孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ経済崩壊 権力に固執するかつての独立の英雄

2007-07-11 14:04:56 | 国際情勢


昨日目にしたニュース。
「ジンバブエでは9日までに、政府が課した価格統制に従わない企業に対する取り締まりの一環として、1328人の商店主や企業経営者が逮捕された。
政府は2週間前企業に対し、すべての商品とサービスの価格を半額にするよう指示した。
これは悪化するインフレの抑制を目的に指示されたものであったが、広く無視されていた。
ムガベ大統領は前週、不当に利益を上げている企業は政府が差し押さえ国有化すると警告していた。
最新のインフレ率は、4月の段階で3714%とされている。現在は、5000%を超えていると見られている。」

私には“ジンバブエ”というより、“ローデシア”という名の方がピンときます。
南アフリカに隣接する国で、かつては少数白人による黒人人種差別政策で悪名が高かった国です。
田中 宇氏のレポートなどをもとに、その後の展開を少し長くなりますがなぞると次のようなことです。

白人支配に抵抗していた黒人勢力にイギリスも支援し、1979年、白人を追い出さないことを条件に黒人勢力への政権移譲が行われ、黒人中心の国として独立しました。
国名も“ローデシア”から“ジンバブエ”に変更されました。
この時の指導者の一人が現大統領ムガベだそうです。
ムガベを指導者とする黒人勢力と、白人農場主の勢力、イギリス政府の三者間で、独立後に白人が所有する農場を没収せず、市場価格で買い取るという合意がなされました。

当初ムカベ政権は、白人農園主から政府が土地を市場価格で買い取り、それを黒人の貧しい人々に再分配する計画でした。
しかし、鉱物資源の相場が下がったり、政治家の人気取りのための無理な建設事業を続けたりしたため財政が悪化し、購入が難しくなりました。
ムガベはイギリスやアメリカ、国際機関などから資金借り入れでこれをまかないました。

土地の配分を受けた黒人農民の多くは営農技術を何も教えてもらえないまま土地だけ与えられたため、農業生産、およびその輸出は著しく減少しました。
また、土地分配に伴う大統領関係者の不正もあって、イギリスは融資を渋り始めました。

ムガベ大統領は、事態打開のため「イギリスの植民地となり、黒人が先祖代々耕してきた農地を白人に奪われたとき、黒人は何の補償も受けられなかった。だから今、白人が独占する農地を没収して黒人に返しても、ジンバブエ政府は何も補償する義務はない。白人が補償を求めるとしたら、その相手はイギリス政府になるはずだ」と主張し始めました。
当然、イギリスは独立時の合意と違うということで援助を打ち切ります。

97年には、国際金融危機の影響でジンバブエの通貨も急落して外貨が底をつき、外貨の裏付けがないままお札だけを刷り続けたのでインフレがひどくなり、失業率も7割に達し、国民の平均所得は独立当時より3割も下がってしまったそうです。
国民の不満に対し、ムガベは憲法を改正して大統領権限を強化して自分の地位を守るとともに、白人農場に動員された黒人民衆が押しかけ接収するという、民族主義の扇動で対応しました。

現在の状態についてみると、2006年の経済成長率はマイナス4.4%とアフリカで最低を記録、失業率は80%、工場の稼働率は30%程度で供給が不足、トウモロコシは必要量の3分の1程度の生産しかなく、膨大な内外債務を抱えている・・・と経済崩壊状態。
この中で紙幣だけ印刷しまくり対外債務の返済にあてた結果、年率5000%という第二次大戦後最悪のハイパーインフレーションを引き起こしました。

ハイパーインフレーショーン対策は、通貨供給の抑制、財政健全化などがあるのでしょうが、とにもかくにもこの事態の責任者であるムガベ大統領が責任をとって辞職し国民の政治への信頼(そういうものがあればの話ですが)を取り戻したうえで、IMFなど専門チームの協力を仰いで再建策をとるべきと思うのですが・・・。
独立の英雄がその後独裁者に化し、政権に固執するというのはよく見るパターンです。
恐らく、いろんな不正行為もやっているので、政権を追われたときの追求・報復が怖くて政権を手放せないのでしょう。
政策がうまくいかないとき民族主義を煽り、国民の目をそらそうというのもよくあるパターンです。

経済破綻以外にも他のアフリカ南部諸国同様、高いHIV感染の問題もあります。
民主化の社会的基盤のない状態でスタートして、離陸できないまま自滅崩壊していく社会の事例を見ると「どうすればいいのか・・・?」と暗澹たる気持ちになります。

この国で有名なものは先ずビクトリアの滝。
もうひとつはグレート・ジンバブエ遺跡。
大規模な石の建造物からなるこの遺跡は、白人支配時代は“誰が作ったか定かでない謎に包まれた遺跡”とされていました。
「文明を創造するに値する優秀な人種は白人のみで、先住の黒人にこのようなすぐれた遺跡を残す文明などありえない。」という考えです。
フェニキア人、ユダヤ人、あるいはアラブ人によるものではないか・・・と推測されたりしていましたが、その後の調査で14世紀頃この土地で栄えた先住民によるものとわかりました。
このような調査結果も、ローデシア白人政府、白人保守社会には受け入れられなかったそうです。
写真はグレート・ジンブブエ遺跡の石壁
(“flickr”より By Julie and Nick)

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