(11月17日 会談するオバマ大統領と中国・胡錦濤国家主席
“flickr”より By rebuildingdemocracy
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【積極的なオバマ大統領、警戒する温家宝首相】
それを「G2」関係と呼ぶかどうかは別として、中国が米国債の最大の保有国であり、内需拡大に努めているものの、中国経済が対米輸出に大きく依存しており、両国は運命共同体的な関係になっていることは確かなことでしょう。
また、温暖化対策とか、北朝鮮やイランなどの“問題国”への対応において、米中の合意が不可欠であることも確かです。
ただ、こうした「G2」関係について、中国に国際社会における応分の役割を果たしてもらいたい、特にアフガニスタンを含めたアジア地域での指導的な力を発揮してもらいたいアメリカ・オバマ政権が積極的であるのに対し、中国国内には、身の丈以上の責任を押し付けられることを警戒する空気もあるようです。
****「米中のみ問題解決可能」 オバマ氏、G2化に積極姿勢****
ハンツマン駐中国米大使は11月20日講演し、オバマ米大統領が中国訪問前に「われわれ2カ国だけが(世界的な)問題を一緒に解決できる」と述べ、G2(二大国)化に積極姿勢を示していたことを明らかにした。中国の温家宝首相はオバマ氏との会談でG2化に賛成しない立場を表明したが、オバマ氏は中国に対し、ともに地球規模の問題解決を主導する役割を期待していることが鮮明になった。【11月20日 共同】
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オバマ米大統領と中国の温家宝首相が11月18日に北京で会談した際、温首相は、米中2大国が国際社会を主導すべきだという「G2論」について、「一つや二つの国が世界の問題を決められるわけがない」と否定しています。
【米中貿易摩擦と元安批判】
「G2」関係で国際社会を主導するか否かに関わらず、国際的な影響力を発揮し、国内での権力を維持していくためには、いずれの国も経済的繁栄が必要です。そして、経済的繁栄のためには、世界経済の枠組みの一員になることが必要であり、そのルールに従うことが求められます。
世界経済の重要なルールのひとつが公正な為替政策です。
貿易不均衡を抱えるアメリカ側には、中国の元安政策への批判が以前からあります。
中国への“配慮”から、ここのところあまり表面化していませんでしたが、またアメリカ議会で批判が高まっています。
****米製造業の苦境、議会で中国の人民元安に批判*****
米議会で中国の為替政策に対する批判が高まっている。
人民元安によって流入する安価な中国製品で米製造業が苦境に陥っている事態を放置できないという政治的な思惑が背景にあるとみられる。
米議会の米中経済安全保障見直し委員会が19日公表した年次報告書は「中国政府による強い介入で人民元は極めて過小評価されている」と批判し、米政府に「中国により柔軟な為替政策をとるよう迫るべきだ」と求めた。
米議会の公聴会でも政府の姿勢を問う質問が相次いでいる。グラスリー上院議員(共和)は20日、米財務次官補(国際金融担当)に指名されたチャールズ・コリンズ氏に対して「中国の為替操作は世界経済の回復を妨げている。どう対応するつもりか」と不満をぶつけた。
来秋の中間選挙を控えて産業界支援を打ち出したい米議会が批判の矛先を中国に向けた側面もありそうだ。【11月22日 読売】
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かつて、アメリカのベトナム戦争などによる財政赤字、日本・ドイツなどの膨大な貿易黒字は従来の為替制度維持を困難にし、日本はアメリカとの貿易不均衡による“日米貿易摩擦”という形で、国内産業政策に関してアメリカから強い要請を受けたこともあります。結果的に、膨大な貿易不均衡のもとでは固定相場制は維持できず変動相場制制に移行し、自動車輸出に対するアメリカからの批判に対応して、輸出規制やアメリカでの現地生産に切り替えることになりました。
当時の印象としては、あまり努力もしていないアメリカ側の日本への“理不尽な要求”という感もありました。
元安政策はかなり中国当局の意図的な政策のようにも思えますが、それでも中国は強気の姿勢を崩していません。アメリカ側の要求に配慮せざるを得なかった当時の日本とは、現在の中国は立場が異なります。
【温家宝首相、批判を一蹴】
****中国・EU会談 「元高圧力は不公平」 温首相、異例の“米批判”****
中国の温家宝首相は30日、江蘇省南京で欧州連合(EU)との定期首脳会合を行い、EU議長国、スウェーデンのラインフェルト首相や欧州委員会のバローゾ委員長や、人民元問題や地球温暖化対策について論議した。会合後の記者会見で温首相は、「一部の国は中国に対し貿易保護主義で臨む一方、人民元上昇も求めている。これは不公平で中国の発展を妨げている」と元高圧力を牽制(けんせい)した。米国を念頭に置いた発言とみられ、EUと天秤(てんびん)にかける政治的な駆け引きを始めた可能性もある。
巨額の対中貿易赤字に苦しむEU側は会合で、安すぎる人民元相場が不均衡の一因と指摘した。だが温首相は会見で、「安定した人民元相場が中国経済の発展だけでなく世界経済の回復に寄与している」として一蹴(いっしゅう)。さらに、「(元高の圧力を加える)一部の国は中国の発展を押さえ込む意図を持っている」と語気を強めて、2人のEU首脳を会見に同席させながら、“対米批判”とも受け取れる異例の発言を繰り広げた。
金融危機で輸出が低迷する中、中国は昨年来、人民元を1米ドル=6・83元前後でほぼ固定している。温首相が相場安定にこだわるのは、元高に応じれば、中国にとって本格的な景気回復に欠かせない輸出振興の妨げになるとの判断に加え、金融危機で地盤沈下した欧米からの圧力を押し返す政治的パワーを得たことを示すためだ。
一方で温首相は、「主体的に人民元相場のメカニズムを改善し合理的でバランスの取れた水準で人民元の安定を保つ」と改革の余地があることも示唆した。
会見でEU側は、人民元や人権問題について「懸念を持っている」(ラインフェルト首相)と述べるに止まり、協議の主導権を中国に握られたことを色濃くにじませる結果になった。(後略)【12月1日 産経】
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【“主体的”な改善】
“2人のEU首脳を会見に同席させながら、“対米批判”とも受け取れる異例の発言を繰り広げた” 温家宝首相の強気な姿勢は、現在の中国経済への自信のあらわれでしょう。
“日米貿易摩擦”の記憶からすると、うらやましいところもありますが、“主体的”な改善の余地もあるそうですから、世界経済システムを麻痺させないような、責任ある大国の対応を期待したいものです。
結局は、そうした世界経済システムの維持・発展が中国自身の利益にもつながることかとも思います。
当然、そういう対応を引き出すためには、それなりの働きかけが必要なことは言うまでもないことですが。
先のオバマ訪中について、“オバマ、胡錦濤両首脳の記者会見は、オバマ氏の低姿勢ぶりが目立った。かつて訪中した米国の大統領は、中国の人権抑圧や人民元レートを含む通商問題などで改善を迫ったものだが、オバマ氏はチベット問題でも対話を促すにとどめ、為替問題にも踏み込まなかった。”【11月18日 産経】といった、オバマ大統領の“低姿勢”を批判する論調が日本でも、アメリカでも多いようです。
しかし、それは“高圧的姿勢”でなければアメリカの威厳が保てないという考えの裏返しのようで、いかがなものかと思いますし、中国は“面子”を重んじる国でもあります。“低姿勢”だろうがなんだろうが、協議・交渉の途が開け、結果として成果がだせるなら、それはそれで。
個人と個人の関係でも、公衆の面前で相手の欠点をあげつらって、良い関係が結べることはありません。
そういう当たり前のことが、国と国との関係になると、国家の威信とかが絡んで見えなくなってしまうのは愚かしいことです。