(ベツレヘムの教会で24日深夜から25日未明にかけ行われる恒例のクリスマスミサ(写真は去年のミサ)
“flickr”より By Directions to Orthodoxy
http://www.flickr.com/photos/directionstoorthodoxy/3141604212/)
【ハマスの「菓子折り」訪問】
今月27日で、イスラエルのガザ侵攻から1年が経過します。
3週間にわたる攻撃で、ガザ地区では1400人の死者が出たといわれています。
1月17日にイスラエルが一方的停戦を発表、ガザ地区を実効支配するハマスも翌18日は停戦を発表する形で戦闘は停戦状態となりましたが、停戦以降もガザ地区からイスラエル領内に撃ち込まれたロケット弾は280発、これに対する報復措置として、イスラエルからのガザへの攻撃は150回ほどあったとのことですので【12月20日 時事】、全く沈静化している訳ではなく、一触即発の緊張状態が続いていると言えます。
ただ、ハマスとしても、境界封鎖が長期化してガザ住民の生活が困窮する状態で、住民からの支持つなぎとめと武力衝突以外の打開策を模索しているようです。
****「菓子折り」で支持つなぎ止め=ガザ24万世帯を戸別訪問-ハマス*****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが先月中旬から下旬にかけ、ガザの全住民150万人の大半が含まれる24万5000世帯に「菓子折り」を配って回ったことが、21日までにハマス関係者の話で分かった。ガザではイスラエルによる境界封鎖などで混乱が長期化しており、住民の支持離れを防ぐのが狙い。
ハマスは約2500人を動員。境界封鎖下のガザでは高級品とされるチョコレートなどの袋詰め(重さ1キロ)を、ハマスの紋章や時候のあいさつが印刷された上質の紙袋に入れ、一軒ずつ戸別訪問した。【12月21日 時事】
*****************************
ハマスは、停戦時も、自宅を失ったガザ住民に対して5200ドル(約46万円)を支給するなど、住民支持を得るための対応をとっています。
イスラム過激派武装勢力と言え、住民の支持がなくては、その力も維持できません。
密輸トンネルが生活物資を運び入れるための生命線になっているガザ地区では、ガザ市民からも「ハマスのロケット弾攻撃はイスラエルに(トンネルへの)空爆の口実を与えるだけ」と、武装勢力を批判する声も上がっています。
こうした不満を和らげるため、ハマスは11月21日には、ガザで活動するパレスチナ武装勢力が、イスラエルへのロケット弾や迫撃砲弾による攻撃を停止することに合意したと、ロケット弾攻撃の停止を発表しています。
生活困窮が続き、資材もなく復興も進まないガザ地区の状況は、「菓子折り」ですむような状態ではありませんが、ハマスの存在を改めて住民に確認させる手段とはなるでしょう。
【次期議長候補を含む捕虜交換交渉】
ハマスと対立するファタハ主導のパレスチナ自治政府アッバス議長が、アメリカのイスラエル寄り路線への転換を非難する形で議長選への不出馬を表明して、パレスチナ全体のかじ取りを今後どうするのかが懸念されています。
その次期議長候補に絡んで、イスラエルとハマスの捕虜交換交渉が注目されています。
****捕虜交換のジレンマ*****
イスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの「捕虜交換」交渉の行方に注目が集まっている。ハマス側が釈放を要求している中に、自治政府次期議長として有力視されるマルワン・バルグーティ氏(50)も含まれており、もし釈放が実現すれば中東和平交渉の行く末をも左右しかねないためだ。
交渉はエジプトやドイツが仲介しているもので、イスラエル側は、約3年半前に誘拐された男性兵士の解放を要求し、ハマス側は、イスラエルで収監中のパレスチナ人数百人の釈放を求めている。11月下旬に「両者が捕虜交換で近く合意する」と報じられたが、その後、釈放人数などをめぐり交渉は再び難航している。
焦点のひとつが、バルグーティ氏の処遇だ。
パレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハで頭角を現したバルグーティ氏は96年、パレスチナ評議会選で当選。2000年の第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)で指導的な役割を果たし存在感を高めた。02年にイスラエルに逮捕され、終身刑を下された後も、獄中から携帯電話で自治政府の重要決定にかかわるなど、影響力は衰えていない。
ハマス側が対立組織の幹部であるバルグーティ氏の釈放を求めているのは、バルグーティ氏が、イスラエル側やハマス幹部ともパイプを持っているためだ。イスラエルによる経済封鎖で困窮する中、バルグーティ氏を通じて事態を打開したいとの狙いが、そこににじむ。ただ、釈放の人数で譲歩すれば住民の信頼を失う恐れもあり、交渉のハードルを下げられない状況だ。
イスラエルも、男性兵士の早期解放を求める世論に配慮する一方、兵士1人に対して多数のパレスチナ人を釈放することへの批判に目配りする必要がある。来年、予定される自治政府議長選でバルグーティ氏が勝てば、「マハムード・アッバス議長が進める(穏健な対イスラエル)外交手法にハマスが好む武装闘争を加味するのではとの不安がある」(11日のロイター通信)ことも、合意をためらう要因となっている。
自治政府も複雑だ。バルグーティ氏が表舞台に再登場すれば自治政府の求心力回復が期待できる半面、現指導部の影響力の低下は避けられない。ハマス、イスラエル、自治政府は、三者三様のジレンマを抱えながら、身動きがとれない状態が続く。【12月22日 産経】
*************************
“獄中から携帯電話で自治政府の重要決定にかかわる”というのも、素人にはよくわからない世界です。
捕虜交換については、11月25日ブログで、“協議が大詰めを迎え、11月27日にも捕虜交換が実現する可能性がある”【11月23日 読売】との報道を紹介したところですが、上記産経記事にあるような状況で、なかなか進展していないようです。
【ペレス・イスラエル大統領、アッバス議長を慰留】
不出馬を表明したアッバス議長の本音はよくわかりませんが、中東和平に積極的なイスラエル・ペレス大統領は電話で「長く政界にいれば失望は人生の一部だ。辞めては何も得られない」とアッバス議長を励ましたそうです。
もっとも、イスラエルの政治の実権は大統領ではなく、和平に消極的な右派ネタニヤフ首相にあります。
****イスラエル大統領「交渉再開望む」 パレスチナ議長に****
ノーベル平和賞受賞者のペレス・イスラエル大統領は23日、昨年末のガザ攻撃から1年を前に朝日新聞と単独会見した。ペレス氏は、ガザ攻撃で止まったままの和平交渉について、パレスチナ自治政府のアッバス議長(大統領に相当)と電話で話し、交渉を早期に再開するよう希望を伝えたことを明らかにした。
オバマ米政権の掲げる中東和平の推進にとっても、穏健派のアッバス氏が不可欠だとの認識を示したものだ。
イスラエル政府がユダヤ人入植の完全凍結などパレスチナ側の要求を拒否するなか、アッバス氏は先月、次の議長選への不出馬を表明した。
これを受けてペレス氏はアッバス氏と電話で会談。「50年間パレスチナのために努力したが、もう疲れた」と失望を表したアッバス氏に、「長く政界にいれば失望は人生の一部だ。辞めては何も得られない。51年目に成果があるかも知れない」と励まし、交渉が「近く再開することを希望している」と伝えたという。
一方、約3週間で市民926人を含む約1400人が死亡した(ガザ人権団体調べ)ガザ攻撃については、ガザを支配するイスラム組織ハマスによる「イスラエルに対するロケット攻撃を止めるため唯一の手段だった」と強調し、軍事力行使を正当化した。【12月24日 朝日】
*************************
アッバス議長は、イエス・キリストの生誕地として知られるヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ベツレヘムの教会で24日深夜から25日未明にかけ行われた恒例のクリスマスミサに出席しました。
ミザに先立ち「われわれは決して後戻りしない」と述べ、改めてパレスチナ国家樹立への決意を示したと報じられています。【12月25日 時事】