(バングラデシュ NGOのBRACが運営するワークショップとその女性主任 “flickr”より By mknobil
http://www.flickr.com/photos/knobil/66832714/)
【最近の政情 両政界トップを釈放】
バングラデシュでは軍部主導の選挙管理内閣が非常事態宣言のもとで強権的に政界・社会の汚職・腐敗・犯罪一掃を進め、二大政党のトップである前首相・元首相を拘束、年末に総選挙を実施して民政復帰を行う予定であることを6月7日のブログで触れました。
その後、11日にアワミ連盟(AL)を率いるハシナ元首相は仮釈放され、病気治療のための渡米が許可されています。(事実上の亡命、または国外追放)
15日には、もう一方の大物、バングラデシュ民族主義党(BNP)を率いるアジ前首相も釈放されることが発表されました。
(アジ前首相は出国の意向は今のところないと表明しています。)
両者の釈放で、二大政党AL及びBNPの反発を和らげ、年末の総選挙を実現させようとの政府の意向のようです。
【電動リキシャ】
話は全く変わりますが、バングラデシュというと真っ先に思い浮かぶのは、通りに溢れたリキシャの群れ。
やせ細ったリキシャワーラーが力を振り絞って漕ぐリキシャに乗っていると、ちょっと居心地の悪いこともありますが、このほど充電可能な電動リキシャが発売されるとのこと。
“リキシャの運転手は、週7日間、1日最低12時間は働く。1日の稼ぎはたいてい150-200タカ(約200-300円)だ。だが肉体を酷使するその労働には人権団体から「非人道的」との非難が寄せられている。”
“リキシャ台数は推定100万台。その半数が首都ダッカに集中しており、南アジア最悪とも言われる交通渋滞の元凶ともされる。”
ひと晩の充電で丸1日もち、価格は従来の2倍ですが、4倍のスピードが出るので日銭も増え、もとはとれるとのこと。
“貧しい運転手たちの非人道的な働き方に終止符を打ちたかった”というのが開発の動機だったとか。【6月26日 AFP】
そうなれば結構なことですが、他のアジアの国で見られるバイク型のリキシャとどう違うの?という疑問も。
きっとバイクリキシャよりは電動リキシャのほうが、価格が低く燃費もいいのでしょう。
(なお、リキシャは借り受けが多く、1日の賃料が100タカぐらいと前回旅行のとき聞きました。)
【沸騰都市 ダッカ】
そんなリキシャと車と人であふれる首都ダッカが、先日NHKの“沸騰都市”で取り上げられていました。
その大まかな内容は以下のとおり。
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世界最貧国のひとつだったバングラデシュは、この5年、5%近い経済成長を続けている。
物乞いで溢れていた通りは、仕事で活気に満ちた通りに変身。
建築ラッシュでレンガは飛ぶように売れる。
その成長の主役は貧困層。
「ダッカに行けば豊かになる」
政府にも頼れないこの国の人々が自らの力で貧困から抜け出そうとしている。
成長を牽引するのは繊維産業で、雑居ビルに1万を超える縫製工場がひしめいている。
中国の人件費の三分の一の安さを武器にそのシェアを奪い、縫製工場は1ヶ月に50件も増えている。
工員の殆どは10代後半の農村から出てきた女性。
1ヶ月の初任給は、2500円。ミシンをマスターすれば、800円上積みされる。
自転車操業であるが、なんとか1回目の返済をクリア。
経営者「3ヶ月後にまた来てください。見違えるようになっていますよ。」
実際3ヵ月後、工場は数倍に拡大していた。
担保もない起業家に開業資金を融資するのはNGOが経営するBRAC銀行。
BRACの運営資金500億のうち、寄付や援助は2割だけで、残りはビジネスから生み出した自己資金である。
「貧しい人々は援助の対象でなく、自力で成長すると信じている。私達は機会を与えるが、貧困から抜け出すのは本人であり、自らの運命を変えなければいけない。」BRAC創始者の言葉。
女性貧困層を対象にしたマイクロクレジット。
油など日用雑貨を商う女性。
夫の病気のため、仕入れ代金がなくなり、品揃えができず、客足もめっきり減った。
5人組の連帯保証でBRACから借り入れを決意、商品をそろえる。
売上げは狙い通り3倍近くに増えた。
“情報格差が貧困のベースにある”とBRACは格差解消を目指して、インターネット普及にも力を入れる・・・・
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【着実な成長】
2年ほど前にほんの数日物見遊山で旅行しただけですが、それでもその国が元気があると聞くと嬉しいものです。
特に貧困層が自助努力によって減少していると聞けばなおさらです。
もっとも、2年前の旅行時の印象は、“インフラが整備されないまま車社会に突入して交通は困難を極めている。産業・社会の基盤となる電力供給が滞りがちで停電がしばしばある・・・”といった感じで、“沸騰”というほどのものではありませんでした。
成長率でみて5%平均ですから、他のアジア諸国(中国、カンボジア、ベトナム、インド、ラオス)に比較してそんなに高いという訳ではありません。“着実に成長している”という数字です。
(http://dataranking.com/table.cgi?LG=j&TP=ne02-3&RG=4&FL= )
なお、上記資料によると、アジア諸国のなかで中国を押さえて一番成長率が高いのは、なんとミャンマーです。
本当でしょうか?あの電力事情の悪さのなかでどうしたら10%超の成長ができるのか不思議です。)
“着実な成長”のおかげで、貧困層は確かに減少しています。
国際協力銀行の資料(http://www.jbic.go.jp/japanese/oec/environ/hinkon/pdf/bangladesh_fr.pdf )によると、都市部でも農村部でも貧困層は減少しており、10年前に比べると10ポイントほど低下しています。13~14年前に比べると19ポイント近い大幅減です。
ただ、この間ジニ係数は上昇しており、格差も拡大していることが窺われます。
【BRAC等NGOのマイクロクレジット】
この成長の背景にあるといわれるのがマイクロクレジットですが、ユヌス氏のグラミン銀行(主に農村部に展開)については、私のブログでもこれまで数回取り上げてきました。
今回NHKがとりあげたのは世界最大のNGOのBRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)銀行。
バングラデシュでは多くのNGOがこぞってマイクロクレジットに進出しており、貸付の累積ではグラミン銀行に及びませんが、貸出残高ではNGOがグラミン銀行を上回っています。
貧困解消にも貢献できて、自主財源も稼げる・・・というところでしょうが、なかにはいろんな弊害もあるとか。
“5人組”の連帯保証制度で、他のメンバーの返済にあてるため、なけなしの家財道具を売らせたとか、高利貸しに借金させたとか・・・。
(2月23日ブログでみたように、グラミン銀行は現在“連帯保証制”はとっていません。TVではBRAC銀行の貸出審査で連帯保証を他のメンバーに確認するシーンがありましたが、BRAC等のNGOでの扱いはよくわかりません。)
貸す側が“どのように使っているか”確認せず、返済にしか注目してない場合、借り入れた資金を自分で使わず、他の村人に少しだけ利子を上乗せして又貸しするケースもよくあるとか。
借りた資金を生活のために消費してしまい、余裕のある他のメンバーなどから借りて取りあえず返済しているというような“マイクロクレジット・バブル”の発生も懸念されているとも。
(「社会実情データ図録」 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1055.html)
“BRACが貧困層の自立に貢献してきたことは分かるが,どうも貧困層がBRACの利潤拡大に利用されているように思われる。”(小柳尚正 http://econgeog.misc.hit-u.ac.jp/mizuokazemi/seminaristen/koyanagi/bridges.htm )といった声もあるようです。
そうそういい話ばかりでもないようですが、2005年末で2250万人がマイクロクレジットを利用しており、貧困家庭の75%をカバーしています。
利用者の殆どが女性であるということから、家庭内での意思決定権、選挙への進出、教育などの非所得面での女性の地位向上に貢献しています。
バングラデシュ政府は、マイクロクレジットを行うNGOを監督する機関“MRA”、NGOへマイクロクレジット資金を提供する機関“PKSF”などの、制度・システム整備を進めています。