(イランのリゾート地“癒しの島”キシュ島 いい雰囲気です。イランは是非訪れたい国のひとつです。突然の爆撃とかなければ。
“flickr”より By N_Creatures
http://www.flickr.com/photos/anitzsche/2319644574/)
イランの核施設が攻撃された・・・との噂が一時市場に流れたようですが、イランはこれを否定。
シリアの例はともかく、さすがにこれはデマだったようです。
ただ、イスラエルはイラン核施設攻撃を想定した大規模演習を行っているそうですから、そのうち・・・ということはありえます。
国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長が20日、「情勢は深刻かつ、切迫している」とした上で、もし対イラン攻撃が実施されたら辞任する旨を発言していますので、現実味を帯びているのでしょうか?
一方で、欧州連合(EU)はアメリカの要請にこたえて23日、核開発疑惑を抱えたままウラン濃縮活動の停止に応じていないイランに対する新たな制裁措置で合意しました。
追加制裁措置の内容は、イラン最大の国営メリ銀行のEU域内の資産凍結と営業停止が柱で、さらに、イランの核・弾道ミサイル計画にかかわっていると欧米諸国がみなす担当者・専門家の入国が禁じられる見通しです。
シリア、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イラクのシーア派組織など、中東全域にいまや強い影響力を持っているイランとの衝突となると、大変な問題になります。
そんな物騒な話はメジャーなメディアに任せて、今日はイラン社会の一面を伝える記事2件から。
【テヘランに女性専用公園】
ひとつは、首都テヘラン初の「女性専用」公園が5月にオープンしたという話題。
(6月19日 AFP http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2407336/3042770)
「母親たちのパラダイス」と名づけられたこの公園は、金曜日以外は男性の立ち入りが全面的に禁止されます。
男性の門番が入り口に立ち(公園内スタッフは全員女性)、周囲には高さ4メートルの鉄板がめぐらされ、男性たちののぞき見を防いでいるそうです。
公園内では、ヘッドスカーフとコートを脱いで、タンクトップ姿でジョギングを楽しんだり、バドミントンに興じる女性などが見られるとか。
また敷地内では青空エアロビクス教室が開かれ、サイクリングコース、体育館、アーチェリー場まであります。
アフマディネジャド市長(当時)が大統領選に当選した後任に、同氏とは不仲だった実務派のカリバフ氏が市長に当選したことで、長期間延期されていた計画が現実したもので、市長は同様の公園を今後数か月で少なくとも3つ作る計画だそうです。
これに対し、「2009年の大統領選で女性票を集めたいというのが市長の魂胆よ」との声も。
ジェンダー学を専攻している大学院生の女性は、「責任ある市民として行動し、女性を敬うよう、男性たちを教育する必要がある」と。
もちろん上記意見のように、そもそもこのような施設が必要になること自体が、現実イラン社会あるいはイスラム社会において、いかに女性が制約されているかを示している・・・とも解釈できます。
その一方で、“まあ、こんな施設が出来るだけましでは?イランも思ったより柔軟な社会なのかも。少なくともタリバン支配のアフガニスタンではありえないし・・・”とも思えます。
また、“大統領選挙のための人気取り”というのも、ある意味ではイラン社会が“選挙による民意”という“民主主義”をベースにしていることを示している・・・ともとれます。
【経済特区 キシュ島 “癒しの島”へ】
もうひとつの記事はイラン南部、ドバイの対岸にあたるキシュ島の話題。
(6月24日 毎日 http://mainichi.jp/select/world/news/20080624ddm007030007000c.html)
この島は関税が減免された一種の経済特区で、かつて外国製品が安く買える「買い物天国」としてイラン人の人気を集めましたが、今は国内客向けの観光リゾートに変容しているそうです。
“ヤシの街路樹が整備された島は、南国ムードが漂う。中心部の大型ショッピングモール「楽園」の洗練された造りや雰囲気はドバイに見劣りしない。女性はヘジャブ(ベール)を外せないが、髪の露出はテヘランより進んでいるようだ。”
しかし、輸入品に関しては、今や乗用車などを除き、全国どこでもキシュ島と同じ程度の値段で輸入品を購入できるそうで、米国製家電の代理店社長(46)は「イスラム革命後は自主自立へと経済統制を強めたが、今は逆に規制緩和を進め、徐々にグローバル化に向かいつつある」と指摘しています。
“(キシュ島は)最近はオイルマネーなどで潤った中間層以上が都会の騒々しさから逃れる「癒しの島」になっているという。近場の海外旅行先ドバイに比べ、宗教的な制約はあるが、イランの変化の最先端をのぞくことができる。”
【キシュ島の石油製品商品取引所】
また、キシュ島で今年2月、石油製品の商品取引所が開設されました。
“イラン核問題に絡み、米国で「イラン脅威論」が高まる中で開設準備が進められたため、「取引通貨をユーロにして米国の『ドル支配体制』に挑戦する狙いでは」との観測を生んだ。だが、取引通貨は当面イラン・リアルが中心だという。”
“仮にイランにユーロ建ての指標ができ、取引が活発になれば、国際的なドル離れが加速する。「オイルユーロ」への移行はドルの暴落と米国の弱体化につながる--。そんな指摘も流れた。”
“イランは外貨準備高(外貨の蓄積)の基軸通貨をドルからユーロへと切り替えているが、近い将来に予定している原油取引を含め、すべての商品取引をユーロに転換する方針だ。ユーロの価値が高まっているし、米国と政治的に敵対しているという理由もある。”
現状は“まだ外国企業の参加はほとんどなく、助走段階”といったところのようです。
また、今後の取引拡大については、アメリカとの関係を修復しない限り、期待している親米のアラブ湾岸諸国の参加は望めないというジレンマがあります。
また、ユーロ建てについては、湾岸諸国は自国通貨のレートをドルに連動させるペッグ制を採用しており、ドル下落は自国通貨の価値を下げることから、ユーロ取引は乗り気ではないだろうという推測もあるとか。
【石油依存のイラン経済】
イランにおける石油の役割については、“アフマディネジャド政権の経済政策は最悪だが、国家経済が破綻(はたん)しないのは石油があるからだ。国民の不満や経済失政の穴を石油の利益で埋め合わせてきた。イラン経済は石油という薬物に依存するスポーツ選手のようなもので、薬が切れると倒れてしまう。”
“石油が豊富で、国民の税金をあてにする必要がないので、国民の意思を反映した政治システムが確立しない。つまり、石油は非民主的な権力がその足場(支配力)を強めるのを助けてきた。「民主主義」の発展を阻害してきたとも言える。”との指摘があります。【6月24日 毎日】
先のキシュ島のモデルとも見られるのが対岸のドバイ。
“世界の中継貿易地”として脚光を浴びるドバイ首長国は原油の埋蔵量が少なく、将来への危機感から多角化に取り組み、いち早く石油依存経済を脱却しました。
“ドバイは市場を開放して外国資本を導入。GDPの石油部門の比率は90年の3割に対し、今や5%を切る。
一方のイランは現在、7割超。輸出収入の8割以上を石油に頼る典型的なモノカルチャー経済である”
そのドバイは経済制裁を受けるイランの部流基地でもあります。
“ドバイと好対照のイランだが、ドバイの急成長にイランの存在が極めて重要な役割を担ってきたことは見逃せない。ドバイは、核問題で国連安保理の経済制裁決議を受けたイランへの物流最前線だ。ドバイが輸入する物資の7割は再輸出されるが、うち7割がイラン向け。米国製品もドバイ経由でイランに流れる。”
テヘランの女性専用公園、“癒しの島”キシュ島・・・核開発疑惑をめぐる欧米との応酬からは窺えない、イラン社会のまた別の側面が垣間見えます。
イランが今後“脱石油”を実現していくうえでは、アメリカ・イスラエルとの関係を安定させ、外国資本が流入できる環境を整える必要があります。
核開発をめぐる“危機”は、その意味でもイランにとっては望ましからざる状況のように思えます。
ただ、イスラエル・アメリカの意向もまたありますから・・・。