孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  アフガニスタンへの3万人増派で、11年7月撤退開始・・・厳しいシナリオ

2009-12-02 22:17:32 | 国際情勢

(オバマ大統領のアフガニスタン増派に関するスピーチの中継を見るベトナム系の人々(またはベトナム人)“ベトナム化”する“オバマの戦争”をどう見るのか?“flickr”より By americancenter
http://www.flickr.com/photos/achanoi/4151943773/)

【「世界の安全保障の命運がかかっている」】
アメリカ・オバマ大統領のアフガニスタン増派がようやく発表されました。
アフガニスタン駐留米軍トップのマクリスタル司令官が今夏、4万人規模の増派を求め、オバマ政権と議会指導部で協議が行われてきましたが、アフガニスタン国内の大統領選挙をめぐる混乱、アメリカ国内のアフガニスタンでの戦争に対する支持の低下、一方で、アフガニスタンにおけるタリバンの攻勢によって、ここで増派しないと勝利は難しいとする現地軍の判断などもあって、オバマ大統領にとって難しい決断であり、それだけに時間を要しました。国内では、その判断の遅さへの批判もありました。

****アフガン米軍 11年7月撤退開始へ 大統領新戦略発表 半年で3万人増派*****
オバマ米大統領は1日夜(日本時間2日午前)、ニューヨーク州の陸軍士官学校で演説し、3万人の兵力増派と、2011年7月までに米軍の撤退開始を目指す、などとするアフガニスタン新戦略を発表した。演説でオバマ大統領は「(テロ組織の勢力が強い)アフガンの治安回復に、米国だけでなく世界の安全保障の命運がかかっている」と強調し、国民に増派への理解を求めた。

オバマ政権で、アフガンへの増派決定は3月の2万1千人に続いて2回目。今回の増派でアフガンに駐留する米兵は約9万8千人に達する。オバマ大統領は英国やドイツ、フランス、イタリアなどの同盟国に対して計1万人の増派を要請しており、アフガンに駐留して対テロ作戦などを任務とする国際部隊は14万人規模に上る見通しだ。

演説でオバマ大統領はアフガンでの戦いを続行する理由について「国際テロ組織アルカイダは、アフガンとパキスタン国境を自らの安全な隠れ家とし、パキスタンの核にも触手を伸ばしている。アルカイダを解体しなければ米国と世界の安全は保障されない」と指摘。さらに大統領は増派完了までの期間を半年とした上で、「増派でアフガン国軍の訓練にも力を入れるが、国を守る主体はアフガン政府であり国民。米国はアフガンのパートナーではあるが、スポンサーではない」と述べ、アフガンの自立を促した。
また、大統領は撤退時期を設定した理由について「アフガン政府に切迫感を持ってもらうためであり、(人件費だけで)300億ドル(約2兆6千億円)かかる戦費も無視できない」と強調。その一方で、国連と協力し農業支援などを推進していく考えを表明した。(後略)【12月2日 西日本】
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マクリスタル司令官が求め、ゲーツ国防長官やマレン統合参謀本部議長も支持した4万人規模の増派には及びませんが、今回の3万人で10万人規模の兵力展開となります。3月の2万1千に合わせると、その半数以上をオバマ大統領が派兵決定したことになり、アフガニスタンの戦いは“オバマの戦い”となります。

【数と時間の問題】
この“オバマの戦い”が勝利に結びつくのかどうかについては、いくつかの疑問もあります。

アメリカの対ゲリラ戦略では住民1000人を守るには兵士20人が必要とされています。
その計算でいくと、アフガニスタン国民を守るためには67万人の兵力が必要とされています。
アメリカ軍約10万人に、NATO軍3万人、アフガニスタン軍15万人を加えても、大幅に不足します。
増派の目的として「武装勢力の掃討と、主要な人口集中地区の治安安定」に加えて、「有能なアフガン治安部隊の強化」を挙げられているように、今後、アフガニスタン軍・警察の育成がアメリカにとっての重要な課題となりますが、それでもアフガニスタン治安部隊の質の問題、絶対数の不足には懸念が残ります。

増派は来年1月から段階的に行われ、来年夏には完了するとされています。
追加部隊の配備には1年近くかかると言われていますが、かなりタイトなスケジュールです。
今回、泥沼化の懸念に対処するため、「出口戦略」として、“11年7月までに米軍の撤退開始を目指す”とされていますが、その撤退開始決定までに増派の成果を示せるか・・・時間的にはかなり厳しいものがあります。

【統治改善できない場合は?】
アフガニスタン政府が統治改善などで成果を出さなければ、派兵の延期や中止もありうるとされています。【12月1日 朝日】
ベトナムの経験からしても、国民の支持を失った腐敗政権をいくら支援しても成果はだせません。
しかし、アフガニスタンの大統領選挙をめぐる混乱を見ると、カルザイ政権が今後、腐敗・汚職を一掃し、統治改善の成果を示すというのは、あまり期待できません。
なお、ヒラリー・クリントン国務長官は、「現代的な民主主義による機能的な国家をアフガニスタンに築き、多くの素晴らしい手段でアフガニスタンの人びとを助けるなどと吹聴する時代では、もはやない」と述べ、米国のアフガニスタン政策は国際テロ組織アルカイダの撲滅であって、アフガニスタンに民主主義を根付かせることではないこと、オバマ政権における最重要課題は米国の安全保障であって、米国や米国民に対する攻撃をいかに防ぐことができるかということだと強調しています。【11月16日 AFP】
外国軍を受け入れ、誤爆などで犠牲を出しているアフガニスタン国民にとって、一体何のための戦いなのかという基本的な疑問にもなりますが、アフガニスタンに民主的な統治が根付くことについて、アメリカも諦めているようにも思えます。

【戦争税】
オバマ大統領も指摘している“(人件費だけで)300億ドル(約2兆6千億円)かかる戦費”も重大な問題となってきます。
ただでさえ、アメリカ国民のアフガニスタンでの戦争に対する支持は低下しています。
11月の世論調査では、アフガニスタンでの戦争を戦うことが「正しい」と考える米国民は48%で、10月調査の52%から低下、過半を割りました。
また、アメリカ国内では医療保険制度改革をめぐって、財政問題が論議されている時期だけに難しい問題となります。
有力議員の間からは“戦争税”の議論も出ていますが、税負担が表面化すれば、戦争への支持は更に低下するのではないでしょうか。

****米国:アフガン追加増派戦費2.5兆円 戦争税導入の声も****
アフガニスタン駐留米軍の追加増派を巡り、米国内で、莫大(ばくだい)な戦費への懸念が増大している。オバマ大統領は1日、3万人超とされる増派を発表する予定だが、米兵1人当たりの費用は年間100万ドル(約8600万円)で、新たに300億ドル(約2兆5800億円)以上が必要な計算となる。深刻な財政赤字を抱える中、「戦争税」の導入を訴える連邦議員もいる。
11月29日には複数の議員が米テレビに出演、「戦費議論」が沸騰した。財政赤字が09会計年度(08年10月~09年9月)に1兆4171億2100万ドルと過去最悪を記録。戦費をどうひねり出すかで苦慮しているためだ。
「歳出委員長として、連邦予算全体を見なければならない」。こう主張し「戦争税」導入を唱えたのはオビー議員(民主)。内政最大の課題である医療保険制度改革の費用が「10年間で9000億ドル」かかることを指摘し、アフガン戦争が長期化するならば、戦費の国民一律負担が必要だと説明した。
同じ民主党でも、レビン上院軍事委員長は「米国は不況の中にある」として、一律増税には反対。その代わり、年収25万ドル以上の富裕層を対象にした増税は議論の対象になるとの考えを示した。
追加増派に積極的な共和党も来年の中間選挙を控え、戦費の増大は重大な関心事だ。上院では近く、医療保険改革法案の審議が始まるが、重鎮のルーガー議員は「気候変動対策法案と同じように、審議を来年に先送りしてはどうか」と提言した。【12月1日 毎日】
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なお、議会調査局によると、2001年以降の対テロ戦費の累計は10会計年度(09年10月~10年9月)の予算要求分を含めると、約1兆800億ドル(約95兆円)。うち約7500億ドル(約66兆円)をイラク戦費が、約3000億ドル(約26兆円)をアフガン戦費が占めているそうです。【11月25日 時事】
これだけの巨額の税金を戦争に費やすアメリカの“熱意”と“体力”には感心します。

【同盟国の協力】
今回の増派にあたって、“英国やドイツ、フランス、イタリアなどの同盟国に対して計1万人の増派を要請”とありますが、アメリカ国内でさえ支持が低下している戦争に、おいそれと同盟国も増派はしません。
今のところ、ブラウン英首相は500人規模の増派を公表しています。
サルコジ仏大統領は、オバマ米大統領が発表したアフガニスタンへの増派を「(オバマ大統領の)演説は勇気と決意に満ちた明快なものだ。これにより、国際社会による貢献に新たな弾みがつき、新しい展望が開かれた。(フランス)大統領はこれを全面的に支持し、アフガンの人々を助けたい国々にも支持を呼びかけている」と、歓迎することを表明はしていますが、速やかにフランスもこれに追随するとは言明していません。【12月2日 ロイター】仏政府高官は11月30日、「仏は(アフガンに)大きな貢献をしており、現在、増派の予定はない」とも語っています。

【大統領の責務】
イラクでの増派は効果をあげましたが、今回はどうか・・・?
最悪の場合、成果をあげられず、現地政権は腐敗が改まらず、アメリカ国民の支持は失われ、同盟国の支援も期待できず、財政負担はアメリカ経済の足かせとなり、撤退しようにもできない泥沼化・・・という危険も十分にあります。
それでも決断しなければならないアメリカ大統領の責務というのは、凡人には想像しがたいものがあります。

コメント
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