孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイでは改憲阻止、韓国では牛肉輸入再開反対・・・国民の直接抗議活動激化

2008-06-01 14:06:30 | 世相

(韓国 アメリカ産牛肉輸入再開に抗議する“ろうそく集会” 写真は5月2日のものですが、31日にはソウル市庁前広場を数万人が埋め尽くしました。ろうそくの火で怪我人がでないだろうか・・・なんて余計なことを思ってしまいます。“flickr”より By Kim Pierro http://www.flickr.com/photos/kimpierro/2475167579/)

【タイ 改憲の動き】
タイの反政府活動が激しくなっています。
タイでは一昨年の06年9月に“恒例の”軍事クーデターによってタクシン政権が倒れましたが、07年8月に行われた軍事政権による新憲法に関する国民投票で反対票が4割を越え、このことで5月解党されていた旧与党・タクシン支持勢力が勢力を回復。
既存の小政党「国民の力党」(PPP)を乗っ取るかたちで、前バンコク知事サマック氏を担ぎ、昨年12月の総選挙に勝利。
軍事政権からサマック政権への民政復帰を果たし、国外生活を強いられていたタクシン元首相も帰国を果たしました。

流れ的には、タクシン前首相とその支持勢力が権力を奪還したように見えます。
ただ、首相に担がれたサマック現首相は子飼いのタクシン派ではないため、独自色を出したいサマック新首相とタクシン復活をアピールしたいタクシン支持議員の間では、政権スタート時から実権をめぐる綱引きも報じられていました。

今年3月、下院議長だったヨンユットPPP元副党首の選挙違反の疑いを最高裁が審理すると決めたことで、改憲論議が表面化しました。
現行憲法では党幹部の選挙違反が認められた場合、憲法裁が与党PPPの解党命令や党幹部の公民権停止を判断できると定められており、PPP解党の可能性が出てきたためです。
PPPなど与党勢力はこの条文の改正を国会で求めましたが、 野党は「党利と特定人物のための利己的な動き」と批判。

【高まる反対運動】
サマック首相は、国会での政治混乱を避けるため、憲法改正案の是非を問う国民投票を7月初旬に実施する考えを明らかにしました。
この改正案は、現行憲法の大半を見直し、最も民主的と言われた「97年憲法」に戻す内容になっています。
これによれば、先のPPP解党問題だけでなく、タクシン元首相を起訴した機関の正当性も失われ、タクシン元首相の完全復帰にも道が開けます。
これに元首相の復権阻止を掲げる市民団体が抗議集会を開くなどして、緊張が高まっているのが現状です。

この緊張が高まるなかで、チャクラポップ首相府相が30日、サマック首相に辞表を提出しました。
タクシン元首相の忠実な側近として知られ、元首相復権の道を開くため、現行憲法の改正を推進する動きを見せていた人物です。
昨年9月の講演で、国王の顧問機関である枢密院を「旧態依然たる体質」などと批判する発言をしたことが、「不敬発言」として注目され、警察が不敬罪容疑で立件する方針を発表したため、辞任に至りました。
この背景には、チャクラポップ氏のあからさまな元首相支持姿勢が危険視されたことがあり、チャクラポップ氏は「私は政治ゲームの犠牲になった」と話し、水面下で続くタクシン派と反タクシン派の暗闘を示唆したそうです。【5月30日 毎日】

なお、枢密院のプレム議長は長く首相や陸軍司令官を務め、プミポン国王の側近とされていますが、もともとタクシン氏と折り合いが悪く、元首相派からクーデターの黒幕と批判されていました。
ここで言う“反タクシン派”は、PPP外部の野党勢力なのか、サマック首相等のタクシン元首相とは一線を画したい勢力のことなのか、その両方なのかはよくわかりませんが、反タクシン派もまだ相当に力を保っているように思えます。

開発を求める東北部・北部では圧倒的な支持があるタクシン派ですが、首都バンコクではタクシン元首相の強権的かつ金権的政治体質に反対する空気が強く存在します。
06年の軍事クーデターもそのような反タクシンの動きを背景にしたものでした。

改憲に反対する市民団体・反政府勢力は、首相退陣などを求めてバンコク中心部の首相府近くの道路を約1週間占拠・封鎖してきましたが、チャクラポップ首相府相の「不敬発言」問題でその勢いを増していました。
同氏の辞任(事実上の解任)は、この動きを沈静化しようというサマック首相の判断とも言われています。

【衝突は回避】
しかし、その抗議行動はなお続いているようです。
約5000人の反政府勢力は当局の指示する退去を拒否しており、31日には、警察機動隊などを動員し、強制排除の態勢に入ったこと、また、クーデターのうわさも飛び交っているとも報じられています。【5月31日 読売】

「タイのサマック首相は31日、首都バンコクで連日行われている市民民主連合による反政府デモに対し、強制排除すると警告したが、後ほど撤回した。旧市街の国連建物付近の主要道路ではデモ隊6500人に対し機動隊約1200人が出動した。」【6月1日 AFP】ということで、一応、衝突は避けられたようです。

“クーデターのうわさ”というのは、どうでしょうか・・・。
先の選挙で敗退した軍部勢力は、当然タクシン元首相の復活を苦々しく思っているでしょうから、情勢如何によっては、再度・・・ということもありあえない話ではないとは思われます。

しかし、選挙での完敗で軍部側は相当に意気消沈しています。
クーデター後の権力中枢であった国家安全保障評議会議長代行のチャリット空軍司令官は、選挙敗戦後、「期待通りとは行かなかったが、全力を尽くした。もうクーデターは望まない。国の信用が大きく傷つくからだ」「仮に新政権の運営に誤りがあっても二度とクーデターは起きないだろう」と語っています。
また、06年9月のクーデターを率いたソンティ前陸軍司令官は、当時英国に滞在していたタクシン元首相と電話で協議したことを明らかにして、「兄弟のように率直に語り合った」と、“和解”を強調していました。
(新政権の軍部への報復を避けるための和解と見られています。)
まだ、選挙敗戦から半年、敢えて政治の前面に再び出る気力が軍部に残っているでしょうか?

【韓国 アメリカ産牛肉問題】
タイと同じように反政府抗議活動が激化しているのが韓国。
こちらは、アメリカからの牛肉輸入問題です。

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韓国政府が米国産牛肉の輸入制限の撤廃を発表したことを受けた大規模な抗議集会が5月31日、ソウル市庁前で開かれた。主催者は、参加者が10万人を超えたとしている。警察発表では3万8千人。牛肉問題に端を発した一連の集会としては最大規模となった。
87年の民主化宣言を引き出すきっかけとなった「6・10抗争」の記念日が近いことから、市内各地で関連の集会が行われており、これらの集会参加者たちも市庁前に合流した。抗議集会は釜山や大邱など他の都市でも開かれた。
2月に就任した李明博大統領はまもなく政権発足から100日を迎えるが、野党側は内閣総辞職を求めており、与党ハンナラ党の有力者らも、局面打開には閣僚を含めた人事刷新が避けられないと主張し始めている。【5月31日 朝日】
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韓国の警察当局は1日早朝、ソウルの大統領府付近に集結していた市民ら数千人に対し解散を命令、放水車で強制排除に踏み切ったそうです。
5月に始まった一連の抗議行動に対し放水による鎮圧が行われたのは初めてで、韓国メディアは放水や衝突で市民や警官ら数十人が負傷、100人以上が拘束されたと報じています。【6月1日 共同】

【激しい抗議活動】
米国産牛肉の輸入量が世界3位だった韓国は、2003年、BSE問題を理由に米国産牛肉の輸入を停止していましたが、日本同様に輸入再開、問題発覚、再停止を繰り返しています。
昨年7月の抗議活動に関する記事「韓国小売販売最大手のロッテマートは、国内53店舗で牛肉の販売を開始したが、そのうち4店舗で「牛海綿状脳症(BSE)感染リスクがある」と主張する市民団体のデモにより販売中止を余儀なくされた。目撃情報によると、南部の光州市では、数十人のデモ参加者が牛のふんを投げつけた。またソウルでは約100人のデモ隊が警官と衝突したという。」【07年7月14日 AFP】を見て、“日本に比べて随分過激だね・・・、国民性の違いかね・・・”と大変興味深く思った記憶があります。
そんな“国民性”と最近の李明博大統領の不人気も加わって、今回の騒動になっているようです。

【日本の政治意識】
ただ、考えてみると、国民のこうした直接的な抗議活動というようなものを最近の日本では殆ど目にしません。
アジアではフィリピンのピープル・パワーなども有名ですが、アジアに限らず、ヨーロッパ諸国でも同様の市民活動は時折見聞きします。

日本での“政治的穏健さ”は、日本の政治が問題なく行われている証なのでしょうか?
あるいは、日本国民及び日本の政治システムの政治的成熟度合いを示すものなのでしょうか?
あるいは・・・。
日本人の穏健さは“美徳”だと思いますが。


コメント (1)
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