(写真は2005年5月7日にイラクで起きた自爆テロに巻き込まれた女子学生
“flickr”より By kungfu gomez)
米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が今月24日に発表した国際世論調査が話題になっています。
その要旨は「一般市民が巻き添えになる例が絶えないイスラム過激派による自爆テロについて、この行為を正当化する考え方が世界のイスラム社会で急速に減少している」というものです。
調査結果の集計値は次のようなものです。
“自爆テロを正当化する”との回答を02年と今回の調査で比較すると、レバノンは74%から34%、パキスタンは33%から9%、世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアが26%から10%といずれも半分以下に減少。ヨルダン、バングラデシュなどでも大幅に減っています。
しかし、ナイジェリアは相変わらず高く、パレスチナ自治区は前回調査がありませんが70%と群を抜いて高い自爆テロ支持の結果となっています。
同調査によると、パレスチナ自治区ではヒズボラやハマスといった過激武装勢力に対しても好意的です。
また、ヨルダンで03年の56%から今回の20%に低下するなど各国で落ち込んでいる国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者に対する信任も、パレスチナ自治区では57%の高率になっています。
この調査の性格がよくわかりませんので、「どこまでこの結果を信用していいのか・・・」という問題がありますが、パレスチナのような厳しい状況下にある地域は別にして、一般的にはイスラム社会でも、とめどない暴力の連鎖、一般市民の被害に対してこれを厭う気分が広がっているようです。
しかし、現実の自爆テロは減少する気配が見えません。
「イラクの首都バグダッドで7月25日、2件の自動車爆弾による自爆テロが相次いで発生、サッカーの第14回アジアカップの準決勝でイラクが韓国を破って決勝進出を決めたことを祝っていた市民ら少なくとも26人が死亡、多数が負傷した。」
「イラク中部のヒッラにある小児病院前で7月24日、自動車爆弾を使った自爆テロがあり、少なくとも26人が死亡、69人が負傷した。地元警察官によると、負傷者の大半は女性と子どもとのこと。」
「パキスタンで7月19日、自爆テロが2件発生し、少なくとも36人が死亡した。このうち1件は中国人労働者と治安部隊の車列が標的となった。警察当局は、事件は首都イスラマバードで今月起きた「赤いモスク」への強行突入に対する報復との見方を示している。」
「パキスタンの首都イスラマバードの「赤いモスク」付近で7月27日、警官隊を狙った爆発があり、14人が死亡、70人以上が負傷した。警察当局によれば、犠牲者の半数以上は警察官だった。事件は、再開されたばかりの赤いモスクで金曜礼拝に集まったイスラム教武装集団タリバンを支持する神学生らが再び一時的にモスクを占拠。警官隊と衝突する最中に、モスクから数百メートル離れたイスラマバード有数のマーケットで発生した。」
「アフガニスタン南部のウルズガン州で7月10日自爆テロが発生、17人が死亡、約30人が負傷した。地元警察によると、ウルズガン州を通りかかったNATO主導部隊に、男が徒歩で近付き自爆したという。死亡した17人は、いずれも民間人だった。」
「モロッコのカサブランカで4月10日未明、治安部隊の取り締まり中に武装勢力のメンバー1人が死亡、ほかに1人が自爆する事件が発生した。また数時間後には同市内で別の自爆テロ事件が発生し、自爆した1人が死亡している。」
「ソマリアの首都モガディシオで6月3日、市内北部にあるアリ・モハメド・ゲディ首相の自宅を狙った自爆テロがあり、警備員ら6人が死亡、7人が負傷した。ゲディ首相は無事だった。」
「パレスチナ・カザ地区北部の町ベイトハヌンで2006年11月6日、18歳少女によるイスラエル軍を標的とした自爆攻撃が決行された。少女はイスラエル軍の攻撃が集中している同町で、爆発物を仕掛けたベルトを胸部に巻き、イスラエル軍の部隊へ歩み寄り自爆した。」
探せばいくらでも出てきます。
「ピュー・リサーチ・センター」の調査結果が現実を反映したものであり、今後このような悲劇が減って行く事を願いますが、紛争が続くかぎり、追い込まれれば追い込まれるだけ、憎しみの連鎖は消えないのでは・・・という悲観的な思いもします。
憎しみを消せるのは武力ではなく、公正な社会と経済の向上の実現だけでしょう。
なお、上記調査は各国700から1000人程度(パキスタンは2000人)の対象者に今年4月から5月にかけて面接方式で行ったもののようです。
概要は以下のアドレスにあります。
http://pewglobal.org/reports/display.php?ReportID=257
全文は以下のアドレスです。
http://pewglobal.org/reports/pdf/257.pdf
ともに英文で、特に全文は本文だけで88P、資料等まで入れると168Pに及ぶものです。
調査内容は紹介した“自爆テロ”だけでなく、各国の生活満足度、政府への評価など、非常に興味深いものです。いかんせん英語なので私はパスしましたが。
数字だけ見ても面白いものがありました。
「次世代が今より良くなっているか、悪くなっているか?」という問いに対する各国の答えを見ると、日本は“良くなる”が10%で、47カ国中イタリアと並び最下位、“悪くなる”は70%で、フランス(80%)、ドイツ(73%)に次いで3番目に高い値になっていました。