![]() | 奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録石川 拓治,NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班幻冬舎このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
◆内容(出版社から)◆
絶対に不可能といわれてきたリンゴの無農薬栽培を成し遂げ、ニュートンよりライト兄弟より偉大な発見をした男の感動ノンフィクション。長年の極貧生活と孤立を乗り越えて辿り着いた答えとは?
【読んだ理由】
書評を読んで。
【印象に残った一行】
答えはすでに出ている。
自分はリンゴの無農薬栽培に失敗した。
リンゴの無農薬栽培は不可能なのだ。
何よりの証拠に、リンゴの木は枯れようとしている。
一刻も早く、農薬を使ってやるべきなのだ。
理性はそう告げているというのに、木村の中の何者かが頑強にそれを拒んでいた。
岩木山で学んだものは、自然というものの驚くべき複雑さだった。その複雑な相手と、簡単に折り合いをつけようとするのがそもそも間違いないのだ。
自然の中には、害虫も益虫もない。それどころか、生物と無生物の境目すら曖昧なのだ。土、水、空気、太陽の光に風。命を持たぬものと、細菌や微生物、昆虫に雑草、樹木から獣にいたるまで、生きとし生けるもの命が絡みあって自然は成り立っている。その自然の全体とつきあっていこうと木村は思った。自然が織る生態系という織物と、リンゴのの木の命を調和させることが自分の仕事なのだ。
エジプトもメソポタミアもインダスも、古代文明の繁栄した土地は、こよごとく砂漠化した。森林を伐採し、破壊し尽くしてしまったからだ。現代人は古代人の思慮の足りなさを笑うかもしれない。けれど、我々が笑っていられるのは、単に化石燃料を使う技術があるからに過ぎない。森林が消えても平気でいられるは、まだ滅びていない遠くの森林から木々を運ぶことができるからだ。ある土地が砂漠化しても、また別の土地を畑にすることができるから、何が起きようが知らないふりをしていられう。農薬や肥料を与えなければリンゴが実らないのとまったく同じ意味で、現代人は農薬や肥料がなけれな生きていけなくなっているというのに、そのことの意味も真剣に考える人は少ない。
いつまでもそんなことを続けられるわけがないのだ。
化石燃料が枯渇するのが先か、それとも環境が回復不能なところまで破壊されてしまうのが先かはわからないけれど、いずれにしてもそうなれば、農薬や化学肥料が不可欠な現代の農業が破綻することは目に見えている。
【コメント】
これは一農家が数年をかけ、苦労の末に絶対不可能を覆した貴重な記録である以上に、農薬、肥料なしには成立しえない歪な我々の生き方に警鐘を与えている。リンゴだけの問題ではない。その意味でショッキングである。一読をお勧めしたい。

