映像:吉井川の川底から湧く奥津荘鍵湯源泉に、同行した探査メンバーは大満足。
奥津温泉の名湯・秘湯といえば『鍵湯』といっても良い。吉井川から湧出する源泉。
足元適温湧出する湯船は花崗岩を刳り抜いた物である。西の名湯に暫し我を忘れる。
【Data】 単純温泉 42.6℃ pH9.2 源泉:奥津荘鍵湯(247 ℓ/ⅿ)
参考:本物の名湯ベスト100(講談社現代新書:石川理夫著)―92位奥津温泉
学術:日本温泉地域文化資産No.95(日本温泉地域学会編「
記録:コーセーの化粧水は、この源泉の成分を素にして作られて居るという。
藩政時代美作国津山藩の湯治場でもあり、古くからの温泉地であった。
参照#①この温泉がモデルの映画「秋津荘」 ②玄関正面の棟方志功作「版画屏風」
③山陽温泉地 探訪紀行
映像:世界的版画家棟方志功ゆかりの宿。志功の作品が出迎える奥津荘正面玄関
美作三湯のひとつ奥津温泉の老舗旅館『奥津荘』を訪問した。女将が館内を案内。
玄関を入り驚いたのが世界的版画家棟方志功の作品だ。棟方志功といえばやはり
青森県の浅虫温泉を想起する。一級の芸術家は一級の温泉地に所縁があるものだ。
奥津荘の女将が言うには奥津温泉に棟方志功が逗留してこの版画を為したそうな。
東西の一級の温泉地に足跡を為した版画家の縁で浅虫温泉椿館と奥津温泉奥津荘
が、『棟方志功の宿』つながりで連携してお互いの営業に生かして欲しいと願う。
感慨:ある日、テレビを見ていたら、映画「秋津温泉」が流れていた。なんとも
風情のある川沿いの温泉旅館を中心に男女の機微が繰り広げられる映画に
感動し、いつかこの温泉地に行きたいと思っていた。小説「秋津温泉」は
直木賞受賞作品。作家は藤原審爾、奥津温泉がモデルの温泉となっている。
参照#名泉とされる奥津荘の湯殿「名泉鍵の湯」
映像:吉井川にかかる奥津橋に設置された奥津温泉名物「足踏み洗濯」像
岡山県美作三湯のひとつ鏡野町にある奥津温泉。この温泉は筆者が今回どうしても
訪れたい温泉地であった。それは、岡田麻利子主演の映画:秋津温泉を見たからだ。
映画の舞台に温泉場がなることは珍しくないが、映画全体に漂う情感が素敵だった。
秋津温泉:岡田麻利子主演の映画。のちに映画のメガホンをとった吉田監督と結婚。
岡田麻利子の映画出演100回記念の映画で岡田自身も映画に関与した。
ロケ地にも諸説あり「般若寺温泉」と「奥津渓谷・奥津温泉」一帯らしい。
足踏洗濯:絣の着物に、姉さん被りの女性たちが「奥津小唄」に合わせて洗濯物を
足で踏んで洗う姿は奥津温泉の風物詩である。元々は、洗濯中に熊や狼
に襲われないよう見張るために立ったまま洗っていたのが始まりとか・・・
参照#奥津温泉の名泉、温泉旅館奥津荘「鍵湯」
映像:足温泉館の大浴場( 岡山県真庭市:公式HPより転載)
真賀温泉から旭川沿いに美作街道を湯原温泉へ北上
すると、この温泉に遭遇する。湯原温泉、真賀温泉、
郷禄温泉、茅森温泉などと、湯原温泉郷を構成する。
【Data】単純温泉 37℃ pH9.4 源泉:足(たる)温泉館源泉
映像:すっかりご機嫌の温泉達人。この湯殿かなり深いのでご注意あれ。中腰での入浴。
秘湯とはこの様な湯使いの施設の事をいうのだろう。崖っぷちに張り付いたような温泉宿。
しかし良く見ると同じ経営の宿群。施設には、家族湯、幕湯、普通湯の3つの湯殿がある。
今回も入浴モデルは温泉達人にお願をした。三つの湯の真ん中、穴倉の様な幕湯の絶品湯。
【Data】単純温泉 39.5℃ PH9.4 自然湧出:205ℓ/m 源泉名:真賀温泉
参照#山陽地方 温泉地データ・ベース
映像:郷禄温泉緑風館の貸切の湯船、
ここ郷禄温泉は一軒宿だ。最初訪れた時、浴室は家族が占有して貸切状態だった。
宿の女主人は体調を崩したらしくドア越しの応対となり、結局2時間後再訪する
事になった。さすが温泉達人の勧める温泉35℃前後の清涼な湯が溢れる様は圧巻。
【Data】単純温泉 34.2℃ ㏗9.1 30.5ℓ/ⅿ 源泉名:郷禄温泉
映像:岡山県真庭市湯原温泉からほど近い霊園の直下に野湯はあった。
郷禄温泉を目指して温泉探査を続行。途中、メンバーの記憶から確か
手前の茅森地区に野湯がある筈だということで、周辺を探査。川向う
に人影を見つけ尋ねようと近寄ったら偶然その場所に湯船を発見した。
【Data】単純温泉 33.9℃ PH9.3(程度) 源泉:茅森温泉
浴感:湯船にはお湯が張られていない。源泉はホースから掛け流しに
されていたので、手湯、足湯、顔湯で浴感を確認ぬる~いツル
ツルのまったり湯であった。その後、地元民専用となっていた。
与謝野晶子は美作三湯の湯原温泉にも足跡を残している。
この方の旺盛な芸術旅は全国にまたがり筆者の行く先々
こうした石碑を発見する事になる。後を追うかの如くに。
碑文:かじか鳴き 夕月映り いくたりが 岩湯にあるも みな高田川 (晶子)
解釈:清流に月影が揺れてあちらこちらの岩に潜むカジカ蛙の鳴き声が趣き深い
参考:他に湯原温泉で呼んだ歌がある。夫妻の掛け合い歌は昭和8年夏、温泉街
に架かる「鼓橋」を詠んだ
「鼓橋を わがのる乗合自動車 渡りゆけば 礼する娘あり いで湯の街」…鉄幹
「鼓橋 湯山の橋を渡るなり 奧美作の夏の夕暮れ」…晶子
映像:他の入浴者もいるので撮影は限定。ほんの片隅に温泉達人を配置し撮影。
湯原温泉名物露天風呂と言ったら「砂湯」だ。背景の巨大なダム構築物が圧巻。
筆者もいろいろ露天風呂を巡ったが恐らくこれだけの雄大さはここだけだろう
日本一の露天風呂といっても良い。しかし、混浴なので入浴マナーは守るべし。
【Data】単純温泉 45℃ PH9.0 源泉:砂湯源泉(共同源泉) 推定毎分60ℓ。
映像:湯原温泉街中心部にある湯元から出現したという薬師如来を祀る薬師堂。
鳥取県から岡山県北部へ移動して来た。美作三湯の一つ湯原温泉だ。
この温泉も古い。豊臣秀吉時代まで遡る。過酷な労働で疲れた体を
自然湧出の源泉で癒したのだ。その名残が残る川原の砂湯が有名だ。
映像:建て替えられた共同浴場「株湯」の重厚な浴室湯壺(BY公式HP)
三朝温泉の名物共同浴場が「株湯」である。ここも他の共同浴場同様
建て替えられていた。北陸、山陰の共同浴場は羨ましい程に建て替え
が進んでいる。7年前にひしめく様に入った湯壺は足湯として保存だ。
【Data】単純弱放射泉 45.6℃ PH7.0 ラドン(RN)53.8×10(10乗)CI/kg
源泉:株湯1号2号混合泉
参照#山陰地方 温泉地 探査紀行
映像:三朝温泉三徳川かじか橋の中央部欄干に与謝野晶子の碑文が刻まれた。
温泉地での歌碑といったら圧倒的に与謝野晶子であろう。全国の温泉地で
夫与謝野鉄幹と夫婦歌会を開催し温泉地を巡った。歌会は収入にもなるし
温泉好きも由来している。全国の著名温泉地に与謝野夫妻の足跡がのこる。
碑文:川浪が雨の裾をば白くする
三朝の橋を越えてこしかな (晶子)
対句:清き瀬の岩にすがり月まつと
渓の河鹿の吹ける口笛 (鉄幹)
解説:与謝野鉄幹と与謝野晶子の夫婦は仲睦まじいものでも有名であった。
なかば駆け落ち同然というか晶子の押しかけ婚であり鉄幹は前妻と
別れた。晶子の歌は三朝の橋を越えるほどの勢いを歌っているのに
鉄幹のは月見に河鹿の囀りを聴く穏やかな歌の内容で対照的である。
映像:木下杢太郎の歌碑
三朝温泉露天風呂:川原の湯に浸かったら火照った体を散策で冷やすのもいいだろう。
三徳川の土手つたいに文学の道がある。三朝を訪れた歌人・文人の歌碑が立っている。
小道は苔むして、枝葉が垂れ、雑草が生え宿泊客が散策している様子もなく、寂しい。
碑文:仕事をえ つかれいたわる 百姓
あたまをならべ 外湯にはいる
解説:仕事帰りの百姓が疲れをいやすため川原の湯に頭を並べて
はいり、よもやま談義をしている様が目に浮かぶようだ。
木下杢太郎:医師、文学者として昭和初期から終戦まで活躍、森鴎外への師事パンの会
主宰作家としては地味であるが、与謝野鉄幹らとの親交もありその縁で三朝温泉
にも足跡・歌碑がのこされていると推察。寧ろ皮膚医学界の権威として知られる。
映像:河原の湯で寛ぐ山陰温泉探査のメンバー達。この景観どこかで見たことがある
岐阜、下呂温泉の噴泉池だ。飛騨川の橋上からの露天風呂の眺めは似ている。
三朝温泉の露天風呂といえば「河原の湯」。山徳川にかかる三朝橋から眺められる。
前述の三朝音頭のモニュメント脇を川原に下りるとある。三朝温泉も河原から発展
の温泉地と理解できる。河岸の温泉街はこの泉源に沿って形成といって過言でない。
【Data】単純射能泉 60.1℃ PH8.12 ラドン=38.5/10.9/28.9(Me/kg)
源泉:町有源泉(河原の湯)
参照#下呂温泉噴泉地露天風呂
三朝温泉には多くの文人歌人が訪れた。その中でも有名な三朝音頭の歌人
野口雨情が挙げられる。後に、彼の作った歌詞を題材に映画「三朝音頭」
が上映された。そのワンシーンを切り取ったのが、三朝橋の袂にある像だ。
歌碑:ないてわかれりや 空までくもる
くもりや 三朝が雨となる
歌意:愛する二人、当時温泉場は男女の出会い、別れの場所であった。切ない歌だ。
解説:当時、野口雨情と中山晋平の売れっ子コンビのいまでいうニューミュージックだ。
この2人が実際に三朝温泉を訪れ歌会を開いたのだ。温泉地はなにも娯楽の無い
時代にあって社交界最大のイベント、交流の場であった。銅像はそのモニュメント。
山陰三朝温泉は丹後城之崎温泉、伊豆湯河原温泉、上州草津温泉と並ぶ多くの文人が訪れた。
旅館に長期滞在し小説をとか舞台になった温泉地は全国にある。津軽海峡下風呂温泉の井上
靖(海峡)、越後湯沢温泉の川端康成(雪国)、別府温泉の織田作之助(雪の夜)、湯村温泉の早
坂暁(夢千代日記)など、この三朝温泉も叉著名な文人が来訪、与謝野鉄幹・晶子、野口雨情、
志賀直哉、斎藤茂吉、島崎藤村等。温泉は文学者の心象をもピュアに引き出す地球の恵みだ。