(北朝鮮の道路脇で 08年9月 こうした商売で得たカネも、今回のデノミで吸い上げられてしまうのでしょうか。
権力への怨念が高まりそうです。“flickr”より By Eric Lafforgue
http://www.flickr.com/photos/mytripsmypics/2861417089/)
【社会主義経済の強化が目的】
北朝鮮が11月30日に実施した通貨ウォンのデノミネーション、それに伴う混乱が報じられています。
***北朝鮮デノミ大混乱、交換上限額が二転三転****
北朝鮮のデノミネーション(通貨単位の切り下げ)は、通貨の交換上限額の相次ぐ変更が伝えられるなど、当局の予想を超える動揺を国内にもたらしている模様だ。
デノミに関する北朝鮮の公式発表はないが、同国の主張を代弁する在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の機関紙「朝鮮新報」は4日、11月30日から全国一斉に進行中、と初めて報じた。同紙によると、朝鮮中央銀行責任者は、商品生産や流通網の国家統制を強めて市場機能をそぐなど、社会主義経済の強化が目的と強調。改革が「絶対多数の労働者の支持」を受けており、平壌市内の商店や食堂は新価格を設定し、4日から通常営業していると伝えた。
一方、韓国の北朝鮮専門インターネット新聞「デーリーNK」によると、通貨交換をめぐる当局の対応は二転三転し、大混乱している。当初、1世帯当たり10万ウォンとされた交換上限額は、15万ウォンに変更。その後、上限額は再び10万ウォンとされ、それ以上の額は、今回の旧新通貨の交換比率100対1でなく、1000対1で交換できるとした。
さらに今度は、10万ウォン以上なら交換比率1000対1で「銀行への積み立て可能」に変更され、3日午前時点では、「国家が適切な措置を取る」として、限度額を上回る資金は、そのまま「無制限に銀行に積み立て可能」としたという。
最終的に、余剰金は「紙くずにはならない」と保証する形で不満を抑えようとしたとみられるが、住民側は信用せず、少しでも多くの金をひそかに替えようと、コネを使える有力者を探し回っているという。【12月4日 読売】
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“北朝鮮の1世帯の生活費は月4万ウォン程度だが、中にはタンス預金で多額の金をため込んでいる人もいるという。ソウルのある外交関係者は、電撃的なデノミ実施の背景について「住民が蓄え込んでいたカネを一気に吐き出させる荒療治」と指摘する。(中略)また、デノミの直撃を受けたのは一般住民や商売人で、外貨で隠し預金の可能な朝鮮労働党幹部や特権階級には影響がほとんどないとみられている。”【12月3日 毎日】
北朝鮮の通貨改革は17年ぶり5回目ですが、北朝鮮の朝鮮中央銀行当局者は3日、北朝鮮でデノミネーションが行われたことを初めて認めました。
当局者はデノミで闇市場や外貨流通量が縮小するとの考えを示し、社会主義経済に回帰する姿勢を鮮明にしたと報じられています。
****北朝鮮、デノミを公式確認 社会主義経済への回帰を強調*****
北朝鮮の朝鮮中央銀行当局者は3日、北朝鮮でデノミネーションが行われたことを初めて認めた。(中略)
朝鮮新報は「1人あたり10万ウォンまで」との指示が出たとされる限度額には触れなかった。ただ、当局者は「銀行預金の金は10対1で交換する。預金を奨励している」と語ったほか、「流通量を減らし、貨幣の価値を高める」とも説明し、交換できる限度額を定めたことを示唆した。
また、朝鮮新報は「工場などで受け取る生活費はこれまでの金額が保証される」と伝えた。北朝鮮関係筋によると、労働者の給与や国営の食堂、商店の価格、公共交通機関の運賃は据え置き、「自由市場」と呼ばれる闇市場など国家の統制が利かない価格のみを100分の1にすることで、市民の経済活動を国家が管理、監視する枠内に押し込める狙いがあるという。
韓国政府などは、デノミによる商品の売買停止や新貨幣への交換制限などが原因で、北朝鮮国内で混乱が起きているとの情報を得ていた。しかし、当局者は朝鮮新報に「1~2日は混乱があると予想していた」と強調。同紙も平壌市内の食堂や商店が4日、新価格で「正常な営業」を始めたと伝えた。
また、当局者は今回の措置について「自由市場経済ではなく、社会主義経済管理原則を強固にする。市場の役割は徐々に弱まる」と説明。外貨ショップでも今後は、北朝鮮の通貨を使うことになるとの見通しを示した。
今回のデノミについて、最高人民会議常任委員会の政令が出たほか、執行のための内閣決定も出たという。当局者は「非合法な金が合法的な金にすり替わらないよう、電撃的に進めた」と語り、闇市場の商人などを標的にしたとの考えをにじませた。【12月4日 朝日】
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【崩れるフィクション「社会主義の楽園」】
北朝鮮は90年代後半、経済のマイナス成長、干ばつと飢餓という苦境のなかで、市場改革の実験を開始。
金正日総書記が中国を3回訪問し、01年には軍幹部を引連れて上海証券取引所を訪れています。
02年までには、価格統制の緩和と収益の一部を個人に与える奨励金を導入、更に、自由市場が食料品以外の日用品を扱うことも黙認しました。
こうした市場経済を部分的に取り入れる試みは、当局の管理能力上回るペースで自由市場経済や対外貿易を拡大させたようです。
外国との取引拡大、密輸品の横行によって、「社会主義の楽園」というフィクションを維持するのが困難になり、危機感を強めた北朝鮮当局は05年頃から、食糧配給制を再導入、自由市場の取締を強化、価格統制の復活、奨励金の廃止など、改革に歯止めをかける動きに転じます。
06年には政権指導部から、改革路線につながる勢力を排除します。
しかし、すでに多くの国民が民間経済に依拠するようになっており、また、改革を志向する若手テクノラートグループの存在もあって、自由市場の取締は中途半端になっており、今では国民のほぼ半数が全収入を民間部門から得ているとも言われています。
こうした背景には、金総書記自身が一党支配のほころびを危惧しながらも、対外交易による利益をほしがっているという、迷いがあるとも。【12月9日号 Newsweek日本版より】
今回のデノミ実施は、中途半端になっていた自由市場経済で利益をあげ続ける商人を標的とし、社会主義経済管理原則を明確にしようとするものです。
【住民らの怒りと警備強化】
当局の強硬姿勢に対する住民の不満も伝えられています。
****北朝鮮で新貨幣への交換低調、住民らの抵抗か*****
デノミネーション(通貨呼称単位の変更)を実施した北朝鮮で、1日から貨幣交換が始まったが、同措置に対する反発の現れなのか、住民らが積極的に交換に応じておらず、軍当局は万一の事態に備え、警備を大幅に強化し、緊張感が漂っている。
中国・舟東地域の北朝鮮貿易商や対北朝鮮貿易商が3日に明らかにしたところによると、新義州をはじめとする北朝鮮全域で2日から、新貨幣交換が行われているが、突然の措置による衝撃と虚脱感に陥った相当数の住民が交換を避けている。
ある対北朝鮮貿易商は、「うわべは平穏に見えるが、苦労してためた金の多くが紙くずになるかもしれないという思いから、住民らは当局の措置に憤りを感じている」と説明した。
6日以降は旧貨幣は使用できないとの発表にもかかわらず、交換する人は多くなく、朝鮮中央銀行貯金所は閑散としており、こうした状況は当局に対し露骨に反感を示したり、反発できないことを周知している北朝鮮住民らの消極的な抵抗の表現だと話した。
また、こうした世論が突発的な集団行動に広がることを懸念した軍当局が住民の動向を綿密に注視しながら、警備を強化したため、貨幣交換2日目を迎えた新義州でも新貨幣を見ることは容易ではないという。
デノミ措置に続き、外貨使用も中断させたと伝えられ、住民らがコメなど生活必需品を買いだめし、数倍から数十倍に物価が暴騰するなど、今回の措置に伴う混乱も日々拡大していると、北朝鮮貿易商らは伝えた。(後略)【12月3日 聯合ニュース】
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開放経済の先駆者であり、北朝鮮の後ろ盾でもある中国の外務省の胡正躍次官補(アジア担当)は4日、「(北朝鮮)国民への心理的影響は大きく、ショックもあると思う」との懸念を示しています。ただ胡次官補は、「(北)朝鮮側が慎重に考えて取った行動で、今の朝鮮の社会体制下では大きな混乱はないだろう」との見方も示しています。
北朝鮮に開放経済への移行を促してきた中国としては、「社会主義経済管理原則の明確化」というのは歓迎できないものでしょうが、北朝鮮の混乱も困ります。
国民の権利意識が高まり、治安当局と住民の衝突が多発している中国だったら政権を転覆させる大暴動がおこるところですが、なにぶん普通の国ではない北朝鮮のことでよくわかりません。
北朝鮮からは、このところ“女性の自転車を禁止する措置”【11月7日 朝日】や、党機関紙による“男女の正しい髪型に関する指導”【11月20日 AFP】など、社会的締め付けを強化する施策が報じられていました。
今回の交換額上限を設定したデノミは、一部商人の利益を吸い上げるだけでなく、民間経済を委縮させ、そこに頼っている多くの国民の生活を直撃します。
こうした締め付けがうまくいくのか、国民が不満を爆発させるのか、あるいは強まる不満が深く潜行するのか・・・?