孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ、パキスタンでの無人攻撃機使用地域を拡大か パキスタン側に激しい反発

2009-12-07 20:37:17 | 国際情勢

(無人攻撃機プレデター “flickr”より By JimNtexas
http://www.flickr.com/photos/jimntexas/439385855/)

【新戦略の一環 無人偵察機によるピンポイント攻撃拡大】
オバマ米大統領は今月1日、駐留米軍の3万人の追加増派と、2011年7月までの撤退開始を柱とするアフガニスタン新戦略を発表しました。
アフガニスタンでのこうした新戦略が狙いどおりにいくかどうかは、武装勢力の温床となっており、その指導者の拠点ともなっているパキスタン北西部における掃討作戦が成果をあげられるかどうかが重要なカギとなっています。
また、アメリカがアフガニスタンに固執するのは、最終的には核保有国であるパキスタンの安定化が目的とも言われています。

したがって、アフガニスタンとパキスタンでの取り組みは一体のものとなっていますが、アフガニスタン新戦略発表に関する多くの記事に隠れるように、ちょっと気になる記事がありました。
アメリカCIAがパキスタンにおける無人攻撃機の使用エリアを拡大するというものです。

****アフガン新戦略:CIAの無人偵察機攻撃拡大か 米紙報道****
4日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、ホワイトハウスが、米中央情報局(CIA)による無人偵察機(プレデター)を使ったパキスタン北西部での武装勢力掃討作戦の拡大を許可したと報じた。複数の政府高官の情報として伝えた。オバマ大統領が1日に発表した、3万人規模のアフガニスタン駐留米軍増派を核とするアフガン新戦略の一環とみられるという。
同紙によると、オバマ政権はこれまで、アフガンとの国境沿いのパキスタン北西部の部族地域を中心に、無人偵察機による掃討作戦を展開した。今後はこの地域に加え、同部族地域の南方にあり、反政府武装勢力タリバンの指導者らの拠点があるとされるバルチスタン州にも拡大するという。
CIAは、無人偵察機による攻撃の実施は認めているが、規模など詳細は明らかにしていない。同紙によると、ブッシュ前政権時代に比べ、オバマ現政権下での攻撃回数は増えているという。

オバマ政権内には、米国防総省を中心に、地上部隊の増強を求める勢力と、米兵被害を減らすため、無人偵察機によるピンポイント攻撃を多用すべきだとするバイデン副大統領らを中心とした民主党系の勢力がある。オバマ大統領は、いずれの要請にも応える戦略を策定したとされる。
パキスタンの国内メディアや国際人権団体は、無人偵察機による攻撃で多数の民間人が巻き添えになっていると批判を強めており、オバマ大統領の「決断」の是非をめぐる議論が、さらに活発化するとみられる。【12月5日 毎日】
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【報復テロに揺れるパキスタン】
無人攻撃機は、軍ではなくCIAの管轄にあるのでしょうか。知りませんでした。
それはともかく、“ピンポイント”とは言いつつも、そのポイントに誰がいるのかよく確認されないまま攻撃がなされることも多いため、多数の民間人犠牲者を出すとしてパキスタン側では強い抵抗があります。

パキスタンでは、部族地域の南ワジリスタン地区における「パキスタン・タリバン運動」(TTP)掃討作戦が始まってから、国内での報復テロが吹き荒れています。ここ数日の目についた記事だけでも、
12月2日、首都イスラマバード中心部にある海軍総司令部前で男が自爆し、司令部を警備していた警官1人が死亡、通りがかりの子どもら3人が負傷。
12月4日、北部ラワルピンディの政府軍関係者居住地区に武装集団が押し入り、敷地内のモスクを襲撃、激しい交戦に発展。地元警察によると、死者は少なくとも40人、負傷者は80人超。
12月7日、北西辺境州の州都ペシャワル中心部にある裁判所前で自爆テロがあり、地元テレビによると、少なくとも5人が死亡、10人前後が負傷。

今後、無人偵察機による攻撃が拡大されると、“テロ地獄”の様相は更に深まり、パキスタン側の激しい反発を招くのでは・・・と思われます。アメリカが意図する“パキスタンの安定化”にも支障をきたすのではとも。

【「事実なら国家分裂の危機に直面する」】
そうした懸念は、私の思い込みだけではないようで、パキスタン側の「事実なら国家分裂の危機に直面する」という激しい反発・危機感が報じられています。

****パキスタン:米の無人機攻撃「拡大」 反米、反政府蜂起も*****
米国が無人機を使ったパキスタンでの武装勢力掃討作戦を同国南西部バルチスタン州に拡大すると米紙が報じた問題で、パキスタンでは「事実なら国家分裂の危機に直面する」という懸念が高まっている。
米国に協力的なザルダリ大統領と、攻撃に反発する軍トップのキヤニ陸軍参謀長との対立が決定的となる一方、同州での反米、反政府蜂起が確実視されるからだ。
オバマ大統領は「アフガニスタン安定にはパキスタンの協力が不可欠」と強調するが、むしろ、パキスタン情勢の混乱がアフガン情勢をさらに泥沼化させる恐れがある。

米国はこれまで、アフガンとの国境地帯であるパキスタン北西部の部族支配地域で無人機による掃討作戦を展開してきた。だが、パキスタン治安当局者によると、オバマ政権は発足当初から、バルチスタン州での軍事作戦を求めてきた。アフガンの旧支配勢力タリバンの指導部が同州クエッタと周辺に潜伏しているとされるからだ。
同州はタリバン最大の拠点であるアフガン南部カンダハル州に隣接し、タリバンと同じ民族であるパシュトゥン人が多い。パシュトゥン人の多くは国境をはさんで血縁関係を持っており、バルチスタン州はタリバンの理解者がパキスタン国内で最も多いとされる。
その半面、01年にパキスタンがタリバンとの「決別」を宣言して対米協力路線に転じた後も反米闘争は起きず、激しい反米闘争の舞台となった部族地域とは違う様相を見せた。
これは、同州で強い影響力を持つイスラム政党が武装闘争を回避するよう働きかけてきたためだ。同党は、軍部と太いパイプを持っている。軍部は、アフガンでの影響力を維持したいと考えて「決別」宣言後もタリバンとの接点を維持してきたため、米国が同州での軍事作戦を言い出すことを恐れていた。

治安当局者は「部族地域でのミサイル攻撃は多くの女性や子供も巻き込み、結果的に武装勢力を勢いづかせた」と話す。さらに「部族地域より人口も面積もはるかに大きいバルチスタンが攻撃されれば、反米、反政府闘争の規模は部族地域の比ではない」と述べ、激しい武装闘争が起きることを懸念。同州の武装勢力が米軍攻撃のためにアフガンへ越境すれば、アフガン情勢がさらに泥沼化すると警告した。
さらに同州は、イラン国境近くに住むバルチ人が人口の半数を占め、パシュトゥン人と緊張関係にある。同州のパシュトゥン社会で武装化が進めばバルチ人の武装化を誘発する恐れがあり、「パシュトゥン人武装勢力を抑え込もうと、米国などがバルチ人勢力を支援するのでは」(地元紙記者)との憶測も飛び交い始めた。【12月6日 毎日】
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【アメリカ撤退後】
アメリカは新戦略でも撤退開始時期を明示して、ベトナムのような泥沼化することのない出口戦略を考えていますが、タリバンにしても、アフガニスタン・カルザイ政権やパキスタンにしても、逆にアメリカ撤退後が重要になってきますので、アメリカとは思惑は異なってきます。

ハリルザド元駐アフガン米大使が、かつて武装勢力タリバンから受け取ったメッセージは、「西側諸国には時計があるが、我々には時間がある」という内容だそうです。
感心してしまうほど的確な表現です。撤退を急げば急ぐほど、術中にはまっていく懸念もあります。

パキスタンでも、アメリカ撤退を見据えた議論がなされています。
****パキスタン:米のアフガン「撤退後」を論議 治安悪化懸念****
オバマ米大統領が1日発表したアフガニスタン新戦略で、「パキスタンの協力がアフガンの安定には不可欠」との認識が改めて強調された。しかし、パキスタン側では早くも「米軍のアフガン撤退後」をにらんだ安全保障を巡る論議が始まっている。
米国の8年にわたる武力行使がアフガンの混迷を深め、自国の治安悪化につながったとみるパキスタンの国内に、対米協力への疑念が急速に台頭しているためだ。

「増派される兵士数が問題ではない。我々が注視するのは、それらがどのように使われるかだ」
米軍増派を柱にした新戦略発表を受け、クレシ外相が2日、イスラマバードで記者団に語った。地元紙記者は「アフガン東部などパキスタン国境地域での戦闘強化策に政府は重大な懸念を示した」と解説する。(中略)
(タリバンと「絶縁」を宣言し、米国の「対テロ同盟」に名を連ねたパキスタンの)国内の治安は、02年にパキスタンで初めて自爆テロが起きて以来、市民生活はテロに脅かされ、経済も破綻(はたん)寸前に陥っている。
しかし、オバマ政権は「アフガンの不安定はパキスタンが原因」とみなし、さらなる掃討強化の圧力をかけ続ける。外相発言は「パキスタンの不安定化は米国のアフガンでの失敗に根ざしている」との不満を改めて示したものだが、この意識は、多くのパキスタン人が武装勢力に反感を抱きながらも、武装勢力と敵対する米国への共感につながらない背景となっている。

こうした中、部族支配地域の自治長官を05年まで務めたアフマド・シャー氏が2日、地元テレビのインタビューで、「オバマ新戦略は国境地域の戦闘を激化させ、パキスタンの治安をさらに悪化させる」と警告し、対米支援の見直しを求めた。インドとの対抗上、アフガンに影響力を確保してきたパキスタンにとって、タリバンとの関係が悪化した今、米軍が撤退した後はアフガンでの影響力を完全に失うとの懸念もあるためだ。
地元紙記者は「米国の出口戦略は米国の利益を反映している。パキスタンは今後、米国なき後の安全保障を再構築していく必要がある」と語った。【12月2日 毎日】
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こうしたアメリカ撤退後を見据えた議論からすれば、バルチスタン州への無人攻撃機の使用拡大は、パキスタン国内をさらに混乱に陥れるだけで、とても承服できないものでしょう。
この件は、今後の対米協力にも大きく影響しそうです。

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