(パキスタン北西部のスワート渓谷からフンザ方面は是非一度行ってみたい場所のひとつです。険しい山々と鮮烈な川、緑なす大地、咲き乱れる花々、ガンダーラの遺跡・・・このエリアが政治的に安定するにはもうしばらく時間がかかりそうです。
“flickr”より By bongo vongo http://www.flickr.com/photos/jabbarman/25001487/in/set-515373/)
5月12日に「パキスタンの政情がはっきりしません。・・・」という書き出しで、最高裁長官の復職問題で揺れるパキスタンの連立政権、およびイスラム過激派との対話路線について触れたのですが、なんだかますます不透明になっています。(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080512)
【シャリフ派連立離脱】
与党第一党、パキスタン人民党(PPP)と第二党、パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)の連立政権は、やはりチョードリー前最高裁長官の復職問題で合意できず、上記ブログを書いたその当日に、PML-Nのシャリフ元首相はシャリフ派閣僚の引き揚げを発表し、連立は崩壊しました。
PML-Nは人民党ギラニ政権との閣外協力関係は一応維持するとされていますが、ムシャラフ大統領支持の旧与党イスラム教徒連盟クアイディアザム派がザルダリ氏の人民党に急接近するのではとも報じられています。
【ムシャラフ辞任を否定】
そのムシャラフ大統領は5月末に“辞任するのでは・・・”との噂がながれましたが、6月7日、地元メディア幹部らと会見し「ギラニ首相と協調関係にあり、対立はない。私は辞任しない」と、本人自らが辞任を否定しました。
大統領府は辞任の噂について、シャリフ派が「故意にうそをリークした」と非難していました。
大統領は「国会が私を弾劾するならば従う」とも述べ、「政治的に自信を回復した裏返しの表現」(地元テレビ幹部)と受け止められているそうです。【6月7日 毎日】
【武装勢力との対話路線】
国内のイスラム武装勢力との「対話路線」については、隣国アフガニスタンと同盟国アメリカが神経をとがらせています。
パキスタン政府は5月21日、北西部スワート地域のイスラム武装勢力と和平協定を締結しました。
この和平協定により、政府はスワート地域からの軍部隊の段階的な撤退や同地でのイスラム法(シャリーア)の導入を受け入れました。
一方、武装勢力側は、訓練キャンプの閉鎖、外国人兵士の引き渡し、政府関連施設や治安部隊への自爆攻撃の中止などを受け入れています。
武装勢力側は「米国との断絶」を条件にしていましたが、そのあたりがどのように処理されたのかはよくわかりません。
パキスタンのイスラム武装勢力は、アフガニスタンで武力闘争を行うイスラム原理主義組織タリバンに活動拠点や軍事訓練基地を提供するなど「後方支援」を行ってきました。
アメリカの要請に沿う形で武装勢力と決別しその掃討作戦を続けたムシャラフ政権との対立が激化し、パキスタン国内で自爆テロが頻発し治安は極度に悪化。
これが2月の総選挙でムシャラフ大統領の最大与党が大敗の背景となりました。
このためギラニ連立政権は「治安回復に対話が必要」と方針を打ち出していました。
ただ、これについてもイスラム過激派勢力との協調に積極的なPML-Nのシャリフ元首相と、アメリカとの関係が深く反テロを訴えた故ブット元首相のPPPでは温度差がありました。
PML-Nの政権離脱の今後への影響も考えられます。
【対テロ同盟にきしみ】
アフガニスタンのスパンタ外相は先月20日、パキスタンの対話路線を「危険な譲歩で、深く憂慮している」と批判。
アメリカも「なぜテロリスト(武装勢力)などと交渉できるのか」(ネグロポンテ米国務副長官)とけん制。
アフガニスタンでISAFの活動を支えるNATOも、対話路線がタリバンに「隠れ家を提供している」と強く批判。
パキスタンの対話路線は、“対テロ同盟国”間に亀裂を生み始めています。
先月18日のブッシュ米大統領とギラニ首相との初の首脳会談は、テロとの戦いでの共同方針を確認できませんでした。
【アフガン軍と交戦】
そんななかで、アフガニスタン国境地帯では10日、パキスタン治安部隊とアフガン軍などとの間で激しい戦闘があり、双方に死傷者が出た模様です。
パキスタン軍は11日、同国側少なくとも11人の死亡が確認されたとし、「(アフガンに駐留する)米軍など連合軍が理由もなく卑劣な攻撃を仕掛けてきた。対テロ戦争の同盟関係を損なう行為だ」と激しく非難しました。
国境付近では過去にも両国部隊間で小競り合いが起きたことはありますが、パキスタン側が米軍主導の連合軍を非難するのは異例とのことです。【6月11日 毎日】
【6月11日 毎日】“パキスタン軍によると、パキスタン側にある治安部隊の国境検問所が10日夕、アフガン連合軍数百人によって攻撃を受けた。治安部隊約40人が銃などで応戦、戦闘は深夜まで続き、数十人が行方不明になったとしている。攻撃を受けたとされる検問所について、アフガン政府は「アフガン領土内にある」と撤去を求めてきた経緯がある。”
【6月12日 AFP】“多国籍軍はアフガニスタンの首都カブールで、パキスタン領内で空爆を行ったことを認めたものの、パキスタンの民兵組織の前哨拠点付近から攻撃してきた武装集団を狙ったものだとしている。多国籍軍の声明によると、同軍はアフガニスタン東部クナル州で作戦実行中に、パキスタン領内のGora Prai検問所付近の森林地帯から武装集団の攻撃を受けたため、パキスタン軍に対しその旨を連絡する一方、無人偵察機により武装集団を確認し、「自衛」のため「危険が排除されるまで」迫撃弾や空からの支援を受け攻撃を行ったとしている。”
上記AFP記事の見出しは“多国籍軍誤爆か”となっています。
真相は“藪の中”ですが、パキスタン政府軍とアフガニスタン多国籍軍が交戦し多数の死者を出すという今回の事態は、“対テロ同盟”の先行きを危うくし、ひいては今後のアフガニスタンでのタリバンの活動を活発化させる懸念もあります。
PPPによる政権運営、ムシャラフ大統領の去就、イスラム過激派との対話路線、“対テロ同盟国”の今後・・・いずれも不透明さを濃くし、核保有国パキスタンは混迷の様相です。