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上のグラフは、昨日とりあげた米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が今月24日に発表した国際世論調査「GLOBAL OPINION TRNDS 2002-2007」の中の1枚です。
タイトルは「Wealth and Happiness」(豊かさと幸せの関係)。
横軸は各国の一人当たりGDP。
縦軸は一応“Happiness”を表す指標ですが、少々説明が必要です。
“the worst possible life”が“0”、“the best possible life”が“10”という基準で、調査対象者に今の自分の生活を10段階にランク付けしてもらいます。
この基準で“10~7”に自己判断した“High”グループの割合を持って“Happiness”あるいは“life satisfaction”(生活満足)の指標としたのが冒頭グラフの縦軸です。
単に現在の暮らしが社会的にみて上流か否かというだけでなく、過去の生活状況との比較、将来への希望なども影響する概念と思われます。
内戦が終結した国と紛争解決の出口が見えない国では、その評価も変わります。
年金制度への信頼も影響するでしょう。
人種差別・身分制度などによる社会的流動性の制約も影響するでしょう。
自分が答える場合、“possible”ということをどのように考えるかはいささか悩むところではあります。
“自己破産して、ホームレスになって、首をくくる”事態もpossibleな状態か?
“3億円宝くじが当たってセレブな生活”というのもposssibleか?
個人によって想定の範囲は相当に異なるでしょうが、約700~1000名ほどの対象者全員の回答を総合して比較すれば、そこに出てくる差は何らかの意味を持つものではないかと思えます。
グラフを見ると、地域によって特徴があるのがわかります。
横軸のGDPが限りなくゼロに近い1000~2000ドル付近に赤いマークが集中しています。
これがアフリカの国々です。
しかし、同じような低所得にも関わらず、Happinessの度合いは大きく異なります。
上位の2カ国はエジプト(37%)、ナイジェリア(35%)です。
下方の2カ国はウガンダ(7%)、タンザニア(10%)です。
国内社会情勢の反映でしょうか。
よく見ると、GDP13,000ドル付近に赤いマークがひとつあります。
これは南アフリカ(36%)です。
高所得について、白人富裕層の影響か、国民全体の底が上がっているのかはよくわかりませんが。
5年前の2002年調査と比較すると、アフリカ諸国のHappinessの中央値(メジアン)は18%→21%と3ポイントの増加と、他地域に比べ比較的小さな改善にとどまっています。
曲線で示されたGDPとHappinessの関係(回帰線)から大きく上方にずれてオレンジのマークが集中しています。
これは南米諸国です。
現在のGDPは数千~15,000ドルほどですが、そのHappinessは西欧・北米諸国と同レベルにあります。
GDP10,000ドルぐらいのメキシコが76%(調査国中でトップ)、ブラジルが63%、他の南米諸国も高いHappinessを示しています。
気質の反映とも考えられますが、それだけでもなさそうです。
5年前と比較すると南米諸国の中央値は44%→59%と15ポイント大きく改善しています。
単に気質の問題なら5年前も今も高いはずで、5年間で大きく変動したということはこの5年間の何らかの変化の反映と考えられます。
実際、これらの国々はここ数年経済成長を実現していますが、他の地域に比較して特別高い成長でもありませんので、経済成長率だけの問題でもなさそうです。
回帰線をはさんで、南米諸国の反対側に位置している緑マークは東欧諸国です。
このグループの中でGDP、Happinessともに比較的高いのがチェコ(約25,000ドル、42%)です。
Happinessが一番低いのがブルガリアで17%。ただ、ブルガリアは前回02年はアフリカ諸国より低い8%しかなく、これでもこの5年で9ポイントの改善は見せています。
どのような国内事情にあるのでしょうか。
ロシアはGDPで13,000ドル付近、Happinessで23%と、西欧・北米に比較するとかなり低い数値になっています。
ロシアはここ5年間でGDPは42%増加していますが、Happinessは18%→23%と5ポイントの改善に留まっています。
東欧諸国全体で見ると、G DPの成長率は他の地域を圧倒して36%という非常に高い成長を示し、それに沿う形で、Happinessも11ポイント改善しています。
回帰線に沿う形で広範に散らばっている青っぽいマークがアジア諸国と中東諸国(グラフ上での判別は困難です)です。
アジア諸国の中でGDPが一番右に位置するのが日本(GDPで34,000ドル付近)ですが、そのHappinessは43%(ここ5年間で5ポイントの改善)と同程度のGDPを示す西欧諸国(薄紫のマーク)に比べかなり低い数値となっています。
これは日本的謙譲の美徳のあらわれでしょうか?それとも社会問題の反映でしょうか?
日本の次に位置しているのが韓国で、GDPは25,000ドル付近、Happinessは日本より高い48%。
ただ、韓国のHappinessはこの5年で4ポイント低下しています。
逆に、GDPがアフリカ諸国の赤いマークと重なっているのがバングラデシュで、Happinessも17%に留まっています。
なお、中国はGDPが8000ドル付近でHappinessは34%、インドは4000ドル付近で41%と、その低い所得水準からすると、インドのHappinessの高さが目立ちます。
両国はさすがにこの5年間で、各々12ポイント、11ポイントという大幅なHappinessの上昇を見せています。
調査対象が中国約3000人、インド約2000人ですから、あの人口と大きな社会較差をどのように反映した調査結果であるかについては問題が残りますが・・・。
中東諸国で飛びぬけているのがイスラエル(30,000ドル強、68%)です。
ヨルダン、レバノン、トルコ、エジプトといった国が、Happinessで25~28%付近に集中しています。
さすがに富裕国クウェートのHappinessは46%です。
30,000ドルを超える付近に点在する薄紫色のマークが西欧諸国です。
しかし、Happinessには差があり、スェーデン(72%)、スペイン(66%)に対し、ドイツ(48%)、イタリア(48%)となっています。
なお、イギリス・フランス・ドイツ・イタリアのこの5年間のGDP成長率は7%と地域間では一番低く、Happinessの改善も0ポイントと最低になっています。
最後にグラフ右上に残るのがアメリカ(約45,000ドル、65%)、カナダ(約36,000ドル、71%)の北米です。
世界各国の置かれた現況、地域・国家間の格差が窺える興味深いグラフです。