ピンクの花びらの一枚一枚の透けるような重なりが、筆先から画用紙に描かれていく。
絵心のない私は、おじさんの手の動きと、今見つめ、見つめそして筆を進める、白い画用紙の中に生きていくような美しい寒牡丹を、感心しながら眺めていた。
おじさん画伯に、見つめられているモデルの横顔をカメラに収める。
いいお顔である。
もう何年か前に、ここに来た時に、牡丹にカメラを向けている私に、「いい顔で咲いていますね。」と後ろから声をかけられたのを思い出した。
それ以来「牡丹を見る」というよりは、「いい笑顔に会いに行く」というような気持ちで石光寺の門をくぐる。
おじさん画伯の写生を見つめている先客さんがいた。
「どれくらいで、出来上がるのですか。」
私もそれを聞きたかった。
「大体2時間くらいですよ。」
今日の花は、明日このままであるとは限らない。
一番美しい時を、おじさん画伯に2時間しっかり見つめられて、水彩画の中に花の命を残していく。