![]() | 世界の果てのこどもたち |
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講談社 |
【一口紹介】
◆内容紹介◆
戦時中、高知県から親に連れられて満洲にやってきた珠子。
言葉も通じない場所での新しい生活に馴染んでいく中、彼女は朝鮮人の美子(ミジャ)と、恵まれた家庭で育った茉莉と出会う。
お互いが何人なのかも知らなかった幼い三人は、あることをきっかけに友情で結ばれる。
しかし終戦が訪れ、珠子は中国戦争孤児になってしまう。
美子は日本で差別を受け、茉莉は横浜の空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった。
あの戦争は、誰のためのものだったのだろうか。
『きみはいい子』『わたしをみつけて』で多くの読者に感動を与えた著者が、二十年以上も暖めてきた、新たな代表作。
◆著者について◆
中脇 初枝
1974年徳島県生まれ、高知県育ち。高校在学中に『魚のように』で坊っちゃん文学賞を受賞し、17歳でデビュー。
2012年『きみはいい子』で第28坪田譲治文学賞を受賞、第1回静岡書店大賞第1位、第10回本屋大賞第4位。
2014年『わたしをみつけて』で第27回山本周五郎賞候補。
著書は他に『あかいくま』、『女の子の昔話』、『祈祷師の娘』、『みなそこ』などがある。
【読んだ理由】
新聞の書評を読んで。
【印象に残った一行】
泥棒。
人の弁当を見て、食べられることを喜んだ自分だって、清三と同じ、泥棒だった。
死体の懐に手を入れたおじさん、じゃがいもを取ったおじさん、キャラメルを奪ったおばさん、青いお空の布団を盗んだ近所の人。あんなに憎いと思ったのに、自分だって同じだった。
茉莉は自分の手のひらを見下ろした。ぎゅっと開かれて奪われた感触。まだこの手に残っていた。でも。
奪われたキャラメルは、おばさんの傍らにいたこどもに渡された。きっとその子も茉莉と同じ、空襲で衣類も食糧も焼き尽くされたこどもなんだろう。キャラメルを奪ってきてくれる母がいるということだけが、茉莉とはちがっていた。
清三は自分に食べさせるために弁当を盗んできてくれた。盗むのはいけないこと。そんなことはわかっていた。それなら、盗まないで、飢えて死んでしまうのはいいことなのだろうか。
茉莉にはわからなくなった。これまでずっと正しいと信じていたこと。それが揺らぎはじめていた。
朝鮮戦争は終わったが、祖国は北と南に分断されたまま、四年がたっていた。在日社会も、北を支持する総連と、南を支持する民団との、まっ二つに分かれた。
もし美子たちが帰るとすれば、どちらの国に帰ればいいのだろう。故郷は北にあったが、国交は断絶していた。
「おかあさんはね、昔、初めての子を妊娠していたときに、日本の兵隊にお腹を蹴られて流産したんだって。それでこどもができない体になったって言ってた。屋台をやってたらしいけど、売り物を取っていかれて、代金をはらってくれるようにいっただけだったのに」
美美あなたが日本人じゃなかったらよかったのに。
いつかの言葉がよみがえった。
珠子は玉欄の写真を食い入るように見た。
恨んでいるはずの日本人である自分を愛してくれた母。それは父も同じ思いだったはずだった。
【コメント】
久しぶりに本を読みながら泣いた。われわれ日本人が記憶にとどめておくべき事が見事にえがかれている。
400ページに及ぶ長編だが皆さんに一読をお勧めしたい。