孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リスボン条約、アイルランドで批准失敗 EUが目指す“統合”と現実

2008-06-17 14:17:31 | 国際情勢

(どうも右がハンガリー大統領、左がスロバキア大統領のようです。正直なところ、ハンガリーもスロバキアも、民族・歴史・文化等にどれだけの差異があるのか、東洋人の私にはわかりません。恐らく、西欧人が見た日本・中国・韓国もその程度のものなのかも。
“flickr”より By melyviz http://www.flickr.com/photos/melyviz/301736609/)

報道されているように、欧州連合(EU)の機構としてのあり方を定める新基本条約「リスボン条約」批准の可否を問うアイルランドの国民投票が13日開票され、反対53.4%、賛成46.6%の反対多数で否決されました。

【リスボン条約】
EUはこれまで、大戦後の仏独和解、市場統合、通貨統合、人・物の自由な往来・・・などの統合プロセスを段階的に進めてきました。
今回のリスボン条約は、グローバル化する世界でEUが米中ロなど大国相手に競争力を維持し発言力を強化するために、大統領と「外相」相当の外交上級代表を創設するなどの組織改革を目指したものですが、大きく頓挫しました。

従来半年持ち回りで務めていた欧州理事会(EU首脳会議)議長を常任(EU大統領)とする、従来加盟国各1人だった欧州委員を3分の2に削減する(委員が出せない加盟国がでる)・・・というEU政治機能強化に対し、「EUの強大化でアイルランドの主権が脅かされる」「欧州委員数が減るためEUでのアイルランドの発言力が低下する」「EUレベルで税制の調和が進み、アイルランドの低い法人税率が脅かされる」「これまでの中立政策が維持できなくなる」などの疑念が今回の“反対”という結果になったようです。

イタリアのナポリターノ大統領は「一国の有権者の半分以下で、しかも人口でもEUの1%に満たない数の人々の決定(反対)によって、かけがえのない改革が止められてしまうことがあってはならない」と述べ、「小国の反乱」への不快感をのぞかせたそうです。
統合を進めたいEU政治エリートの本音でしょう。

【小国の不満、市民との乖離】
しかし、“小国”にはアイルランド同様の不満があるようで、何より、市民レベルでの理解が進んでいないという問題があります。
各国は批准を国民投票に委ねると否決される可能性が高いため、議会レベルで批准を決定するかたちで進めています。
唯一アイルランドが憲法上の制約で国民投票を余儀なくされた訳ですが、その結果が今回です。

国民一人ひとりの心の中にある国家・民族を隔てる垣根が取り除かれるかたちで“統合”が進むのであれば、人類史上画期的とも言える快挙ですが、現実はそう簡単には変わらないようです。

【現実その1:スロバキアのハンガリー人】
****スロバキア:ハンガリー人の前途に立ちはだかる困難*****
【6月15日 IPS】 現在、スロバキアの人口500万のうち10%がハンガリー人。多くはハンガリーに隣接する南部地域に住んでいるが、1993年にチェコスロバキアから分離独立したスロバキアは国家主義政策を進めており、多文化主義の軽視が懸念されている。

06年の国会選挙で方向党(Smer)が第一党となり、極右のスロバキア国民党(SNS)が連立政権に加わった。
SNSのスロタ党首は「スロバキアにハンガリー人はいない」と発言し、Smerは在ハンガリーのスロバキア人に対する処遇を批判しつつ、ハンガリーとスロバキアの緊張関係はハンガリーに非があるとしている。
一方ハンガリー政府は、在スロバキアのハンガリー人の状況に問題が生じているのはSNSが原因だと主張する。

SNSのミコライ教育相はハンガリー人の学校でスロバキア語を教える法案を作成した。これに対し、ハンガリー人組織は市民的不服従を検討している。ハンガリー語の学校は減りつつあり、高等教育を受けるためにスロバキアを離れるハンガリー人の学生は多い。
さらに政府は公務員、教師、ジャーナリストにスロバキア語の試験を課する法案を決議した。

第一次世界大戦後にオーストリア・ハンガリー帝国が解体してチェコスロバキアが生まれた。スロバキア人にとってはハンガリーの抑圧からの解放であり、ハンガリー人にとっては母国との離別であった。現在300万人のハンガリー人がルーマニア、セルビア、スロバキアに住んでいる。
コソボの独立宣言はハンガリーの領土回復主義の脅威につながるのではないかとスロバキアでは懸念されている。ハンガリー人組織はハンガリーへの併合ではなく文化を守るために自治を求めているという。
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スロバキアもハンガリーも04年にEU加盟した国家ですが、“垣根”は依然高いようです。
文化の多様性を認めつつ、国家のアイデンティティーを維持する一定の統合を促す・・・というデリカシーを要する施策はどこの国でも難問です。
多数民族の頑なな民族主義は、少数民族の反発を高め、両者の分断と社会の混乱を深めるだけのように思えます。

【現実その2:コソボとセルビア】
****コソボ新憲法施行、国家運営始動 セルビアと二重統治も****
【6月16日 朝日】
セルビアから2月に独立宣言したコソボで15日、新憲法が施行された。99年からの国連の暫定統治が実質的に終わり、欧州連合(EU)中心の国際機構の監督下での国家運営が始まった。だが、セルビアはコソボ国内で独自の統治体制を敷くなど、対立はかえって深まっている。
セルビア人が多く住む20以上の自治体では、セルビアの総選挙と同時に行われた5月の地方選挙をもとに独自の議会が設立された。UNMIKやコソボ政府は「安保理決議に違反している」と批判したが、セルビア人側は近く地方議会代表45人で構成するコソボ全体のセルビア人議会を発足させる構え。コソボ政府とセルビア人議会の二重統治状態になるが、セルビア民族会議のベリッチ議長は「独立や新憲法こそ安保理決議違反。われわれの議員は選挙で選ばれ、正統性がある」と正当化する。
 特にセルビア人が多い北部ミトロビツァでは、セルビア本国の出先機関が新設されるなど、独自の統治機構も整備されつつある。トプリチェビッチ市長は「ここにはアルバニア人(コソボ政府)の実効支配は及ばない。EU文民支援隊にも協力しない」と話している。UNMIKの規模・活動縮小に伴い、ミトロビツァ以北の「分離」が今後進む可能性がある。
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コソボ北部セルビア人居住区域の“分離”の動きについては、4月13日にも取り上げたところです。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080413
コソボは文字どおりEUが後押ししてつくった国であり、対立セルビアに対してはEU加盟を梃子に懐柔を図っています。
セルビアが加盟したEUはコソボをどのように扱えるのでしょうか?

【EUが向かう統合とは?】
恐らく、ハンガリーにしろ、コソボにしろ、ときに対立しあうような国家・民族を内包するかたちに拡大するEUの政治的機能を維持するためには、リスボン条約に定めらたような組織運営ルールが必要になるのでしょう。
そのような“統合”が、人々の心の垣根を取り払う方向で作用するのか、それとは全く別次元・無関係に進行するものなのか、普段ヨーロッパのことにはあまり関心がありませんが、幾分興味を引かれるところです。


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