孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

食糧サミット開催  世界は今「憂慮すべき岐路」 意見が分かれる食糧輸出規制やバイオ燃料

2008-06-05 15:39:02 | 国際情勢

(伐採が進むブラジル・アマゾンの熱帯雨林 “flickr”より By qu1j0t3
http://www.flickr.com/photos/qu1j0t3/2495041920/)

【静かな津波】
食糧価格高騰という“静かな津波”に襲われる途上国の貧困層、広がる社会不安・政情混乱・・・早急の対応を迫られている国連の潘基文(バンギムン)事務総長は、当初予定していた国連食糧農業機関のハイレベル会議を“食糧サミット”に格上げすることを4月末に決定。
その“食糧サミット”が3日から5日までローマで開かれています。

会議には約150か国の代表が参加、40か国の首脳が出席して開催されています。
“緊急援助”とか“長期的な農業生産拡大”といったことは、比較的異論が少ないのでまとまりやすいのですが、議論が分かれているのは、輸出国による国内需要を優先した“輸出制限措置”の扱いと、食糧生産と競合するとの批判がある“バイオ燃料”の扱いです。
伝えられるところでは、立場の異なる両サイドに配慮して玉虫色の文言に落ち着きそうな様子です。

【食糧輸出規制】
インドやベトナムがコメ輸出を停止するなど輸出規制の動きが広がっており、食糧輸入国に重大な危機をもたらしています。
潘基文事務総長は会議の冒頭、食糧増産の必要性を訴えるとともに、食糧の輸出規制について、「貿易をゆがめ、食糧価格を引き上げている」と非難し、「我々はこれに抵抗すべきで、(輸出国は)人道支援のため即刻、輸出を始めるべきだ」と強く求めました。

ただ、輸出国の国内事情を考えると難しい問題です。
日本のような飽食の国とは異なります。
先日、世界の食糧危機・食品価格高騰を扱ったTV番組で、日本でも食品価格値上げで従来の学校給食が維持できなくなったとして、“週2回実施していたデザートが週1回しかできない”“給食費を月300円値上げしないといけない”といったことが放映されていました。

学校給食でデザートがつけられないことが問題でしょうか?
むしろ月に1,2回、昼食抜きの日、あるいは、豆だけの日やパンだけの日などを設けて、世界中に大勢いる満足に食事ができない人々・子供への思いを促すのが本来の教育ではないでしょうか。
現在の日本で“300円”の負担ができないとしたら、それは食品価格の問題ではなく、生活保護・格差是正などを含めた所得政策の問題です。

しかし、多くの途上国にはこれ以上食事を切り詰められない、これ以上食費を負担できない人々が多く存在するのも事実であり、国内にそのような貧困層を抱える国が国内の食糧価格高騰を防ぐために輸出規制に走るのは、主権国家としての権利であるようにも思えます。

日本でも、昨今の世界の穀物事情を考慮してこれまでの減反政策を見直すべきと発言した某官房長官が、“国内の米価が暴落する”“生活保護をうけている家庭が町内会に10万円寄付しようとするような行為だ”といった批判にさらされています。どこの国でも国内事情が優先します。

輸出国側の事情も踏まえ、世界銀行のゼーリック総裁は、“少なくとも、世界食糧計画(WFP)による人道支援での食糧購入や輸送については、輸出制限や課税措置は解除されるべきだ”と、また、“発展途上国や食糧危機の危険性のある国々への輸出制限は解除されるか、少なくとも緩和されるべきだ”と述べています。
会議でも、輸出規制撤廃をストレートに求めるのではなく、「人道支援目的のもの」は除外し、それ以外の規制も最小限にとどめるべきだとの表現に落ち着く方向のようです。

【バイオ燃料】
バイオ燃料の問題は、どういう植物を使って、どういう方法で栽培しているのか・・・個々のケースを分析する必要があります。
例えば、アメリカのトウモロコシを利用したバイオエタノール生産は、飼料(つまり肉)にまわるコーンを減少させるように思えますが、現在アメリカにおいて主流となっている乾式製法によってトウモロコシからバイオマスエタノールを生産する際には、エタノールのほかに発酵滓由来の飼料が生産されるそうで【ウィキペディア】、その影響判定は単純ではなさそうです。
(ただし、従来半々で作っていた大豆の作付け面積が減らされることで、日本などに輸出される大豆も減少・高騰します。)

ブラジルはサトウキビ産エタノールの世界最大の輸出国。
05~07年の世界平均シェア51%を、17~18年には66%に伸ばす見込みだそうです。
ブラジルのルラ大統領は、サトウキビからのエタノール製造には砂糖精製の副産物であるでんぷんなどを使うため、砂糖そのものの生産量は落ちない、「食糧とエタノールは両立する」と主張しています。
また、ブラジルはアマゾン地域でのサトウキビや大豆の増産を見込んでおり、森林破壊を起こしているとの批判もありますが、大統領は「アマゾンは我々のもの。我々が管理する」と反論しています。
(3日の食糧サミットでの演説では「アマゾンの休耕地を開発するだけで、熱帯雨林は伐採していない」と、もう少し穏やかに表現しています。)

ヨーロッパ向けバイオディーゼル原料となるインドネシアのアブラヤシ栽培は、熱帯雨林を破壊し、泥炭層からのCO2放出を促進しているとの指摘もあります。
泥炭層から年間約20億トンの温室効果ガスが放出され、この結果、インドネシアのCO2排出量は化石燃料使用量だけなら世界20位前後だが、泥炭層からの放出分も含めれば米国と中国に次いで3位となるとも。

今回の会議では、米国やブラジルなどバイオ燃料生産に積極的な国にも配慮して、採択予定の政治宣言について、当初検討されていた「最善の生産の在り方」を探るため「国際的な政策指針」づくりを目指すとしていた方針を削除することになりました。
最終的には、「バイオ燃料をめぐる課題については、食糧安全保障と環境の観点で対処することが不可欠だ」との表現を盛り込んで、バイオ燃料の生産が、食糧生産と競合しない必要があるとの認識を示す、更に「バイオ燃料の生産と利用について、徹底的な研究が不可欠」と強調して国際的な対話を継続させることも明記する・・・というあたりに落ち着きそうとか。

日本は食用作物を原料にしない第2世代バイオ燃料の実用化を主張して、洞爺湖サミットの議論に引き継ぐ方針です。
ドイツは、バイオ燃料の原料栽培を各国政府の認可制にすべきだとの考えを示しています。
今回会議では結局、国際的対話を開始するという抽象的表現にとどまる公算が大きいようですので、日本やドイツの提案するところなどについて引き続き検討が求められます。

【憂慮すべき岐路】
国連の潘基文事務総長は会議に先立つ2日、世界は「憂慮すべき岐路」にあると警告しました。
国連の国際農業開発基金のローマ本部で演説し、長年にわたる食糧価格の低下と生産量の増加に国際社会が慢心した結果、各国政府は農業開発の必要性を見落とし、厳しい決断を避けてきたと述べています。
その上で、「今、まさにその報いを受けている」として、食糧危機について、「適切に対処されなければ、この問題は、世界の経済成長や社会発展、そして政治的な安全保障といった、さまざまな危機の連鎖の引き金となりかねない」と警告しています。【6月3日 AFP】


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