孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

治安悪化が続くソマリア 弱肉強食の世界に展望は開けるか?

2007-07-19 14:39:13 | 国際情勢

アメリカ・エチオピアの介入への抗議集会へ銃を持ち参加するソマリア女性
2006.11.28
(“flickr”より By farkassarah)

昨日18日の南日本新聞から。
「治安悪化が続くソマリアから数百キロ離れた対岸イエメンへ船で脱出しようとして死亡する難民が急増している。
今年前半だけで死者367人、行方不明118人。
死亡した難民の多くは50ドル程度を払って密航船に乗った後、業者に海に突き落とされたり殴り殺されたりしたもの。
なお、無事イエメンに到着したのは8600人以上」

ソマリア・・・あまり馴染みがない国です。
東アフリカの“アフリカの角”と呼ばれる地域、西をエチオピア、南をケニアに接する国。
恐らく、映画「ブッラクホーク・ダウン」の舞台となったところと言えば、「ああー、あの滅茶苦茶なところね・・・」と思い出される方もおられるかも。


もともと部族対立、隣国エチオピアとの紛争の絶えない国でしたが、それまで政権をバックアップしてきたアメリカが東西冷戦終結を受けて手を引いたこともあって、91年バーレ政権が崩壊、氏族間の内戦状態に入りました。

このソマリア内戦で30万人が餓死するという惨状に国連がPKO活動で介入、アメリカを中心とする多国籍軍を派遣します。
当時一番勢力の強かった氏族のアイディード将軍は国連に宣戦布告。
92年、アイディード将軍側近を拉致しようという作戦中のアメリカ軍ヘリが撃墜され、その兵士を救援すべく展開されたアイディード将軍派とアメリカの間で行われた市街戦(モガディッシュの戦闘)を映画したのが「ブッラクホーク・ダウン」。
(映画の評価については、“アメリカのプロパガンダ映画ではないか”という批判もあります。確かにプロパガンダと見るかどうかはともかく、ソマリア側からの視点は一切ない映画ではあります。
プロパガンダと言うより、兵士の遺体を回収すべくいかに頑張ったかというエクスキューズ映画とも思えますが。)

市街戦後、アメリカ軍兵士の死骸が市民によって街を引き回されるというショッキングな映像が世界に配信され、アメリカ国民に厭戦気分がひろがりクリントン大統領は結局ソマリアから撤退します。
アメリカを欠いては国連活動ができないのが現状で、国連活動も撤収するところとなりました。

その後は文字どおりの“無政府状態”が続いていましたが、近年イスラム原理主義勢力「イスラム法廷会議」が、治安の悪化した市街地などでイスラム法にのっとった自警団的な役割を果たす集団として国民の支持を拡大、人気と武力を持ってソマリア南部を制圧。
06年6月には首都モガディシュを占拠しました。

ソマリア国境で民族紛争を抱えるキリスト教国エチオピアは、自国内部族がイスラム急進派によって刺激されるのをきらい、「イスラム法廷会議」に対し「暫定政府」を支援するかたちで軍事介入します。
「イスラム法廷会議」はアルカイダとも関係があると見られているため、エチオピアの介入をアメリカも支持。

昨年末には「暫定政府」・エチオピア軍は首都を奪還し、その後も「イスラム法廷会議」勢力を国外へ追い出しますが、国内に反政府勢力が残存し、治安は回復していません。
アフリカ連合(AU)の平和維持軍は結成さましたが、各国財政難のため、事実上はあまり機能していません。
以前から対立するエチオピアに対するソマリアの国民感情は悪く、エチオピアとしても泥沼化する介入・増大する犠牲者に困惑しているとも伝えられています。

簡単に経緯・状況をみると以上のようなところですが、こうした混乱状態のなかで冒頭ニュースのような悲劇が起きています。
“密航船に乗った後、業者に海に突き落とされたり殴り殺されたり・・・”
もはや言葉を失います。
人権とか民主主義とか、そんな言葉とは全く無縁の世界、弱肉強食の世界、ジャングルの掟が支配する世界です。

映画「ブッラクホーク・ダウン」で、群がる住民に乱射して国際支援物資を強奪する武装勢力のシーンが思い出されます。
実際、国際支援物資の相当部分が強奪されたようです。

以下は、現地で(ソマリアは治安が悪すぎるので、ケニア領内の難民キャンプで)難民の支援活動をされている佐野治助教授のページからのソマリア国内の様子に関する抜粋です。
http://www.manabi.pref.aichi.jp/general/10001994/0/kouza/section3.html

「当時の新聞の報道でいうと、70%の援助物資が強奪されたということです。その強奪された援助物資はどうなるかというと、武器を買う資金にするわけですね。だから、援助すればするほど武器が出回るという悪循環が起こっていました。援助物資を輸送する車は、絶対に途中で止まらないのです。僕が見ていたときも、二人くらい轢かれているのですが、絶対に止まらない。止まると全部強奪されてしまうからです。何百万人と飢餓状態にありましたから、それをまず助けるため、その援助物資がしっかり送られるための平和維持活動なのです。」

どのように対応すればいいのか立ち尽くすような状況ですが、ソマリア国内では治安回復・和平への取組みも行われています。
ソマリア暫定政府のユスフ大統領のもとで、これまで数回延期されてきたソマリアの国民和解会議が各部族代表者を集めて今月15日首都モガディシオで開幕しましたが、会場付近に迫撃砲7発が着弾したため再度今日19日に延期されました。

迫撃砲は大統領が開会の演説をしている最中に会場から500メートルの地点に着弾しましたが、大統領は演説を続行し、「武装勢力がたとえ原子爆弾を落としてもわれわれは動じない。武力による支配はもう通用しない」と述べたそうです。

会議の延期は、海外からの関係者を乗せて到着する飛行機の安全がはかれないから・・・ということもあると聞きます。
「ソマリアでそんなこと言ったら永久に会議は開けないよ・・・」との声も。
今日の国民和解会議がなんらかの実りある結果に結びつくといいのですが。

コメント
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