孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルクメニスタン  ロシア・中国・欧州による三つどもえの天然ガス争奪戦

2009-12-15 23:15:52 | 国際情勢

(トルクメニスタンのカラクム砂漠の中央に位置する、Darvaza(ダルヴァザ)村には、「地獄の扉」とも呼ばれる灼熱のクレーターがあります。直径は60mほどで、湧き出す天然ガスがここ数十年燃え続けています。
いつから燃えているのかは諸説あるようではっきりしません。燃えている理由も、事故により引火したとか、有毒ガスが地表に出てこないように燃やしているとか、これまたはっきりしません。
はっきりわかるのは、この国の地下にあふれるほどの天然ガスが存在しているということです。
“flickr”より By minifastcar33
http://www.flickr.com/photos/rjbusch/3626177492/)

【変化する「中央アジアの北朝鮮」】
中央アジアのトルクメニスタンと聞いて、正確な位置がわかる人はそんなには多くないのでは。私もわかりません。
地図で確認すると、北はウズベキスタンとカザフスタン、南はイラン、東はアフガニスタン、西はカスピ海に隣接する位置関係です。

「中央アジアの北朝鮮」とも呼ばれていたトルクメニスタンは、ニヤゾフ前大統領(06年12月死去)の独裁政権下で長く外国との交流を断ち、事実上の鎖国体制を取ってきました。
99年に終身大統領となったニヤゾフ前大統領は、「わが国固有の芸術でなく、国民にはわからない」などの理由でオペラやサーカスを禁止、「田舎の人は字が読めないから」と地方の図書館も廃止するなど、ユニークな政策を行ってきました。

しかし、一昨年2月に就任したベルディムハメドフ大統領は、欧米を訪問するなど外交姿勢を転換しつつあります。上記の“ユニークな政策”も転換されてきています。
それでも、天然ガス資源の豊かなトルクメニスタンは、国営企業が市場を独占するという現在では数少なくなった旧ソ連式の計画経済で、ガス、電気、水道と塩は無料です。また、08年2月には、運転手1人当たり120リットルのガソリンを政府が無料提供することが発表されていますので【08年2月10日  AFP】、やっぱり普通の国とは少し違います。

【「グレートゲーム」の再来】
中央アジアの国々は、トルクメニスタンの天然ガスなど、石油・天然ガス・ウランといった地下資源に恵まれており、これら資源の開発参入競争や輸出ルート争いは、19世紀に英国とロシアなどがこの地域の覇権を争った「グレートゲーム」の再来とも呼ばれているそうです。

確認埋蔵量は7兆9000億立方メートルで世界第4位(1位はロシアの43兆立方メートル)のトルクメニスタンの天然ガスについても、従来からのロシアに加え、新規に参入する中国、ロシア依存からの脱却を目指す欧州・・・これら勢力の間で三つどもえの資源争奪戦が展開されています。

****トルクメニスタン:中国へ天然ガスの直通パイプライン完成****
世界有数の天然ガス埋蔵量で知られる中央アジアのトルクメニスタンから中国までの直通パイプラインが完成し、14日、起点となるトルクメン東部サマンテプで開通式典が開かれた。同国からの天然ガス輸出はこれまでロシアにほぼ独占されてきたが、中国向けパイプラインの開通によってロシアと中国、別のパイプライン計画を推進する欧州の間で三つどもえの争奪戦が激しさを増しそうだ。

タス通信によると、完成したパイプラインはトルクメンからウズベキスタン、カザフスタンを経て中国・新疆ウイグル自治区へ至る約2000キロ。同自治区から沿岸部までの既存のパイプラインと合わせた総延長は約7000キロに及ぶ。06年に関係国が計画に調印し、07年に着工。約73億ドルとされる建設費の多くを中国が負担したという。
開通式典には、中国の胡錦濤国家主席ら沿線4カ国の首脳が出席した。トルクメンのベルディムハメドフ大統領は式典に先立つ13日、胡主席との会談で「地域の安定要因となる傑出した世紀の事業が完成した」と述べた。
同大統領によると、中国への天然ガス輸出量は最大で年400億立方メートルを予定しており、従来のロシアへの輸出量(年約500億立方メートル)に匹敵する。対露輸出は今年4月のパイプライン事故以来、価格や輸出量を巡る対立もあり停止中。中国という巨大な競争相手の出現でロシアは交渉上、厳しい立場に立たされそうだ。
欧州連合(EU)主導のロシア迂回(うかい)パイプライン「ナブッコ」計画も、トルクメンを有力供給源の一つとみており、欧州向け輸出ルートの独占を続けたいロシアとの競合が始まっている。

トルクメンは91年のソ連崩壊に伴う独立後、経済的にはロシアに大きく依存する一方、故ニヤゾフ前大統領の独裁政権が「永世中立」を宣言し、事実上の鎖国状態にあった。しかし、07年に就任したベルディムハメドフ大統領は積極外交で欧米やイランとの関係強化に動き、対露依存体質からの脱却を目指している。
一方、ベルディムハメドフ大統領は16~18日、同国元首として初めて日本を訪問し、鳩山由紀夫首相と会談するほか、天皇陛下とも会見する。大統領はガス田開発や液化天然ガス(LNG)技術の向上などに向け、日本に投資や経済協力の促進を呼びかけるとみられる。【12月14日 毎日】
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【資源を武器に自立を強める】
「トルクメンが中露両国へガスを輸出すれば、欧州に供給する余力はない」(エネルギー問題の専門家)との指摘もあって、どこかがはじき出される熾烈な競争のようです。
中央アジアはかつて経済的にロシアに大きく依存していましたが、各国は資源を武器に輸出先の多様化を進めるなど自立を強めています。
その背景にあるのが欧州や中国の進出で、この地域でのロシアの立場は以前に比べて弱くなっています。

“例えばロシアとカザフスタン、トルクメニスタンは07年、天然ガスのロシア向け輸送量強化のため既存のカスピ海沿岸パイプラインを改修し、併せて新線も建設することで合意したが、この計画は全く進んでいない。実現にはトルクメニスタン国内を横断するパイプライン建設が必要で、同国はロシア政府系天然ガス企業「ガスプロム」に費用負担を求めているが、財政難の同社が応じていないためだ。
一方でこの横断パイプライン建設にドイツやオーストリアの企業が協力を申し出ている。トルクメニスタンは条件で双方と駆け引きしている。
ロシアは4月、パイプライン事故の原因を巡りトルクメニスタンと対立し、ガス輸入を停止したが、トルクメニスタンは中国やイランへの輸出でしのぎ、強気の姿勢を崩していない。”【11月13日 毎日】

【アフガニスタンをにらんだ国際関係】
また、中央アジアは混迷が続くアフガニスタンに隣接し、タリバン掃討作戦を展開する米国はじめ北大西洋条約機構(NATO)にとって戦略的に重要な地域となっています。
キルギスをめぐる米露の基地争奪戦は記憶に新しいところです。
 
ただ中央アジア各国にとって、アフガニスタンからのテロや麻薬の流出は政権の不安定化を招くため、アフガニスタンの混乱拡大を望まないという点で、各国と米露の利害は一致しています。
“軍事評論家のフェリゲンガウエル氏は「テロの脅威が強まるほど米露の確執は薄まり、脅威が低下すれば米露間の対立が表面化する構図」と指摘する。”【同上】
アフガニスタンが火をふいている現在は、その意味では、中央アジア各国・米露の関係は、比較的利害が一致した関係にあるとも言えそうです。

普天間基地問題や中国重視外交で揺れる日本から見ると、トルクメニスタンやキルギスの大国をてんびんにかけるようなダイナミックな外交には感嘆するところもあります。
もっとも、情勢が変わったとき、こうした外交の結果がどうなるか・・・という危うさもありますが。

コメント
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