孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト、キューバ  見直される“勤労”、“労働の報酬”

2008-06-13 15:25:29 | 世相

(昨年秋に旅行したエジプト・カイロのガーマ・ホセイン。ラマダンの断食期間だったこともあるのか、平日昼間のモスクの中にではゴロゴロと昼寝をする人々が。ただ、お祈りを促すアザーンが響き始めるとムックリと起き上がってきます。)

【勤労と労働報酬】
日本や欧米社会では、労働に励むことは“善”であり、その労働はその成果に見合った報酬をうけとることができ、そのことが“勤労”のインセンティブになる・・・というシステムが経済社会の根本的な理念です。
そのような考え方が世界中すべてで一般的かというと、必ずしもそうではありません。
“生活に最低限必要とされるだけ働けばよい”と言うふうに勤労のインセティブがあまり強くない伝統社会、労働より宗教活動が優先するような社会、労働の報酬について“平等”を理念とする共産主義社会などでは、また別のシステムが機能しています。

しかし、経済のグローバル化が進むなかで、多くの社会が欧米ルールにより強く影響を受けるようになっているように見えます。
それは、欧米ルールの勤労が経済全体の成長をうながし、個人的な物欲の実現可能性を引き上げるからでしょう。
従来のルールを見直す動きについて、昨日ふたつの記事を目にしました。
ひとつはエジプトのイスラム社会、もうひとつはキューバの共産主義です。
なかなか面白いので、少し長めに引用します。

****「礼拝を減らし労働時間を増やすべし」、エジプト有名聖職者が異例の宗教見解****
【6月12日 AFP】エジプト人のイスラム教聖職者でカタールの衛星テレビ局アルジャジーラのパーソナリティーをつとめるカラダウィ師は、自身のウェブサイト上に「礼拝は10分もあれば充分」とのファトワ(宗教見解)を発表した。同師にとって、エジプト国民の仕事の生産性を上げるための方法はただ1つ、「礼拝時間を減らしてその分仕事に励む」ことなのだ。

■礼拝による中断で仕事の生産性が低下
 1日5回の礼拝は、メッカ巡礼や喜捨に並びイスラム教徒にとって「5つの柱」の1つ。だが正午の祈りと午後の祈りは勤務時間内であるため、多くの会社では日に最低2回、仕事が中断されることになる。
1回あたりの礼拝時間は平均10分だが、コーランの長い章句を読誦する場合はさらに時間が延長される。礼拝前には顔、手、腕、足、頭を清めなければならないため、大きな会社ではトイレを往復する時間もとられることになる。

 カラダウィ師は、礼拝時間を短縮する方法として「お清めは家で済ませてくること」「会社で清める場合はソックスを脱がずに履いたまま水をかけること」などを提唱している。
過去30年間でイスラム教化を推進してきた同国では、礼拝時間が長いことへの批判はことごとく封じ込められてきた。カラダウィ師のファトワは「仕事をしないことへの口実となる礼拝を極力省く」ことを目指したものだが、「礼拝休憩」という深く根を下ろした習慣を覆そうとしているとも受け止められ、非難は必至だ。
その一方で、エジプトの一部の聖職者は同師の主張をおおむね肯定している。アズハル大学のFawzi al-Zifzaf師は、「彼は正しい。仕事の時間を無駄にしてはならないし、礼拝を口実に使うのも許されない」と話している。
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上記記事では、特にお役所での宗教を口実にした非効率性を避難する国民の声も紹介されています。
昨年、エジプトを観光旅行しましたが、お祈りに対する熱心さ・情熱は、当然ながら個人間で相当に差があるようです。
ガイドを頼んだ男性は、時間になると私を待たせてお祈りを始めます。
文化の違いとわかってはいても、機嫌のよくないときは“いいかげんにしろよ・・・”と思わなくもありませんでした。
国民一般がどのように思うのでしょうか?
次はキューバですが、あまりに面白いので、全文引用します。

****キューバ新政権、一連の改革で賃金上限を撤廃*******
【6月12日 AFP】フィデル・カストロ前国家評議会議長(81)の後継として2月に就任したキューバのラウル・カストロ議長(77)は11日、次々と打ち出す改革の一環として、賃金の上限額の撤廃を発表した。統制経済を採用する共産主義国キューバにおいて、賃金の上限は平等主義の支柱のひとつだったが、新政権は生産性を損なっている要因としてこれを撤廃する。
 キューバ国民の平均月給は約17ドル(約1830円)。大半はこれをキューバペソで稼いでいるが、食品や衣料、日常生活に必要な品は国営の外貨専門店でしか販売されておらず、国民はやりくりに苦労している。キューバでは長年、街頭の清掃業から脳外科医まで、大半の職業の賃金差は月額わずか2、3ドル以内だった。新政権は2月に賃金の改革方針を打ち出していた。
「この新賃金体系は、生産性とサービスを向上させる道具としてみなすべきだ」と、労働・社会保障省のカルロス・マテウ副大臣は、日刊の共産党機関紙グランマに語った。マテウ氏によると雇用主は8月までに新体系に移行しなければならない。

 同氏はさらにマテウ氏を引用し「その人の貢献に応じて収入を得るという社会主義分配原則、言い換えれば、(労働の)質と量によって支払われるという原則が達成されるだろう。これまで概して、収入を一定とする傾向があったが、そうした平等主義は有効でなく、修正されるべきものだ。労働者の労働に見合わない賃金を払うことも、払いすぎることも有害だ」というキューバ高官としては異例の談話を披露した。

 前議長が健康上の理由から第一線を退いた2006年7月以降、実質的に政府を主導してきた実弟カストロ新議長は、2008年2月24日に就任。それ以来新政権は短期間で、土地の再分配や農業の非中央管理化、コンピューターや携帯電話の購買自由化、外国人にしか許可されていなかったホテル宿泊の許可といった改革を次々と決定している。新賃金政策は一連の中で発表された最新のものだ。また改革の中には、世界的な食糧危機による影響を緩和する策として、農業従事者の賃金引上げと耕作機械購入の柔軟化なども含まれる。
 経済面以外ではラウル議長は就任後、30人の死刑囚を減刑し、政治犯の一部を釈放、人権条約への調印なども行った。TVに対する放送禁止項目も緩和され、党機関紙のグランマでさえも住民の苦情を掲載するに至っている。

 しかし、ラウル議長がキューバの一党独裁体制を緩める気配はなく、対外的な民間企業への開放、渡航制限の撤廃、二重通貨制の撤廃など、望まれる変革項目のリストは依然続く。中南米の多くの人々はラウル議長の改革を歓迎しているが、「最大の敵国」である米国はこれらの改革について「うわべにしか過ぎない」とはねつけている。
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共産党が1党支配する国でも、その多くは現在では経済活動や労働報酬のありかたは殆ど欧米ルールと同じようになっているのが実際です。
中国しかり、ベトナムまたしかり。
そんななかで、“キューバでは長年、街頭の清掃業から脳外科医まで、大半の職業の賃金差は月額わずか2、3ドル以内だった”というのは、“すごい!”という印象です。
もちろん、公式ルールとはまた別の慣習等が実際の社会には存在してはいるのでしょうが、それにしても・・・。

フィデル・カストロはこうした一連の改革をどのように評価しているのでしょうか?
特に今回の“(労働の)質と量によって支払われるという原則”は、社会の根幹を変容させることになるでしょう。
労働に見合った報酬で物欲が実現され、それが新たな欲望を生み、鼻先にぶら下げられたニンジンを追うように労働に励む・・・という日本でもおなじみの社会がキューバにもおしよせることでしょう。

【日本独特のルール】
日本社会のルール、その効率性にどっぷり浸かっている私としては、上記のような労働に関するルール変更を評価するような見識は持ち合わせていません。
たまに旅行で日本・欧米ルールではない社会を経験すると、イライラすることもありますし、ほっとすることもあります。
日本・欧米ルールの過酷さを指摘するのは容易ですが、それによって得た富は圧倒的なものがあります。
そのような富をシッカリと享受しながら、同時にそのルールを批判するのはフェアではないでしょう。
さりとて、今手にしているものを手放すことはなかなか・・・。

そういった個人の思惑を超えて、おそらく世界は日本・欧米的なルールが広がっていくと思われます。
それと、今まで“日本・欧米ルール”という言葉を使ってきましたが、旅行のための1週間の休暇をとることすら困難な日本と欧米ではまたその中身が大きくことなるところがある・・・という別の問題も別途存在します。
コメント
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