コロナ禍で健康を維持するにはどうすべきか。高齢者の健康管理に詳しい長野県・諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師(72)に聞いた。【聞き手・熊谷豪】
――コロナ禍で医療機関の受診や検診を受ける人は減っていますか?
◆病院内での新型コロナ感染を恐れ受診を控える患者がいる。また、病院側もコロナ患者のために病床など医療資源を割いている。その結果、感覚的に言うと1割ぐらい患者が減っている。検診は健康作りに大切だが、「今は仕方がない」という控える空気が住民と病院の双方に生まれている。1、2年後、がんなどの病気が早期発見できずに進行した状態で見つかったり、介護が必要な状態の人が増えたりする事態になるのではないかと心配している。
歯科も不要不急と思われているのか、受診者数が減っている。だが、虫歯治療などの口腔(こうくう)ケアは認知症の予防にもつながるという研究がある。病気になったり介護が必要になったりすると、自分自身はもちろん家族にも影響が及ぶ。医療・介護保険の財政負担が増えることにもなる。
――自粛生活が心身に与える影響は。
◆外来患者を診ていると、大きく三つのことが起きていると実感している。まず、これまで介護を必要とせず自立して生活していたのに、「何かにつかまらないと立ち上がれなくなった」と訴える高齢者が出てきた。介護が必要になる一歩手前のフレイル(虚弱)の状態だ。
二つ目は、認知機能の低下だ。人間は、社会とつながらないと認知症になりやすい。感染予防のための「ソーシャルディスタンス」(社会的距離)という名目で、社会参加が抑制されている恐れがある。重要なのは、「フィジカルディスタンス」(身体的な距離)を保ちながら社会的につながることだ。
三つ目は、コロナうつだ。多くの場合、うつ病というほどではないが鬱々とした精神状態だ。日本の家は広くないので、自粛生活で親子や夫婦の関係がぎくしゃくしがちと言われている。ストレス解消には体を動かすのが重要だ。外を散歩し、フィジカルディスタンスを保ち、換気と手洗いができる状況でリフレッシュすることが必要だ。
他にも、自粛生活の運動不足による「コロナ肥満」など多様な問題が起きている。血糖値が高い状態が続けば、将来的に脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞が増える恐れがある。コロナに感染しなくても、介護が必要な状態になるのでは元も子もない。現在の食事や運動習慣などの生活状況が将来、大きな差となって表れる。
――どのような生活を送ればいいですか。
◆中年の人は、野菜の摂取を増やし炭水化物を少し抑え、適度な運動をすることだ。働き盛りでもあるので、会社や自宅、通勤途中の道をジムだと思い、早めに歩いたり、テレビを見ながらスクワットしたりすることを心掛けてほしい。高齢者は肉などたんぱく質を積極的に摂取するのが良い。
――コロナは健康管理を見直す機会になりますか。
◆感染防止対策を確認したうえで、医療機関で検査や人間ドックを受け、血圧や血液、筋肉量、脂肪量の変化などのデータをコロナ前と比べて今の生活を見直すきっかけにしてほしい。
自分自身が健康の「管理者」になる自覚を持ち、医師ら専門家を利用する側に回るべきだ。これまで日本は健康や命まで医者任せにし、健康や医療に関する情報を活用する「ヘルスリテラシー」が、欧米に比べて低いとの指摘もある。そのため情報はあふれるほどあるのに、きちんと理解し行動に移せていない。
コロナ禍の間にリテラシーを上げれば、健康になり将来的に介護保険の利用者を減らすことができるのではないか。「コロナから人生が変わり始めた」「コロナの頃から日本人は変わった」と、後の時代に言われるようにすべきだ。