“flickr”より By Breff
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【反対23、棄権39】
国連総会で24日、ミャンマー非難決議が採択されました。
****政治犯解放求め、国連がミャンマー非難決議*****
国連総会は24日、ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんを含む政治犯の解放などを求めるミャンマー非難決議案を賛成86、反対23、棄権39で採択した。
決議は、「ミャンマーで組織的な人権侵害が行われ、国民の基本的な自由が侵されている」と強く非難。2000人とされる政治犯の無条件解放や、スー・チーさんと軍事政権との対話を求めている。【12月25日 読売】
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採択されたことよりは、反対23、棄権39と、全体の4割以上の国が賛同していないことに目がいきます。
日本や欧米の価値観では、ミャンマー軍事政権の人権侵害は非難されて当然という感がありますが、世界全体で見ると、必ずしもそういう訳ではないようです。
同じような人権問題を抱える国も多く、外国、特に欧米からの地域実情を考慮しない“上から目線”の非難に抵抗感を持つのでしょうか。
【欧米対話路線とスー・チーさん問題】
ミャンマーでは、スー・チーさんの問題に関しては、軍事政権とスー・チーさん側双方に、若干の歩み寄りの気配は見えます。
オバマ政権が軍事政権との対話路線を見せ始めたことが、双方の姿勢に影響していると思われます。
アメリカに続き、EUも今月3日、軍事政権との「継続的な政治対話」を開始するとの見通しを表明しています。
12月9日には、スー・チーさんと軍事政権のアウンチー連絡担当相の10月以来の会談がもたれました。
****ミャンマー:スー・チーさんが連絡担当相と会談****
会談内容は不明だが、スー・チーさんは11月、政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長に会談を求める手紙を出しており、この問題について話し合われた可能性がある。
一方、軍事政権の支配下にある国営紙「ミラー」は同日、スー・チーさんがタン・シュエ議長に出した手紙について「議長の手元に着く前に海外メディアに内容が公表されている」と指摘。スー・チーさん側が海外メディアを利用して政権に圧力をかけているとして、「その誠意を疑わざるを得ない」と強く批判する記事を掲載した。
政権への協力を表明したスー・チーさんの手紙発送から1カ月近く過ぎたが、政権側はこれまで回答を示していない。来年の総選挙へ与える影響などを慎重に測っているとみられる。【12月9日 毎日】
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12月16日には、スー・チーさんと彼女が率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)のアウン・シュエ議長ら党幹部3人と会談が実現しました。
会談は、スー・チーさんが先月、軍事政権トップのタン・シュエ議長にあてた書簡の中で求めていたものです。
この幹部3人とスー・チーさんが面会するのは2003年以来とか。
5月、軟禁中にもかかわらず米国人を自宅に入れたとして起訴されたスー・チーさんの裁判については、現在最高裁で審議中ですが、今日、“来年の総選挙直前にも解放へ”と報じられています。
****ミャンマー:スー・チーさん解放へ 来年の総選挙直前にも****
軍事政権下のミャンマーで来年予定される総選挙直前に、自宅軟禁中の民主化運動指導者アウンサンスーチーさん(64)が解放される可能性が高まってきた。複数の情報筋が毎日新聞に明らかにした。スーチーさん率いる最大野党「国民民主連盟」(NLD)も総選挙に参加する可能性が強まっている。
軍政は国際社会が求めるスーチーさん解放に応じた場合の総選挙への影響を慎重に検討してきた。解放しても選挙結果に大きな影響はなく、軍による実質的な支配体制は揺るがないとの自信を深めている模様だ。
軍政は今年8月、スー・チーさんに対し、米国人がスー・チーさん宅に侵入した事件を利用して軟禁措置を1年6カ月間延長、総選挙終了までスー・チーさん「拘束」を継続する姿勢を鮮明にしていた。
一転してスー・チーさん解放に応じる可能性が高まったのは、今年1月発足したオバマ米政権が制裁一辺倒の対ミャンマー政策を対話路線に大きく転換させたことが契機となった。
米国のキャンベル国務次官補は11月初め、米高官として14年ぶりにミャンマーを訪問し、軍政のテインセイン首相、スー・チーさんと相次いで会談。双方に当事者間の「対話」を要請し、総選挙へ向けた一連のシナリオを提示した可能性がある。
特に軍政に対しては、国際社会が総選挙に求める「自由、公正かつすべての関係者が参加する」との条件を満たすよう、国民民主連盟の参加を強く求めたとみられる。
軍政に近い筋によると、軍政は「スー・チーさんを解放し、国民民主連盟を選挙に参加させたとしても、国民民主連盟の獲得議席は全体の4分の1程度にとどまる」と分析。解放のタイミングについて「投票日直前」で固めつつあるという。一方、軍政と太いパイプを持つ中国政府関係者も「選挙前にスー・チーさんが解放される可能性が高い」と語った。
一連のシナリオが実現すれば国際社会は「ミャンマー民主化で進展が得られた」と評価できる。
一方の軍政側も「選挙の正統性」をアピールし、選挙後の国際社会への本格復帰への足がかりを築くことができる。
選挙の時期は来年3~4月、もしくは秋ごろとみられている。【12月28日 毎日】
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【高まる少数民族との緊張】
ミャンマーで、スー・チーさんの問題以外で報じられているのは、東部少数民族と軍事政権の緊張が高まっている問題です。
****ミャンマー:東部避難民47万人超 NGO「軍政弾圧で」*****
タイ・ミャンマー国境で難民支援に当たる複数の欧米NGOによる連合組織「タイ・ビルマ国境支援協会」は、ミャンマー東部で96年以降、3500以上の集落で破壊や強制移住が行われ、現在47万人以上が国内避難民になっているとの報告書をまとめた。
ミャンマー東部には多くの少数民族が住むが、報告書は「少数民族武装組織の抑え込みを図るミャンマー軍事政権側の弾圧」が原因だと指摘している。この調査結果などを基に、日本を含む29カ国442人の国会議員は10日、軍事政権の戦争犯罪を調べる調査委の設置などを求める書簡を国連安保理に送付した。(中略)
ミャンマーは、人口の約3分の2をビルマ族が占め、残りを少数民族で構成。同国東部は、軍政と停戦合意した上で兵力を温存する武装組織の勢力圏や、戦闘継続中のカレン族組織の拠点などが入り組む地帯だ。
報告書では、軍政側の常とう手段として、少数民族組織の弱体化のため、住民を政府支配地域に移住させて組織とのアクセスを絶つ方法を指摘。住民の強制労働、住民からの食料強奪や土地没収などを避難民発生の要因に挙げている。
軍事政権は来年予定の総選挙を前に、少数民族組織の国軍への編入を狙うが反発は強く、タイや中国との国境地帯は緊張が高まっている。今後大規模な戦闘が起きる可能性もあり、さらなる避難民の発生も懸念されそうだ。【12月17日 毎日】
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【中国との関係修復】
この少数民族問題は、今年8月、漢族系少数民族が政府軍と衝突して中国領内に逃げ込む事態となり、米欧の経済制裁下にあるミャンマーにとって国際的後ろ盾である中国との関係にも影響しています。
日本では天皇陛下会見問題で話題となった中国の習近平国家副主席は、その後ミャンマーを訪問しており、両国関係修復をはかっています。
****中国:ミャンマーと国境安定化で協力 習副主席が会談*****
アジア歴訪中の中国の習近平国家副主席は20日、ミャンマー軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長と首都ネピドーで会談し、ミャンマー国軍と少数民族の武力衝突が起きた両国国境地帯の安定化に向け協力していくことで一致した。
中国中央テレビによると、習副主席は「国境地帯の安定を擁護することは両国国民の幸福を増進する」と述べ、ミャンマー側に対応を促した。タン・シュエ議長も「中国側と共同で国境地帯の安定と発展を擁護していきたい」と応じた。(後略)【12月21日 毎日】
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会談では、両国を結ぶ天然ガスのパイプライン建設など経済協力に関する10以上の覚書が交わされた模様です。
中国も、ミャンマーでのパイプライン建設を自国経済発展に不可欠と考えており、今回の経済関係強化の動きとなったようです。
【体制内か枠外か】
欧米との対話路線の機運が出てきて、中国との関係も修復した軍事政権が、来年の総選挙を控えて、今後スー・チーさんの問題でどう動くのか。今日の毎日報道のように、選挙直前解放に踏み切るのか。
新憲法が定める民政移管は実質的な軍政継続を意味するものではありますが、スー・チーさん、国民民主連盟(NLD)の側にしても総選挙後の新体制内に入っていかないと、枠外からの政治運動だけでは限界があるのではないでしょうか。
ただ、もし今後、少数民族弾圧が表面化すると、欧米との関係がまた悪化する事態もあり得ます。