孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

四川大地震  国民一体感、情報公開、日本への評価

2008-06-02 15:09:40 | 世相

(四川大地震での被災者救援活動 “”より By wang qian 02/13/86
http://www.flickr.com/photos/wang_qian_021386/2492872844/)

中国政府発表によると、四川大地震の被害者は1日正午時点で、死者6万9016人、行方不明者はなお1万8830人に上っています。負傷者は36万8545人、避難住民は約1515万人。
被害者のなかでは、学校における子供の被害が顕著で、手抜き工事ではないかとする親の批判も高まっています。
また、せき止め湖やダムの破損などによる危険・避難が大きな問題として継続しています。

****9割が「生活態度変わった」=四川大地震で市民調査-中国****
中国紙・中国青年報などが行ったアンケート調査によると、四川大地震の発生後、88%の市民が「生活態度の変化を感じた」と回答、78%が「知人や友人を大事にするようになった」という。30日付の同紙が伝えた。
インターネットを通じ実施した調査には4309人が参加。大地震で多くの犠牲者が出た中、「勉強や仕事に励み、大切な命を生かそう」と考えた人は82%に上り、「どうせ短い人生ならば、もっと楽に生きよう」と思った人は29%にとどまった。 【5月30日 時事】
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未曾有の被害をもたらしている今回地震は、中国の人々に大きな衝撃を与えたようにも見えます。
アメリカで言えば“9.11”でしょうか。
社会全般、例えば、国民の一体感、情報の公開、海外援助国との関係などにも影響を与えていると思われます。

【ボランティア】
“一体感”に関しては、若者を中心に、従来の「政府の動員によって集まる人々」ではない、自分の意思による多数のボランティアが現地に集まったそうです。
この背景には、被災地の状態がメディアによって詳細に報じられたこと、インターネットの発達が若者の連携を深めたことが指摘されています。【5月17日 産経】

また、四川大地震の犠牲者を悼む「全国追悼日」最終日の5月21日には、北京の天安門広場に集まった学生・市民約2000人が、黙祷後「頑張れ中国」「頑張れ四川」と叫びながら、規制の厳しい広場周辺では異例のデモ行ったそうです。
群衆は約1時間後、警察の説得に応じて解散し、大きな騒ぎはなかったとか。 【5月21日 時事】

【情報公開】
情報公開については、もとより統制の厳しい社会ですから日本的な基準で見ることは困難ですが、従来のイメージからすると、比較的詳細・迅速に現地の様子を伝えていたようです。
「災害報道では、何よりも速報が求められる。通常、官製メディアには、内部検閲があるが、今回、中央テレビの生中継には、映像も記者のルポも検閲なしだった。新華社も13日からは地震報道の検閲はなくし、速報戦で実力を見せた。 党機関紙の人民日報など主要各紙も地震報道で競い、報道系、商業系のサイトも同様だった。その多くに信頼される情報を最も提供したのが新華社であり、それは国民の震災への関心を高め、空前の救援運動を導いた。 」【5月17日 産経】

これには、今回の報道対象が災害という政治的要素が少ないものであったこともありますし、政府の情報コントロールがなされなかった訳でもありません。
英紙フィナンシャル・タイムズ・アジア版は、“震災報道の協議が13日に党内で持たれ、「世論の正しい誘導」の重要性が強調されたという。実際、その後、「相互援助精神という共産主義精神を反映する勤勉な地方公務員」といった報道が増えた”と指摘しています。 【同上 産経】
また、“行き過ぎた報道をしていた”ある地方メディアに、党の宣伝部系統から、「勝手に記者を被災区に派遣するな」とのお達しがあったとも。【5月22日 高田勝巳 DIAMOND online】

しかし、一般に欧米の報道は中国に好意的なものが多いようです。
特に、10万人を超える犠牲者にも関わらず、国際支援の受け入れを渋り続け、甚大な被災のさなかに憲法改正の是非をめぐる国民投票を強行するミャンマー軍政との対比で、チベット問題でズタズタになった中国の印象が改善したようです。

中国の情報公開に関する姿勢変化について、上記高田氏は、「中国の情報公開のきっかけとなったのは、胡錦涛氏が党主席になった02年に発生した「SARS問題」ではないでしょうか。この問題で、おそらく中国建国以来初めて、情報を公開しないことによって大臣が更迭されたのです。胡錦涛主席は、政権を担当するようになってすぐに、情報の隠蔽で国際的に非難されるという洗礼を受けたのです。」と指摘しています。

ただ、情報が公開され、自分の意思で判断・行動する国民が今後増えると、今の中国の政治体制は難しい局面を迎えるようにも思えます。

【日本の援助に対する好意的評価】
中国は今回、海外からの援助も広く受け入れましたが、その過程で、人的援助受け入れの最初の国に日本を選んだり、温家宝首相が日本医療チームを激励するなどの日本への配慮をみせ、直前の胡錦涛主席訪日以来の日中関係改善の動きを印象づけました。
日本では一部に悪評の高い「南京大虐殺記念館」で、四川大地震の特設写真展が21日から開かれ、中国国内でも好評だった日本の国際緊急援助隊が紹介されているそうです。

それでも緊急援助チーム派遣決定まで数日が経過しており、実効ある活動が十分にできなかったとか、その後の医療チームについても、現場での活動を希望する日本側と大病院での支援を求める中国側の意向に食い違いがあったなどの問題はありましたが、その活動については中国国内においても好意的にとらえるものが多いようです。
(もちろん、日本でもそうですが、とにかく“何が何でもダメだ”と決め付け、罵声をあびせるような人達がいない訳ではありませんが。)
それだけに、先日の自衛隊機による輸送見送りの件は、両国政府が功をあせったというか、軽々しく進めすぎたというか、残念に思えます。

****「英雄です」「ありがとう」=被災者、日本隊を激励-四川大地震****
【5月17日 時事】日本の国際緊急援助隊が救助活動を行った中国四川省の被災地、青川県では、子どもたちが「ありがとう」「あなたたちは英雄です」などと書いた段ボールを沿道で掲げ、同援助隊や人民解放軍、ボランティアの車両が通る際に激励した。日本の援助隊が夜通しの作業を経て、母子の遺体を発見した同県喬荘地区の現場近くに住む女性、劉梅さん(45)は「地震が多い日本の人が来てくれると聞いて一筋の光が見えた。身近な人がたくさん生き埋めになり、慰めようがなかった。高い技術を持つ日本の援助隊の到着を皆で待っていた」と語った。
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段ボール云々は“上からの指導”の感じもありますが、ネット上での評価も悪くなかったようです。

****日本救助隊の活躍に中国サイトで感謝の大反響*****
【5月22日 IPS】中国のウェブサイト「環球時報・環球網」は5月21日、「日本緊急援助隊員の1人は、生存者を救出することができず気が滅入って、離職しようとまで考えている」という趣旨の記事を掲載した。
5月20日に掲載されたこの記事に、21日現在すでに16,662回のアクセスがあり、236人が書き込みを残した。そのいくつかを訳し、次に紹介する。

「援助隊の皆様、あなた方は非常に勇敢です。余震の危険だけでなく、中国人に理解されない危険も冒していながら、救出活動を進めました。あなた方を通して、私は日本人の善意が感じられました。中国人は永遠にそれを忘れませんよ」
「被災地に関心を寄せるすべての日本人に感謝したい」
「日本人民はいい人で、感謝すべきだ」
「どうもお疲れ様でした。生きている人の救出ができなかったにしても、皆様は全力を尽くしました。日本の友人の皆さんに、本当に感謝しています」 
「私はもともと日本人が嫌いだが、今回のことを通して、見直しすべきだと思うようになった」
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【自衛隊機輸送の評価】
上記記事を送っている記者が自衛隊機による輸送についての中国ネットの反響についても書いていますが、そちらは“中国ネットは「救援隊歓迎・自衛隊機拒否」”【6月1日 IPS】と、自衛隊機に対する中国の拒否感を伝えています。
「たとえ死んでも、日本軍隊による救援は要らない」といった類の過激な発言も多いようですが、「日本に大地震が起きたらいいのに」という発言に対し、「中国を救援する外国に地震が起きてほしいと望むあなたは、本当に下品な人ね」との書き込みもあったそうです。

ついでに言うと、日本の援助には好意的な中国ネットも、聖火リレーで激しく揉めた韓国に関しては、お互い激しい敵意を見せているとか。
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韓国では、ソウルの五輪聖火リレーで起きた中国人留学生の暴動で嫌中感情が高潮。韓国のネットでは「地震発生は天罰」「復旧に専念し、五輪を中止せよ」などの揶揄があふれた。
韓国は援助物資輸送での軍用機派遣や李明博大統領の被災地慰問など、むしろ日本より目立つ活動をしているが、中国ネット世論の多くは、両国での地震の受け止め方について、「日本は泣き、韓国は笑った」と論評。ネットやメディアが日本の支援を絶賛するのと比べ、冷遇ぶりが目立っている。【5月31日 読売】
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