孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  大統領選挙 対立候補を警察が拘束

2008-06-06 16:25:56 | 国際情勢

(ジンバブエ 水浴びする赤ちゃん “flickr”より By babasteve
http://www.flickr.com/photos/babasteve/5398572/ )

【飢餓の原因】
昨日まで開かれていた食糧サミットへの出席が注目されたのがジンバブエのムガベ大統領。
2000年に白人(主に旧宗主国イギリス)所有大農場を強制収用し、その制裁措置としてEU諸国への渡航を禁じられてきたジンバブエのムガベ大統領も、今回は主催者である国連の招待ということでイタリア・ローマ入りが実現しました。

ムガベ大統領の人気取り的な、あるいは自分の失政から国民の目をそらすための強攻策によって接収した白人農園の農地を、生産ノウハウ・技術を伴わないまま黒人へ移転した結果、農業生産システムが崩壊し、ジンバブエの食糧危機を招くところとなっています。
イギリスやオーストラリアは今回の会議出席について、“ムガベこそが飢餓の原因”と反発していました。

露骨な人種差別を行った白人農場主達による“ローデシア”から、イギリスの支援もうけて国を取り戻し、黒人国家“ジンバブエ”としてスタートしたムガベ大統領。
独立当時は白人との融和政策を評価され、農業生産・輸出も順調で、IMFから「アフリカ経済の優等生」と呼ばれたこともあります。
アパルトヘイトが続く南アフリカの将来的なモデルとも見られていました。

その後の失政、転落、経済崩壊、ハイパーインフレーションについては
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070711  「経済崩壊 権力に固執するかつての独立の英雄」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071214  「経済崩壊・人権侵害、それでも続くムガベ政権」
また、ムガベ大統領の強権的な政治、大統領選挙での疑惑についても
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080208  「元財務相が大統領選挙へ出馬」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080401  「遅れる大統領選挙の結果発表 不正操作の危惧」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080417  「選挙結果を認めないムガベ政権 独裁の構図」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080519 「決選投票は6月27日、国内外で続く弾圧・苦難」
など取り上げてきました。

独立の英雄から非道な単なる権力者への変遷は、多くの国でも目にするところです。
アフガニスタンでタリバンを率いたオマル師も、当初は国民の大きな支持・共感を得て登場し、かつ、「自分には政治のことはわからないので、国が安定したらしかるべき人達に任せて郷里へもどるつもりだ」というような謙虚なことを語る人物でした。

【ツァンギライMDC議長拘束、更に・・・】
周知のとおり今月27日が大統領選挙の決選投票になっていますが、ムガベ大統領が食糧サミットで外遊中に対立候補のツァンギライMDC議長が同行の党幹部らと共に警察に拘束される事態となっています。
“議長拘束は大統領不在の間のクーデターの発生を懸念した政権与党の警告との見方もある”とも報じられています。【6月5日 毎日】
野党MDCは、この数週間で58人の支持者がムガベ派民兵に殺害されるなど、大統領による激しい選挙妨害が行われていると指摘しています。
ツァンギライMDC議長がその後解放されたとのニュースはまだ見ていません。

かわりに目にしたのは、アメリカおよびイギリスの外交官車両が襲撃され、複数の外交官が一時拘束されたとの記事。

****ジンバブエ治安当局が米・英外交官を一時拘束****
襲撃を受けたのは米外交官車両2台と英外交官車両1台で、警察官が路上にバリケードを設置して車を停止させ、タイヤを切りつけた後、乗っていた職員から電話を奪った。さらに、車から降りなければ車ごと燃やすと退役軍人に脅されて降車したところ、近くの警察署に連行されたという。
在ハラレ米大使館によると一時拘束されたのは米国人5人、英国人4人と現地スタッフ1人。
拘束されていた全員は解放されたが、地元運転手が激しい暴行を受けた。
一方ジンバブエの副情報広報相は、外交官らが野党・民主変革運動(MDC)活動家の自宅での「騒ぎ」に関与していたとしている。「警察官が到着すると外交官らは(車で)逃亡したが、その途中にバリケードで止められた。外交官らが警官の命令に従って降車するのを拒んだため、警官が1台の車のタイヤをパンクさせた」。【6月6日 AFP】
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また、上記記事によると、ジンバブエの公共サービス相は全NGO団体に対し、「追って通知があるまであらゆる現地活動を停止すること」を命じる書簡を送ったそうです。
一体何をやろうとしているのか・・・
少なくともまともな選挙を行う気はないようです。

この状況を見ると、仮に決選投票が行われてツァンギライMDC議長が多数を集めても、おそらくムガベ大統領側が敗北を認めないのではないかと危惧されます。
また、選挙後の“力”に訴える混乱も懸念されます。

【ジンバブエの日本援助批判】
先月末に横浜で開催されたTICAD(アフリカの開発に関する東京国際会議)に関して、ジンバブエから批判が出されているそうです。

******日本の援助、強化されるもまだ不十分*****
ジンバブエのムンベンゲグウィ外相は、2000年に日本が拠出した5億ドルで世界エイズ基金が設置されたことに言及し、HIV/エイズとの世界的な闘いに先導的な役割を担っていると日本国民と政府を称賛する一方で、次のように付け加えた。
「しかしこのように私心のない意思表示を示したとき、日本政府と国民は、世界エイズ基金が将来不当な政治的理由で一部開発途上国を制裁するための政治的武器として利用されることになるとは認識していなかった」
「基金が創設されてから、これまでの9回にわたる援助実行のうちジンバブエはわずか2回しか援助を受けていない。しかも域内の1人当たり援助額が平均124ドルであるのに対し、ジンバブエはわずか4ドルである。」
ムンベンゲグウィ外相は、「世界エイズ基金が政治化されていることは遺憾なこと」と述べた。

しかし日本の政府高官は対ジンバブエ援助については楽観視していないようであった。日本には、援助選定の重要な基準として法の支配、人権および良い統治等を定めたODA大綱がある。
高官は「これらの基準が満たされないかぎり、ODAを拠出することはできない」と述べた。【6月3日 IPS】
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エイズのような生命に直接かかわる問題に対する援助における、援助受入国の“法の支配、人権および良い統治”の問題は難しいところもあります。
“良い統治”が行われていないと判断する国の国民がエイズに犯されていくのを座視していいのか・・・。
しかし、そういう国は、援助しても本来目的に援助が活用されるのかどうか・・・という懸念もあります。

もっとも、選挙結果を捻じ曲げてしまうのでは・・・とも疑われるジンバブエから、“基金が政治化されていることは遺憾なこと”なんて言われたくないなというのが本音です。

コメント
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