日本男道記

ある日本男子の生き様

三枚起請(さんまいきしょう)

2008年04月04日 | 私の好きな落語
【まくら】
起請文を取り交わすのは「心中」のひとつである。
心中は読んで字のごとく心の中の恋心を表現することで、起請文を書く、髪をひとつかみ切って渡す、相手の名前を腕などに彫る(入墨)、爪をはがして渡す、小指の第一関節の上を切り離して渡す、二人で一緒に死ぬ、と、軽い心中から重い心中までよりどりみどりだった。
その最も軽い心中である起請文には、熊野三山発行の牛玉宝印(ごおうほういん)という護符が使われた。
護符にはカラスの形をした独特の文字で呪文が描かれている。
指に針をさして血を出し、その血でこの紙に「誰々様に惚れています」と書き、カラスの眼を塗りつぶす。裏切ったら恐ろしいことが起きそうだが、女たちはそんなこと恐れもせず、巧妙に眼の箇所を避けたり、字が消えるよう細工したり、平然と何枚も渡したりする。
神様もびっくりして、結局罰も当たらない。

出典:TBS落語落語研究会

【あらすじ】
建具屋の半七が吉原遊郭に行ったっきり戻らないと聞き、棟梁の政五郎が意見をしてやろうと半七を呼びつける。
「お前の親父に聞いたぞ。お前、吉原遊郭の花魁に入れ込んで、何日も家に帰っていないんだって?」
「ウへヘヘへ、当たり…」
話を聞くと、『年季が明けたらきっといっしょになる、神に誓って心変わりしない』という起請文も取ってあるらしい。
「何々…【一つ、起請文のこと。私こと、来年三月年季があけ候えば、あなたさまと夫婦になること実証也。新吉原江戸町二丁目水都楼内、喜瀬川こと本名中山みつ】。これをもらったのか!?」
「エヘヘヘへ、どうでしょ?」
「馬鹿か、お前は…」
「あ!? 投げた!! 俺の大事な…」
「あんなもの大事にするなよ」
なんと、棟梁も同じ女から、まったく同じ内容の起請文をもらっているのだ。
二人して呆れているところへ、今度は三河屋の若だんな(新之助)がやってきて、そっくり同じようなノロケを言いだした。
「あたしにその水都楼の女がぞっこんでしてね、これここに起請文まで…」
「【あなたさまと夫婦になること実証也。喜瀬川こと本名中山みつ】…」
「何で知ってるの!?」
棟梁に事情を聞き、新之助と半七の怒ること怒らないこと…。
『これから水都楼に乗り込んで、化けの皮をひんむいてやる!!』と息巻くふたりに、棟梁がマァマァと声を掛ける。
「相手は女郎だ。下手にねじ込んでも、開き直られればこっちが野暮天にされるのがオチだぜ。それならば…な」
なにやら二人に作戦を授け、三人そろって吉原へ。
お茶屋の女将に話を通し、部屋を借りた棟梁は、半七と新之助を部屋に隠して喜瀬川を御茶屋に呼びつけた。
「起請文? 棟梁にしか差し上げていませんよ。他の人には…」
「建具屋の半七には?」
「半七? どちらの…知ってますわよ、そんなに睨まないで。確かにお知り合いではありますけど、起請を送った事は在りませんわ。あんな『水瓶に落ちたおマンマ粒』…」
「『水瓶に落ちたおマンマ粒』、出といで…」
納戸の中から半七が登場。
「アララ、いらっしゃったの…?」
「こいつだけじゃねぇだろ。三河屋の新之助にも…」
「知らないよ。あんな『日陰の桃の木』みたいな奴…」
「『日陰の桃の木』、こちらにご出張願います」
「嘘…!?」
言い逃れできなくなった喜瀬川だが、このまま引き下がっては…花魁の名が廃る。
「ふん! 大の男が三人も寄って、こんな事しか出来ないのかい。はばかりながら、女郎は客をだますのが商売さ。騙される方が馬鹿なんだよ」
「何だとこの野郎!!」
「アララ、新ちゃん。手なんか上げちゃって如何するの? 吉原で女に手を上げるのはご法度よ」
「そんなんじゃねぇや」
「じゃあ、その手は何?」
「ん…これは『グー』だ。グーを出して…花魁の手管にはグーの音も出ない」
段々旗色が悪くなってきた。仕方なく棟梁が仲裁に入る。
「喜瀬川。男をだますのが仕事だって言うのは理解できるが、何で起請文なんかでだますんだ? 女郎なら、ちゃんと口で騙せよ」
「フン!! 一枚や二枚で驚くなってんだ。この江戸中探したら、いったい何枚起請が出てくることやら…」
「喜瀬川、昔からよく言うだろ? 『起請に嘘を書くと、熊野の烏が三羽死ぬ』ってな」
「オホホ…。私はね、世界中の烏をみんな殺してやりたいんだ」
「え? 烏を殺してどうするんだ?」
「ゆっくり朝寝がしてみたいんだ」

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

【オチ・サゲ】
途端落ち(最後の一言で見事に結末のつくもの)

【噺の中の川柳・譬(たとえ)・都都逸】
『三千世界のカラスを殺し、ぬしと朝寝がしてみたい』(高杉晋作の作と伝えられる、明け方に鳴くうるさいカラスが全部いなくなれば、いつまでも一緒朝寝ができるのにという意)
『年期(ねん)があけたらお前のそばへ、きっと行きます断りに』

【語句豆辞典】
【経師屋】紙や布などを貼って掛軸や屏風を仕立てたり襖を仕上げる専門店。
【年期(ねん)】奉公人を雇うときに約束した年限。一年を一季とし、普通10年を限度とする。年季と同義。

【この噺を得意とした落語家】
・五代目 古今亭志ん生
・三代目 古今亭志ん朝

【落語豆知識】
【掛け持ち】一日に二軒以上の寄席に出演すること。
 




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