孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  独自の姿勢を保持しながらも、高まる中東における存在感 アメリカも役割期待

2009-12-08 22:53:01 | 国際情勢

(今年1月の世界経済フォーラム年次総会(タボス会議)で、イスラエルのガザ侵攻を激しく非難し、会場を退席するトルコのエルドアン首相 “flickr”より By World Economic Forum
http://www.flickr.com/photos/worldeconomicforum/3237550428/

パレスチナ自治区ガザ情勢をめぐる分科会で、国連の潘基文事務総長がガザの現状に強い懸念を表明。
エルドアン首相はイスラエルのガザ攻撃を「行き過ぎた武力行使だ」と批判。
続くイスラエルのペレス大統領は、ガザ攻撃を正当化する主張を約25分間にわたって展開。「ガザの悲劇は、イスラエルの責任ではなく、ハマスの責任だ。ハマスは独裁体制を生み出した。非常に危険だ」などと主張。さらに、エルドアン首相を指さして、イスタンブールがロケット弾攻撃の標的となったならば、トルコも同様の行動を取っただろうと述べた。
これに激高したエルドアン首相が、「あなたは声を荒げているが、それは罪悪感の表れでしょう。あなた方は殺人行為が得意なようだ。海辺にいる子どもたちがどのように殺されたのか、どのように撃たれたのかを私はよく知っている」と反論を始めたところ、司会者が発言をさえぎったため、「私はペレス氏の半分の時間しか発言していない。発言させてもらえないのなら、もうダボスには来ない」と言い残して席を立った。)

【積極的な仲介外交】
このところ中東におけるトルコの存在感が高まっています。
トルコ経済が10年間で2倍以上に成長していること、ロシア、カスピ海沿岸、イランからのパイプライン3ルートがトルコを通過して欧州にエネルギーを供給していることにみられるように、地政学上重要な位置を占めているという事情もありますが、最近の積極的な仲介外交の展開も、存在感を高める理由のひとつでしょう。

トルコ・エルドアン政権は、イラクとシリア、また、イスラエルのガザ侵攻で中断していますが、昨年はイスラエルとシリアの間の仲介を行っています。
中東のもうひとつの地域大国イランがシーア派であり、ハマスやヒズボラ、イエメンの武装勢力とつながるのに対し、トルコがスンニ派であることも、スンニ派の多いアラブ諸国とトルコが良好な関係をつくりやすい背景にあります。

イラクとの関係でも、トルコはイランと並ぶ最大の貿易相手国となっています。
***トルコ首相:イラク首相と関係強化を確認、天然ガス取引も****
トルコのエルドアン首相は15日、イラクの首都バグダッドを訪れてマリキ首相と会談し、両国関係の強化を確認した。ロイター通信などによると、イラクの天然ガス輸出を巡る覚書を含め、両国は約50の合意文書に署名した。
トルコ・イラク関係は、イラク北部に潜伏して対トルコ武装闘争を展開する非合法組織「クルド労働者党」(PKK)を巡り、政治的な緊張が続いている。しかし、経済的には03年のイラク戦争を契機に大きく進展。トルコ企業が復興のけん引役を果たしており、イラクは、トルコにとって欧州域外で第2の輸出相手国になっている。
両国は今回、イラクの天然ガスをトルコに輸出する交渉に入ることで合意した。輸出量は80億立方メートル以上とされ、トルコはこれを欧州向けパイプライン「ナブッコ」などに送り込む「資源集積地」の地位を確立したい狙いだ。一方、イラクにとっても安定供給路の確保につながるメリットがある。【10月16日 毎日】
**********************

イランとも良好な関係にあり、紛糾するイランと欧米諸国との核開発問題でも、実現はしませんでしたがイランの低濃縮ウランを第三国に移送するIAEA案について、トルコは受け入れを申し出ていました。

【トルコに期待するアメリカ】
「イスラムとの融和」を掲げたアメリカ・オバマ政権も、国民の大半がイスラム教徒でありながら世俗主義を貫くトルコに西洋とイスラム世界の橋渡し役を期待しており、大統領就任後に訪れる初めてのイスラム国家にトルコを選び、今年4月の欧州歴訪を終えたあとトルコを訪問しています。
オバマ大統領は欧州歴訪でEU首脳に「トルコを欧州につなぎとめる」よう促し、トルコ国会演説では「トルコは欧州の重要な部分だ。米国はEU加盟を強く支持する」と、トルコ支持を明らかにしています。
もっともこれは、「誰が欧州入りするかを決めるのは米国人ではない」(クシュネル仏外相)といったEU側の不満を買ったようですが。

そのトルコのエルドアン首相がアメリカを訪問しています。
****イラン核で「重要な役割」=トルコに協力要請-米大統領****
オバマ米大統領は7日、ホワイトハウスでトルコのエルドアン首相と会談した。同大統領は会談後の共同記者会見で、イランの核問題解決に向け、「トルコが重要な立役者になり得る」と述べ、協力を求めた。一方で、アフガニスタン安定化への貢献に謝意を示した。
エルドアン首相はこれに対し、「わが地域の核問題を外交的に解決するため、できる限りのことをする用意がある」と応じた。また、両首脳が会談で、テロ対策やイラク情勢、中東和平問題、トルコとアルメニアの関係正常化などを協議したことも明らかにした。【12月8日 時事】
***********************

【従順な「子分」でいるよりも・・・】
アメリカ・オバマ大統領が期待するトルコですが、トルコは決してアメリカの“言いなり”になっている訳ではありません。
トルコ国内には根強い反米感情があります。
03年当時、ブッシュ政権がイラク侵攻のため米軍部隊のトルコ領内通過を求めましたが、トルコはこれを拒否しています。

また、もともとイスラム色の強い与党・公正発展党(AKP)とその指導者エルドアン首相が、次第にイスラム主義に傾斜しつつあるようにも見えることも、アメリカやEUの懸念するところとなっています。
今年1月の世界経済フォーラム年次総会(タボス会議)では、エルドアン首相はイスラエルのガザ侵攻を激しく非難し、会場を退席しました。
また、10月にイランを訪問したエルドアン首相は、アフマディネジャド大統領を「よき友人」と呼び、イランの核開発計画を擁護しています。
ダルフール問題で国際批判を浴びるスーダンのバシル大統領についても、「よきイスラム教徒」であるバシル大統領が大量虐殺の罪を犯すはずはないと、擁護しています。【12月9日号 Newsweek日本版より】

上記Newsweekによれば、“(トルコが米軍の領内通過を拒否した)この時期を境に、アメリカとトルコの関係が変わり始めた。トルコが中東で影響力を強めれば、従順な「子分」でいるより、アメリカの中東政策にとってはるかに貴重な存在になる可能性がある。トルコが目指すのは、ダブトグル外相いわく「地域の問題を解決するパートナー」になること。近年、トルコはその役割を担うだけの力を付け始めた。”

普天間基地問題で軋轢が強まっている日米同盟関係ですが、従順な「子分」でいることをやめて、逆に存在感を高めているトルコのような例もあります。
トルコと日本ではいろんな事情が異なりますし、別にアメリカと事を構えることを勧めはしませんが、ひとつやふたつの懸案事項があることや、ある程度の自己主張をそれほど懸念する必要もないように思えます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする