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(写真は、トルコ総選挙の街頭風景 “flickr”より By noyan7)
トルコでは今日22日、当初11月に予定されていた総選挙が前倒しされて繰上げ投票が行われます。
選挙ではエルドアン首相率いるイスラム主義の与党・公正発展党(AKP)に政教分離の世俗派野党・共和人民党(CHP)などが挑むかたちになっています。
事前の世論調査によると、与党の圧倒的勝利が予想されているようです。
今回総選挙が前倒しされたのは、今年4月の大統領選挙で大統領を選出できず中止においこまれたことによるものです。
イスラム主義の与党AKPはアブドラ・ギュル外相を大統領候補に擁立しましたが、「イスラム教が生活のいたる場面に浸透するのでは」と批判する政教分離を唱える世俗派野党は投票を棄権。
このため大統領選出ができませんでした。
また、政教分離を強く擁護する軍部は、トルコの政教分離体制が脅かされていることに強い警戒感を示し、「必要ならば、我々の立場と態度を明確に示す」と表明しています。
軍は国父ケマル・アタテュルクの敷いた西欧化路線の護持を望んでおり、近代的国民国家のあり方に反しない範囲に宗教を統制しようとする世俗主義派の擁護者としての性格を持っています。
実際、過去2回、60年と80年にクーデターを起こしたことがあります。
いずれのときもイスラム化の拡大を抑えることが軍のクーデターの背景にあったと言われています。
通常期においても、三軍司令官を含む国家安全保障会議が事実上の内閣の上位機関として存在し、この国家安全保障会議を通じて内閣に圧力をかけ、退陣に追い込むことも少なくないそうです。
政教分離を“普通のこと”のこととして受け入れている日本にあって、また、個人的にも宗教的要素が薄いこともあって、イスラム主義政党の進展ということには危惧を感じます。
しかし、軍と与党AKPの関係は単に“政教分離”対“イスラム主義”というだけでないとも言われています。
与党AKPはイスラムを重視する政党ではありますが、一方では最も親EU派でナショナリズム色が薄い、原理主義とは一線を画した政党であるとも言われています。
一方、軍上層部はある意味特権階級であり軍はその既得権益に固執し、また、クルド人・イスラム主義者への不当な人権抑圧、キプロスへの軍事介入、政治家の不法逮捕などを行ってきたとされます。
与党AKPはこのような情勢下で、軍の介入を受けながらもクルド人・イスラム主義者の迫害を抑えるなど一定に民主化を進め、EU加盟を推進してきました。
また、いたずらにイスラム化が問題にならないように、例えば“国会議場でのスカーフ着用問題を回避するため、女性立候補者はすべてスカーフを着用しない人物を登用する”など、AKPはイスラム色を抑える行動をとってきたとも言われます。
一方で社会のイスラム化は徐々に進展し、イスラム学校出身者のほうが公務員に採用されやすいとか、酒類の販売への圧力が大きくなっているといったこともあると聞きます。
宗教と政治の関係はイスラム世界だけの問題ではなく、アメリカでもキリスト教右派と呼ばれる人々が“中絶反対”などで政治に対し大きな力を持つようになってきているとも言われます。
宗教が政治に持ち込まれることによって、何かことがあったとき、その問題が宗教対立という“理解しあえない問題”にされて、宗教的情熱によって問題が過激化・先鋭化するのではないかという危惧、異なる宗教・異なる価値観の人々の権利がどのように保障されるのかという危惧があります。
例えばAKPの力が強まりイスラム化が更に進めば、AKPの進めてきたEU加盟は更に難しくなるのでないでしょうか。
特に政教分離を厳密に支持するフランスのサルコジ新大統領は、イスラム色の強いトルコ加盟に反対しているとも聞きます。
そのような“衝突”がおきたとき、これまでのようなイスラム色を抑制した対応が維持できるでしょうか。
イスラム主義与党AKP圧勝が予想される今回の選挙の今後が気になります。
(宗教と政治の関係以前の問題として、“今なぜ人々がイスラムを、あるいは宗教を求めるのか”という問題もありますが、大きすぎるテーマなので今回はパス。触れる機会が別にあればそのとき。)