1948年市川崑はデビュー作『花ひらく』以降、新東宝を皮切りに東宝、日活、大映と各社をまたにかけ、『ビルマの竪琴』『東京オリンピック』『犬神家の一族』などジャンルにしばられることなく常にエポックメーキングとなる話題作を世に送り出しました。そのいずれの作品においても徹底した美意識が貫かれ、大胆な実験精神とスタイリッシュな演出スタイルは多くの観客を魅了し、日本映画界に独自の地位を築きました。1997年に『黒い十人の女』がリバイバル上映されると、若い世代から絶賛され大ヒットを記録するなど、そのスタイルは時代を超えて愛されています。 現在活躍するクリエイターに与えた影響もはかり知れず、山田洋次をはじめ、三谷幸喜、庵野秀明、岩井俊二などの現在第一線で活躍するクリエイターで市川崑ファンを公言する人は少なくありません。 2015年開催された第65回ベルリン国際映画祭での特集上映にはじまり、香港国際映画祭、世界での巡回上映など海外で再評価されています。また日本においても、第28回東京国際映画祭で『炎上』4Kデジタル復刻版のジャパン・プレミアをはじめ、1970年大阪万博日本館で上映された8面マルチ映像作品『日本と日本人』や海外で発見され新聞でも大きく報じられた初期のアニメーション作品『弱虫珍選組』が上映されるなど、大きな話題を呼んでいます。 今回の映画祭では監督として更なる進化を遂げた大映時代の作品を中心に、市川崑を語る上では外せないと思われる作品を中心にラインナップしました。 「映像は所詮、光と影だと思います、光と影がドラマなのです。その光と影は、尽き果てることのない永遠のものだと思います。」光と影を駆使し、漆黒の闇の世界に儚くも美しい家族の愛を照射させ、まばゆい光の中に人間の孤独を描いた市川崑―デジタル復元を施した『おとうと』『雪之丞変化』『炎上』など日本映画史に燦然と輝く傑作の数々を是非ご堪能頂ければ幸いです。
人間模様
1949年/白黒/89年/スタンダード/新東宝
原作:丹波文雄 脚本:山下与志一、和田夏十
撮影:小原譲治 美術:河野鷹思
出演:上原謙、山口淑子、月丘千秋、青山五郎、江見渉、東山千栄子、斎藤達雄、伊藤雄之助
◆戦後の混乱した社会に生きる男女のもつれた「人間模様」に、市川流の乾いたタッチで挑む。後の市川組に欠かせない怪優伊藤雄之助が、薄幸のヒロイン山口淑子の元情夫役で初登場。ここでの「和田夏十」は監督と夫人との共同ペンネームである。
暁の追跡
1950年/モノクロ/93分/スタンダード/新東宝
脚本:新藤兼人 撮影:横山実 美術:中古智
音楽:飯田信夫
出演:池部良、水島道太郎、伊藤雄之助、田崎潤、杉葉子、野上千鶴子、江見渉、三原純、菅井一郎、藤原釜足
◆若い警察官(池部良)と警官隊が麻薬密輸団を追いつめていく、ドキュメンタリー・スタイルの野心作。警視庁の後援を得て、新橋にあった本物の交番に俳優達を立たせて撮影を敢行した。1950年の東京の街を映した記録としても高い価値を持つ。脚本は新藤兼人。
夜來香(いえらいしゃん)
1951年/モノクロ/86分/スタンダード/新東宝
脚本:松浦健朗、市川崑 撮影:横山実
美術:加藤雅俊 音楽:服部良一、小川寛典
出演:上原謙、久慈あさみ、利根はる恵、川喜多小六、河村黎吉、月丘千秋、菅井一郎
◆かつて中国戦線で知り合った元軍医(上原謙)と慰安婦(久慈あさみ)が、敗戦後の内地でめぐり合う。山口淑子のヒット曲にのせて敗戦後の暗さを巧みににじませたメロドラマで、宝塚歌劇団の男役スターから抜粋された久慈あさみの第1回主演作品である。⇒その他上演作品それぞれの内容紹介。
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