孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

高騰が止まらない原油価格  高価格に対応した需要構造変化を

2008-06-08 14:03:02 | 世相

(“Thirsty for Oil”・・・“flickr”より By hrtmnstrfr
http://www.flickr.com/photos/hrtmnstrfr/154238076/

【止まらぬ高騰】
原油価格の高騰が止まりません。
ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は4日に121ドルと、1ヶ月ぶりの安値をつけましたが、その後急ピッチで切り返し、2日後の6日には1バレル=139.12ドルまで上昇。
5月22日に記録した最高値(135.09ドル)を大幅に更新しました。

1日で10ドル以上値上がりするというこの動きは、“5月の米雇用統計の大幅な悪化や、欧州の利上げ観測などから、ユーロなど主要通貨に対してドルが下落し、ドル建てで取引される原油相場への資金流入が加速した”【6月7日 毎日】ことによるものだそうです。

周知のとおり、基本的な“原油価格高騰”の枠組みとしては、新興国を中心にした実需の増加、サブプライムローン問題に端を発した金融不安による株やドルに投資していた投機マネーの流入(年金基金のような長期運用、ヘッジファンドのような短期運用の両方)が存在します。
グローバル化とIT化が進んだ今日、膨大な資金が瞬時に世界を駆け巡り、一気に価格を押し上げます。

【過去の石油ショックとの比較】
下記のグラフは、70年以降の原油価格の推移を表したものです。
http://www.afpbb.com/article/economy/2395043/2960039【図解】原油価格の推移 【5月23日 AFP】

話の本筋からややずれますが、“第三次石油ショック”とも言われることがある最近のすさまじい高騰をグラフで見て感じる最初の印象は、“それにしては、世の中随分落ち着いているじゃないか・・・”という感じです。
もちろん、ガソリン価格高騰に関する国内での騒動、石油をベースとする各種原材料・燃料費上昇に対する業界の悲鳴、最近では海外の漁業従事者の騒動・・・いろいろありますが、かつての石油ショック時、特に第一次石油ショック時の社会の混乱に比べると“落ち着いている”という印象です。

1973年10月6日に第四次中東戦争が勃発。これをうけたOPECの石油戦略によって10月に21%、翌年1月には2倍に原油価格は引き上げられました。(イスラエル支援国には禁輸するとの戦略も日本を慌てさせました。)
前年からの“列島改造ブーム”によるインフレと相まって、94年には消費者物価が23%上昇、売り惜しみ、買占めが横行し、トイレットペーパーや洗剤などに人々が殺到する“狂乱物価”の時代でした。

なお、第二次石油ショックは、1978年のイラン革命によりイランでの石油生産が中断、イランから大量の原油を購入していた日本は需給が逼迫、更に、1978年末にOPECが原油価格引き上げを実施・・・というものでした。

グラフで見ると、第一次のとき、それまでの4.31ドル(!)が一気に2倍程度に高騰し、その後78年まで3倍程度までに漸増しています。
第二次では、15ドル程度から36ドルへと、やはり2倍強に高騰しています。
なお、最近の動きでみると、03年のイラク侵攻当時の33ドルが現在139ドルですから、ここ5年で4倍に高騰しています。ここ1年で見ても、60ドル前後から2倍以上に跳ね上がる異常ぶりです。

なお、経済・社会への影響を見る場合、物価水準の上昇を考慮する必要があります。
下記グラフは物価水準変動を考慮した“実質価格”の推移です。
http://www.flickr.com/photos/foreclosurepro/2333927352/
“flickr”より By foreclosurepro
黒のラインが名目値、赤いラインが実質値です。
このグラフによれば、現在の物価水準に換算すると、第一次のとき約20ドルが約40~50ドルへ、第二次では約50ドルが約100ドルへ上昇したことが見てとれます。
現在の139ドルは、第二次当時の100ドル水準をはるかに越えています。

日本国内への影響という意味では、為替レートも考慮する必要があるかと思います。
71年に、それまでの1ドル=360円というレートが308円に切り上げられました。
73年からは変動相場に移行し、74年の第一次石油ショックの頃は270~300円で推移しています。
第二次石油ショックの78年頃は180円ぐらいまで急上昇した後、2年ぐらいで250円付近に低下しています。
おおまかに考えて、円表示の実質価格で考えると、第二次のころは現在の感覚で言うと200ドルぐらいの水準まで高騰した・・・とも見られますがどうでしょうか。(全くの素人の推測ですので、基本的な思い違いもあるかも。読み飛ばしてください。)

過去の石油ショックと比較すると、今回は需要サイドの要因でおきていること、それと、私が感じたように価格高騰の衝撃がある程度吸収されている特徴があるようです。

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フランスの国立エネルギー研究機関であるIFPのエコノミスト、Francois Lescaroux氏は「過去2回の石油危機は、供給サイドの要因によるものだとの意見が支配的だ」と指摘する一方、「今回は誰もが需要サイドの要因で価格上昇を招いていると考えている」と語る。
猛烈なスピードで発展している中国とインドが原油需要を大きく高めているが、経済的な影響に関していえば、現状の原油価格の高騰は世界各国で価格高騰の衝撃が吸収されていると指摘。
「今回の石油価格高騰は、過去の石油危機と比べてインフレや不況といった悪影響を伴っていない。これは、過去の石油危機の経験を踏まえて、特に先進国において、原油価格高騰の影響を和らげることに成功しているということだ」と指摘した。 【07年12月4日 AFP】
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もうひとつ、原油価格の推移を見て思うのは、今回を含めて石油ショックと呼ばれるような高騰期に比べ、86年から03年というのは、異様に価格が安かった・・・ということです。
この安さが、化石燃料に頼る現在の構造を温存させてきたのでしょう。

【高価格への対応】
話を本筋に戻すと、“では、この価格高騰にそのように対処すべきか?”ということです。
投機マネーのことについては、4月28日のブログ「原油・食糧価格高騰、投機マネー、通貨取引開発税、トービン税のことなど」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080428)で“トービン税”などについて触れました。
ただ、中国・インドなど新興国の需要増加という実需の要因は今後もますます大きくなるでしょうから、長期的な対応を考える必要もあるのではないでしょうか。

需給の関係が逼迫すれば価格が上がるというのは、市場における当然のメカニズムで、それに応じて供給の拡大、需要の調整が行われるのが“本来”の姿です。
いたずらに価格補助などでその影響を小さくしようとするのは、高騰した価格による希少な資源の適切な分配という本来のメカニズムを損ねることになります。

別に、市場原理主義者ではありませんので、それで全てうまくいくとは言いません。
いろんな補完策、緩和策は必要になりますが、それは高価格に対応した需要の基本構造変革が行われることが前提になります。
日米中印韓5か国のエネルギー相会合が7日、青森市で行われ、燃料費への補助金の継続的な削減を表明した共同声明を採択しました。
共同声明では、政治的に慎重な対応が求められる燃料費への補助金の削減を求め、削減により「エネルギー効率が強化され」、代替エネルギーへの投資を呼び込めると訴えています。
これは、正しい方向だと思います。

原油ではなく、直接には温室効果ガスの問題ですが、アメリカ上院は6日の本会議で、温室効果ガスの排出量削減を義務付ける法案の審議を打ち切り、廃案としました。
企業の省エネ技術導入や排出権購入のコストが消費者に転嫁されることを危惧したものですが、消費者負担を上げない限り、需要の抜本的な調整は進みません

アメリカではガソリン価格が史上最高を記録するなかで、通勤の必要がない在宅勤務が人気をよんでいるとか。【6月2日 AFP】
価格上昇は、こうした社会構造の抜本的変化を求めています。
日本でもガソリン高騰で“遠出が減った”とか“バスなどに切り替えた”とかの“不満”が話題になっていますが、そういう行動変化こそが求められています。

エネルギー供給面について言えば、日本はロシアやノルウェーのように北極海で石油を掘ることはできません。
しかし、資源を持たないということは、自国の資源に縛られずフリーハンドで、最適な資源を世界に求めることができるというこでもあり、これまでもそのようなメリットを生かして日本は成長してきました。
今後も高くなった原油価格を前提に、遅れている自然エネルギー活用に本腰をいれるなどの転換が求められていると思います。

コメント
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