(07年6月 イラン政府がガソリン割当制を抜き打ち的に発表した日のガソリンスタンドの混乱 もしガソリン禁輸という事態になれば、市民生活への影響は甚大で、アフマディネジャド大統領への不満も一気に高まりそうです。ただ、そのあとイラン国内がどういう方向に向かうのかはよくわかりません。
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【国際圧力への反発強めるイラン国内強硬論】
イランの核開発問題に関する交渉が暗礁に乗り上げています。
「平和目的」とイランが主張する核開発に対し、国際社会はイランが秘密裏に核兵器を開発しているとの疑念を持っており、両者の対立が次第に高まっています。
国際原子力機関(IAEA)は、イランの低濃縮ウランを国外に移送し、軍事転用しにくい核燃料に加工して送り返す構想を提案。
受け入れを渋るイランに国際社会は圧力を強め、IAEAの定例理事会は11月27日、イランが中部コム近郊に建設中の第2ウラン濃縮施設の存在を9月まで申告しなかったことに対し、同施設の建設中止などを求める決議を賛成多数により採択しました。IAEA理事会による対イラン決議は06年2月以来3年9カ月ぶりで、国連安全保障理事会に報告されます。
こうした一連の国際社会の対応に、イラン国内では「西側との対話を打ち切るべきだ」との強硬論が高まり、イランのラリジャニ国会議長は11月29日、国会で「(米欧が)ばかげた『アメとむち』の政策をやめなければ、我々は政策を転換してIAEAへの協力を大幅に縮小する」と述べています。
ラリジャニ国会議長の発言は、第2の濃縮施設への査察に協力したのに、国際社会から圧力が強まったことに反発する国内の空気を反映したものです。
また、イラン国会(定数290)では同日、200人以上の議員が連名で、IAEAへの協力縮小を求める声明を発表しました。
****イラン:核施設増設計画を発表…IAEA決議や米欧に不満*****
イラン政府は29日、新たに10カ所のウラン濃縮施設の増設計画を発表した。国際社会への挑戦とも受け取れる計画には、第2ウラン濃縮施設の建設中止を求めた国際原子力機関(IAEA)の決議や米欧への強い不満がある。「核の平和利用の権利を奪われた」と考えるイランでは、核拡散防止条約(NPT)脱退論などが台頭。アフマディネジャド政権にはこうした強硬論の「ガス抜き」を図ると同時に、米欧との交渉材料に使う狙いがあるとみられる。
「決議が出るまで、10カ所の施設増設を進めるつもりはなかった」。サレヒ原子力庁長官は30日、イラン国営ラジオにこう語り、27日のIAEA理事会で採択された事実上の対イラン非難決議への不満をあらわにした。
イランにとって、IAEAへの第2濃縮施設の申告遅れを非難されることは織り込み済みだったが、「施設の即時停止」要求は想定外だった。10月末にIAEAの現地査察を受け入れ、核兵器開発の証拠が出なかっただけに、イラン側にすれば有罪の「推定判決」を突き付けられた形だ。
イランはIAEAを仲介役とする核交渉で、平和利用を条件に「ウラン濃縮の容認」を取り付けようとしてきた。
だが、決議が核開発自体の後退を求めたため、ラリジャニ国会議長は30日、「NPTの加盟国であっても、脱退しても(得られるものに)違いはない」と述べた。
ただ、アフマディネジャド政権にはこれ以上の国際的孤立を避けたい意向もあり、一部保守強硬派の反発にどこでブレーキをかけるかが次の焦点になる。【11月30日 毎日】
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このイランのウラン濃縮施設10カ所増設計画については、10カ所もの増設の必要性に疑問が残るほか、建設に必要な技術の裏付けに欠けるため、核専門家は「現実的とは考えられない」とみています。【同上】
【ガソリン禁輸】
今後の欧米諸国の追加制裁として、イランへのガソリン禁輸が検討されています。
ガソリン禁輸が現実のものとなると、イラン国内で、もともとインフレ対策などの経済対策での失敗を批判されているアフマディネジャド大統領の立場は、かなり苦しいものとなることが予想されます。
****イラン:格安ガソリンの割当削減 政府、追加制裁を前に****
イラン核開発問題を巡る交渉が行き詰まる中、米欧諸国が追加制裁としてイランへのガソリン禁輸を検討している。これに伴いアフマディネジャド政権は、予想されるガソリン不足も念頭に、格安ガソリンの「割当量削減」に乗り出す。格安ガソリンは膨大な国庫補助金に支えられているが、「補助金の見直し」も検討中で、追加制裁が実施されれば、国民生活への打撃は避けられそうにない。
屈指の産油国であるイランは、大量の石油を輸出する一方で、精製能力の不足などからガソリン消費の3割以上を輸入に頼る。ただ、ガソリンの販売価格は国の補助により、1リットル1000リヤル(約10円)と格安に抑えている。インフレが進む中でも、低価格のガソリンが庶民の足を支えている。
だが、ガソリン消費の増大に頭を痛めるイラン政府は07年に「割当制」を導入し、格安で購入できる量に制限を設けた。
こうした中、米欧で追加制裁論議が高まり、予想されるガソリン不足に対応するため、政府は先月、各家庭に対し現在の1カ月当たり100リットルの割り当てを80リットルに削減することを決定。今月下旬に導入予定だ。割当量を超えるガソリンは、4倍高い「市場価格」で買わざるを得ない。
政府は「ガソリン補助金」の見直しも進める意向で、そうなれば、価格の大幅上昇と国民負担の増大は必至だ。
テヘラン市内のガソリンスタンドで給油していた自営業のモウラディさん(22)は「通勤だけでもガソリンの割り当てが不足ぎみ。価格が上がれば金がない僕たちは車に乗れない」と嘆く。
6月の大統領選以降、政治の停滞に加え、インフレや高い失業率に対し、現政権への国民の不満は依然根強い。生活に身近なガソリン問題は、再び大規模な抗議行動にもつながりかねず、政権にとっても危険な「火種」になりそうだ。【12月2日 毎日】
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アフマディネジャド大統領は、こうした欧米諸国との決定的対立・追加制裁という事態を避けるため、IAEAの低濃縮ウランの持ち出し提案が出された当初、「核燃料の交換を歓迎する。西側諸国との協力への準備ができている」と語るなど、交渉に前向きな姿勢を見せていました。
しかし、その後の国内保守派の強硬論に押される形で、「段階的な搬出なら応じる」「外国が核燃料を提供するのが先だ」など後退を余儀なくされてきました。
イラン国内の政治情勢はよくわかりませんが、強硬論の高まりの背景には、アフマディネジャド大統領を政治的に追い詰める動きもあるのでは・・・とも思われます。
結局、アフマディネジャド大統領は2日、低濃縮ウランを国外に輸送して加工し、研究用原子炉の燃料として戻す計画について、「これ以上の交渉はしない。我々が必要なものはすべて自前で生産する」と述べ、拒否する考えを示しました。10月から再開した核交渉で模索された計画は白紙に戻った形で、年末を期限とした交渉は絶望的な状況となっています。
【イスラエル、ロシア、そして中国】
もっとも、“オバマ米政権は制裁強化をちらつかせながらも、交渉による問題解決に望みをつなぎたいのが本音だ。公言してきた年内をメドに、イランの真意に加え、中露による制裁強化への協力の可能性を見極める方針とみられる。”【11月30日 毎日】とも報じられています。
アメリカ政府高官は、27日の対イラン非難決議を採択後も、12月中は国連安保理常任理事国とドイツの6カ国による「緊密な協議」が続くとしています。
その背景としては、イランの核施設に対しイスラエルが軍事行動を起こす可能性がある中、イスラエルを刺激しないためにも、交渉による核問題の解決が望ましいとの考え方があるとか。
また、制裁へ移行するにしても、中露を含む「国際社会の団結」を得るためには、年内いっぱいの交渉継続が必要と判断しているとも。
ロシアはこのところIAEAの決議を支持し、制裁についても理解を示すなど、欧米との協調を強めています。
また、イラン南部にあるブシェール原発への技術協力でも、ロシアは予定していた年内の本格稼働の延期を発表。
さらに、高性能の対空ミサイルシステム「S-300」の売却契約についても、アメリカ・イスラエルの反対もあって、先延ばしにしています。
こうしたロシアの対応にイランは反発を強めており、アフマディネジャド大統領は、ロシアがIAEAの決議を支持したことを「情勢を見誤り、間違った行動をした」と、異例の批判を行っています。
追加制裁、ガソリン禁輸となると、注目されるのが中国の対応です。
中国は「制裁や圧力は問題を解決する方法ではない」(外務省報道官)との立場で、11月23日付の英紙フィナンシャル・タイムズは中国の国営企業が第三国を通じた貿易でイランの石油製品輸入の3分の1をまかなっていると報じています。
イラン国内の強硬派とイラン核施設攻撃を希望しているイスラエル、両サイドからの突き上げ。石油製品輸入で大きなシェアを占める中国の対応・・・こうした枠組みの中で、追加制裁を含めたギリギリの交渉が続きます。