
吉野山を抜けいで湯に辿り着く。山里の静かな旅館。この宿ならゆっくり書き
物もできるだろう。名文が浮かばなかったら筆を置いて湯浴みをするのも良い。
【Data】含炭酸ー食塩泉(冷鉱泉) 12.7℃ PH6.4 源泉:吉野温泉元湯
評価:源泉温度が12.7℃と冷鉱泉であるが、吉野の山里の自噴泉は景観・風致
を考えれば名湯だ。島崎藤村ゆかりの宿として開湯300年を誇る。藤村
が女学校の教師をしていた頃、女学生との失恋の傷を癒すため、訪れて
「訪西行庵記」等作品を残す。 下記は其の最終節文
『・・・やがて宿にかへりて旅燈のもとにひとり故人のふみをひもとき、月
花を友として禽獸のそしりを免かれんと思ふのみ 明治廿六年仲春誌之・』
解説:文中の「禽獣のそしり」とは当時、女学生との恋愛感情を悔いたものな
のか、いづれにせよ、島崎藤村は女学生との恋に破れ、教師を辞めしば
らくこの吉野の宿に投宿し、文筆活動をしたのであった。藤村22才の春。