孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン モンタゼリ師死去、イラク油田占拠、そして核開発問題

2009-12-21 22:07:47 | 国際情勢

(モンタゼリ師(中央)の死を悼む人々 “flickr”より By kamiar22
http://www.flickr.com/photos/pars2003/4201210752/)

【「独裁者よ、モンタゼリ師の意志は引き継がれる」】
イランのイスラム教シーア派最高権威の一人で、同国のイスラム革命体制の「非民主性」を批判していたホセイン・アリ・モンタゼリ師が19日夜、同国中部コムの自宅で死去しました。

“モンタゼリ師は、同国中部イスファハン近郊生まれ。イラン革命(1979年)の指導者ホメイニ師の側近として、親米パーレビ王政の打倒運動に参画。「イスラム法学者の統治」(ベラヤティ・ファギー)原理に基づいた革命体制の樹立に大きな役割を果たした。
86年、ホメイニ師の後継最高指導者に指名されたが、反体制派との交遊が問題視され、89年、同師により次期指導者の地位を奪われた。
その後、モンタゼリ師は、革命体制が「責任を負わない全能の指導者を作り出した」などと、独裁的側面を批判し、現最高指導者ハメネイ師と対立。宗教界の過度の政治介入も批判し、最高指導者制の廃止を唱えた。
このため、ハメネイ師率いる保守派の怒りを買い、1997年~2003年に、事実上の自宅軟禁状態に置かれた。【12月20日 読売】”

改革派系の高位イスラム法学者で最長老のモンタゼリ師の死去により、宗教界での改革派の発言力が低下する可能性も指摘されていますが、葬儀に集まる死を悼む人々の間での反政府的“混乱”も懸念されていました。
イラン政府は各地に多数の治安部隊を派遣して厳重な警備体制を敷き、地方から葬儀に参加する市民のバスを追い返したり、国内メディアに報道を控えるように指示した模様です。【12月21日 毎日より】

****モンタゼリ師葬儀に数十万人=改革派が体制批判、警官隊と衝突-イラン****
19日に死去したイラン穏健派の高位聖職者フセイン・アリ・モンタゼリ師の葬儀が21日、同師の自宅がある首都テヘラン南方の聖地コムで営まれた。同師は保守強硬派の現イスラム革命体制に批判的な論陣を張り、6月の大統領選で敗れたムサビ元首相ら改革派の精神的支柱だった。改革派ウェブサイトによると、数十万人が葬儀に参列して反体制スローガンを連呼した。
当局は外国メディアの現地取材を規制し、多数の警官隊を動員した。改革派サイトによれば、葬儀参列者は「独裁者よ、モンタゼリ師の意志は引き継がれる」などと連呼し、最高指導者ハメネイ師や保守強硬派アハマディネジャド大統領の独裁色を糾弾した。葬儀終了後には投石する群衆と警官隊が衝突したとの情報もある。【12月21日 時事】
**********************

【懸念されるアシュラの混乱】
葬儀の方は、治安当局が厳戒態勢で封じ込んだようですが、死後7日目の27日はアシュラにあたるそうです。
アシュラは、預言者ムハンマドの孫にあたる第3代イマームのフセイン師の殉教を哀悼するシーア派最大の宗教行事です。
フセイン師は680年、スンニ派のカリフYazidの手により非業の死を遂げたとされています。
聖地カルバラには、昨年は約200万人の巡礼者が集結しました。
また行事のクライマックスを飾る「血まみれ」の行進にも巡礼者数千人が参加しています。

“10日間にわたって行われるこの行事は、「tatbir」の儀式でクライマックスを飾る。しかしこの日はそれまでとは異なり、参加者は黒色の衣服ではなく「犠牲」を象徴する白色の衣服を身にまとう。そして太鼓の音色に乗って踊り、額を大きな刀に打ち付けるのである。儀式の最中、参加者は頭皮を刀やナイフで切りつけるため、血まみれとなる。【08年1月20日 AFP】”

宗教的高揚でトランス状態になって行われる「血まみれ」の行進ですが、今年は治安当局と反政府デモの衝突によって「血まみれ」なる事態も懸念されます。

【ファッカ油田占拠】
イラン関係で、もうひとつ緊張が高まっているのが、イランとイラクの国境に近いイラク南東部のファッカ油田の4号井を、18日、兵士十数人と技術者からなるイランの部隊が占拠した事件。
イラン軍司令部は19日、占拠の事実を認めましたが、あくまでこの油井はイラン領内にあると主張しています。
一方、米軍によると、この油井はイランの国境警備施設から約500メートル、イラクの国境警備施設から約1キロの位置にあって、この油井がイラク領内にあることは両国間で合意済みだったとのことです。【12月20日 AFPより】

イラク側は侵入したイラン軍を攻撃するなど軍事的な対応はとっておらず、外交的手段での解決を目指しており、イラン側も占拠した油井から一応撤退したようですので、今のところ大事には至っていません。
ただイラン軍はまだイラク領内にとどまっているようです。

****イラク:油井からイラン軍後退 領内に残留****
イラク南部マイサン県のイラン国境付近にあるファッカ油田の一部を占拠したイラン軍部隊は、支配下に置いた油井から後退したがイラク領内にとどまっていると、イラク政府報道官が20日明らかにした。現地にはイラク軍部隊が派遣され、情勢を監視している。両国政府は事態を外交的に解決する方針で国境画定の協議を行う意向だが、イラク政府はイランの行動は「主権侵害」だとして即時撤退を強く要求している。同報道官によると、イラン部隊は占拠した第4油井から約50メートル後退し、掲げていたイラン国旗も降ろしたが、イラク領内に残留している。【12月20日 毎日】
**********************

イラクは先日、油田開発の国際入札を行いましたが、戦乱により低迷していた原油の大幅増産を目指すイラクが外国資本に油田開発を開放する動きに、イランは神経をとがらせているとみられることが事件の背景にあるとも言われています。
核開発問題で欧米との対立が厳しくなっているなか、アフマディネジャド大統領も忙しいことです。威嚇行動のひとつでしょうか。

【核開発問題をめぐる思惑 アメリカ、イスラエル、ロシア】
核開発問題の交渉では、国内保守派の突き上げで心ならずも暗礁に乗り上げてしまった感もあるアフマディネジャド大統領ですが、ガソリン禁輸などの経済制裁による市民生活の混乱は政権基盤を揺るがすことにもなり、望んでいないところでしょう。

一方、アメリカ議会はガソリン輸出制裁をちらつかせています。
****米国:ガソリン輸出制裁を可決 対イランで下院*****
米下院は15日、核問題で対立するイランにガソリンなど石油精製品を輸出した外国企業を経済制裁の対象とする法案を、412対12の賛成多数で可決した。上院での審議は年明けとみられ、当面はイランに、独自制裁の選択肢があることを警告する位置付けとなりそうだ。
国務省高官は同日、記者団に対し、上下両院の法案に「好ましくない点がある」と指摘。イランとの対話外交を掲げ国際協調路線を進めるオバマ政権として、現時点でのガソリン輸出制裁に慎重な姿勢を示した。
AP通信によると、スタインバーグ国務副長官は今月、上院外交委員会に送った書簡で、制裁法案について「(イランに対する)国際的な結束を弱める」と訴えた。イランは産油国だが精製能力が不足しており、ガソリンの4割を輸入に依存している。【12月16日 毎日】
*****************************

交渉による解決をあきらめていないオバマ政権ですが、おそらく交渉が完全に決裂するのを望んでいるのが、イラン核施設を爆撃したがっているイスラエルではないでしょうか。
そのイラン核施設爆撃の妨げになる可能性があるのが、イランがロシアから提供を受ける話となっていた対空ミサイルS300です。

しかし、これまでイランの後ろ盾となってきた友好国ロシアが、イスラエルから無人偵察機を大量購入する交渉が進行中と伝えられています。
“ロシアはイスラエルからミサイル搭載可能な最新鋭の無人偵察機を入手し、周辺国に対する軍事的優位を確保するとともに、機体を分析して国産機の技術向上にも役立てる狙いだ。 一方のイスラエルには、無人偵察機を供与する見返りに、ロシアがイランに対して対空ミサイルS300を売却しないという“確約”を得る狙いがある。”【12月16日 産経】とのことで、“無人偵察機の製造技術の流出をも覚悟したイスラエルの対露戦略について、欧米の専門家はUPI通信に、ロシアに対する「事実上のわいろだ」と述べた。”とも。

イラン側は、イスラエルを射程に収めるといわれる中距離地対地ミサイル「セッジール2」の改良型の発射実験に成功したと16日発表しました。
“軍事攻撃を受けた場合の報復能力を誇示した形だ。国際社会への挑発と受け止められ、米欧からの反発は必至だ。”【12月16日 朝日】と報じられています。

反政府運動、イラクとの緊張、核開発問題・・・トラブルの種は尽きないようです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする