、ある時は時間稼ぎをしてくれたのが御大だった。
この仲間は、そういった製造、サービス、電気・機械設計、物理設計の人間が
一体になって作ったチームワークの賜物と言って良い装置だった。
だからこそ、この仕事で育まれた人間関係は、強い絆でつながっている。
事あるごとに喧嘩もしたし、お互いに助け合ったりもした。
飲みながら、納入に至るまでの失敗や、苦しかったことを笑い話に出来る・・・・いい仲間です。
一通り飲み食いしたあとに、皆から一言ずつ言葉を貰った。
Tは、僕が何も知らない弟子を育てるために製造へ預けたいと申し出たときに
周りの反対を押し切って、弟子を引き受けてくれた男。
弟子は『その判断のお陰で今の自分がある』・・・・と言ってくれた。
ありがとう。
そのTが、『誰もやらなかった事をやって、何かを変えようとする努力や苦労が有ったから、
今は当たり前になって居る、仕事のやり方に変わった』・・・・と言ってくれた。
ありがとう。
Nは北大の納入に始まり、東大機の再生作業、そして前出のモノクロ顕微鏡と、
僕と関わった仕事が本当に多かった。
そんなNが、『喧嘩しながら一緒に仕事をやって、色んな事を覚える事が出来た』と言う。
ありがとう。
そして御大。
会社をスパッと辞めて次のことにチャレンジするのが、僕らしいと・・・・
そして
『この数年は苦しかっただろうけれど、演劇や音楽、サッカーなど、
仕事以外のところで活き活きしている君を「定年後の生き方」の見本、憧れとして、
ここにいるメンバー全員が期待して見守っている』
と話してくれた。
御大の言葉を聞いて、僕は涙が溢れてしまった。
人前、特に会社の人間の前では、絶対に涙を見せない・・・・
ってずっと貫いてきたけど、今日ばかりは無理だった。
最後の僕の挨拶も、声に詰まってしまいなかなか話せなかった。
そして弟子から『Team 1000kV』と書かれた万年筆を贈呈された。
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言い合いながら、喧嘩をしながら、それが出来て同じ方向へ向おうとしてきた仲間。
こんな仲間に囲まれた会社人生を送れた僕は、誰よりも幸せなのかも知れない。
記念品の万年筆は宝物になるだろうけれど、それよりこの仲間の方が宝物だ。
ありがとうございました。