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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  “部分的”“一時的”“回限り”の入植凍結

2009-12-11 23:04:51 | 国際情勢

(イスラエルの入植地と隣接するパレスチナ人のブドウ畑 収穫作業も入植者の妨害でままならないことがあるようです。
“flickr”より By michaelramallah
http://www.flickr.com/photos/michaelimage/501155554/)

【「約束の地」】
パレスチナ和平交渉については、イスラエルによる占領地での入植活動の全面凍結を交渉再開の条件とするパレスチナ側と、着工・承認済みの住宅建設を除く「部分凍結」を譲らないイスラエル側が対立していましたが、オバマ米政権は、従来はイスラエルに「完全凍結」を要求する形でパレスチナ側を支えていました。

“イスラエルは第3次中東戦争(67年)で西岸とガザ地区を占領。西岸での入植活動は70年代半ばごろから本格化した。神に与えられた「約束の地」への帰還を掲げる右派・宗教系のユダヤ人が先導し、政府はこれを「追認」。入植地に通じる道路を整備したり、入植者向けに好条件の住宅ローンを提供したりして、事実上、入植を「促進」してきた。このため、入植者の中には自らを政府の「代弁者」と標榜(ひょうぼう)する人も少なくない。
西岸とガザ地区を将来の「パレスチナ独立国家」の領土と位置付けるパレスチナ人と米欧諸国などにとって、入植地の拡充を認めることはパレスチナ国家建設による「2国家共存」構想を否定することにつながる。
イスラエル紙ハーレツのアキバ・エルダー論説委員は入植地問題の背景について、「イスラエルは西岸を占領地でなく『係争地』と考えている」と指摘する。国際法上、占領地への入植は違法だ。だが、イスラエルは自国と西岸の境界(国境)を「今後の交渉課題」と解釈し、自国政府が承認していない入植地のみを「違法」とみなしている。
和平交渉の積極仲介に乗り出したオバマ米大統領は入植活動を完全凍結し、交渉進展の起爆剤にしたい意向。パレスチナ自治政府も和平機運を再喚起する好機ととらえ、オバマ大統領と歩調をそろえている。”【6月23日 毎日】

【クリントン長官 部分凍結を評価】
しかし、10月31日、エルサレムを訪問し、ネタニヤフ・イスラエル首相と会談したクリントン米国務長官が、イスラエルの「部分凍結」を支持し、中東和平交渉を無条件で再開すべきだとパレスチナ側に譲歩を要求したことで、状況が変わりました。

クリントン長官は「ネタニヤフ首相が入植政策について、交渉前の段階で自制を申し出たのは前例のないこと」と称賛し、イスラエルの立場を支持しました。
パレスチナ自治政府が要求するイスラエルの占領地ヨルダン川西岸での入植活動の凍結は「(交渉再開の)前提でない」と言明した長官は「重要なのは協議に入ることだ」と述べ、仲介役として、交渉再開を優先する姿勢を明確にしました。
アメリカは、イスラエルが検討している部分凍結より柔軟な提案を右派主導のネタニヤフ政権から引き出すのは難しいと判断し、パレスチナ側に譲歩を求めていく方針に転換したとみられています。

当然、パレスチナ側の反発・失望は大きく、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、「(アメリカが)イスラエルの立場を支持したことにとても驚いた」と和平交渉を仲介するアメリカへの失望感をあらわにし、議長選挙への不出馬へと至っていることは、以前もとりあげたところです。(不出馬の真意はよくわかりませんが。)

全面凍結を求めてきたオバマ米政権の方針転換とも受けとれるクリントン国務長官の発言を受けて、イスラエル・パレスチナの仲介にあたるエジプトなどアラブ諸国でも、発言の真意を問う声や批判が高まりました。
クリントン長官は、11月4日、カイロでエジプトのムバラク大統領と会談した後、記者会見し、イスラエルによる占領地での入植活動について「我々の政策は変わっていない。入植活動の正当性は認めない。現在も将来も全面的に停止することが望ましい」と強調、また、イスラエル側の部分凍結案について「前例がないが、我々の望むものではない。ただ、(交渉再開にむけ)前向きな動きではある」と釈明しています。【11月5日 朝日】
なんとも微妙な表現です。

【「困難で痛みを伴う決断」】
こうした経緯がありましたが、イスラエルは11月25日、10か月間の「部分凍結」実施を発表しました。

****イスラエル:ヨルダン川西岸入植住宅建設 10カ月間凍結*****
イスラエルのネタニヤフ首相は25日、占領地ヨルダン川西岸での新規の入植住宅建設を10カ月間凍結すると発表した。中東和平交渉の再開を促すのが狙いで、仲介役の米国は歓迎しているが、パレスチナ自治政府は「不十分で受け入れられない」と拒否している。
ネタニヤフ首相は「困難で痛みを伴う決断」と強調したうえで、「我々は和平に重大な一歩を踏み出した。次はパレスチナの番だ」と述べ、自治政府に交渉再開に応じるよう迫った。
ただし、凍結対象は入植地での新規の住宅建設(承認・着工)のみ。既に進行中の住宅建設は続行するほか、学校などの公共施設の建設も除外した。さらに67年の第3次中東戦争で占領・併合した東エルサレムも凍結の対象範囲外とした。(後略)【11月26日 毎日】
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今回の措置について、ミッチェル米中東特使は「入植活動の『完全凍結』には及ばないが、歴代のどのイスラエル政府よりも踏み込んでいる」と評価しています。
また、クリントン米国務長官も25日、「イスラエル・パレスチナ紛争の解決に向けた前進に資する」と歓迎する声明を出しています。

パレスチナやアラブ諸国は強く反発する「部分凍結」ですが、イスラエル内部では、入植者団体などから、凍結することへの強い反発があるようです。

****イスラエル:「入植凍結は1回限り」ネタニヤフ首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は1日、先に発表した占領地ヨルダン川西岸での新規入植住宅建設の10カ月間凍結について「この決定は1回限りだ」と述べ、凍結期間の終了後は入植活動を元通り再開すると強調した。首相の支持基盤でもある入植者団体が凍結決定に反発を強めており、配慮を示した形だ。
ネタニヤフ首相は、10カ月間の「一時凍結」が中東和平交渉の再開を促す努力であると説明。そのうえで「入植地の将来は(パレスチナとの)最終地位交渉で決めるべきことだ」と述べ、凍結を延長する考えはないことを強調した。
和平交渉を仲介する米国はイスラエルの凍結方針に一定の評価を示しているが、当初は「完全凍結」を迫りながら、イスラエルの頑強な抵抗に譲歩した経緯がある。このため、入植者団体は「一時凍結」の終了後、米国が凍結延長の圧力をかけてくると警戒している。【12月2日 毎日】
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****イスラエル:入植凍結に抗議、1万人がデモ*****
イスラエルの占領地ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地問題を巡り、同国政府が先に決めた新規入植住宅の10カ月間の建設凍結に抗議するデモが9日、エルサレムの首相公邸前であった。入植者や右派支持者ら約1万人が通りを埋め尽くし、反発の強さを見せつけた。

イスラエル政府は中東和平交渉の再開を促すためとして、入植活動の「一時凍結」を決定する一方、既に着工済みの住宅建設は続行し、67年の第3次中東戦争で占領・併合した東エルサレムを凍結対象から外すなどして右派勢力に理解を求めた。しかし、入植者はこれに猛反発。建設状況の確認のため入植地を訪れた政府の検査官を実力で排除するなど、各地で小競り合いが続いていた。
入植者らはデモで、建設継続を誓う横断幕を掲げ「我々の家を止めるのではなく、イランの核開発を止めろ」と不満をぶちまけた。【12月10日 毎日】
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本来、パレスチナとの交渉には消極的と見られている右派ネタニヤフ首相ですが、ある意味で、右派だからこそ同じ右派・入植者を抑えて「部分凍結」の提案が可能だったとも言えます。
ただ、イスラエル内部の入植活動へのかたくなな対応は、国外の他民族には理解しがたい執念じみたものもあります。
ネタニヤフ首相の「部分凍結」も、“部分的”で、10か月間の“一時的”なもので、延長もしない“1回限り”・・・というのでは、「イスラエル・パレスチナ紛争の解決に向けた前進に資する」(クリントン長官)という評価は難しいように思えます。

コメント
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