孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム、新幹線方式導入の意向  アメリカの高速鉄道計画は?

2009-12-12 18:18:18 | 国際情勢

(旅客鉄道が衰退したアメリカで、ボストン~ニューヨーク~ワシントンを結ぶ唯一の高速列車アセラ・エクスプレス フランスのTVGをベースにしており、最高時速240kmの区間もありますが、在来線を走るため、平均時速は140km程度
“flickr”より By cliff1066™
http://www.flickr.com/photos/nostri-imago/2970943668/)

【ハノイ-ホーチミン 南北高速鉄道】
ベトナムが建設を希望している、北部の首都ハノイと最大都市の南部ホーチミンを結ぶ「南北高速鉄道」について、日本の新幹線方式を採用するとの意向が報じられています。

****ベトナム首相、新幹線方式導入の意向 日本側に伝達****
ベトナムのグエン・タン・ズン首相が11月、鳩山由紀夫首相と東京で会談した際、ベトナムの高速鉄道建設計画に日本の新幹線方式を導入したいとの意向を伝えていたことが11日、両国の関係者の話で分かった。導入計画は来年5月のベトナム国会で正式決定される見通し。
新幹線方式導入をベトナムに働き掛けていた日本の産業界にとっては大きな前進。しかし、ベトナム側の具体的な資金調達のめどは立っておらず、導入が実現するまでには曲折も見込まれる。

この鉄道はベトナム北部の首都ハノイと最大都市の南部ホーチミンを結ぶ「南北高速鉄道」。全線(約1700キロ)の総事業費は約560億ドル(約5兆円)で、試験線でも数千億円が必要とされることから、日本の円借款や国際機関による融資を含め、資金調達が導入実現の鍵を握る。
日本とベトナムの複数の関係者によると、11月の首脳会談で新幹線の導入について尋ねた鳩山首相に対し、ズン首相は両国関係を考慮し、新幹線方式を採用するという趣旨の回答をした。【12月11日 北海道新聞】
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今年8月には、国営ベトナム鉄道のグエン・フー・バン会長兼最高経営責任者(CEO)が日本経済新聞に、“ベトナム政府がすでに新幹線方式の採用について基本部分で承認しており、財政面の解決と首相の正式承認を待っている段階だ”と語ったことが報じられていました。

ただ、“日経新聞によると、日本政府と日本の鉄道会社は、国内市場が飽和状態であるため新幹線技術を海外へ輸出したい考えで、ベトナムの潜在力に対して強い期待を抱いているという。しかしながら、コスト見積もりは依然として不十分だとみられており、日本側はベトナムに対して高速鉄道の運行開始を2036年以降に延期するよう提案したとみられている。”【8月13日 AFP】と報じられており、ベトナム側の積極姿勢に対し、日本側はやや慎重な姿勢も見せていました。

つい先日のTV番組でもベトナムの高速鉄道計画を取り上げており、日本が優位に話を進めているものの、韓国や中国が、欧州技術で導入した高速鉄道をベトナムへ輸出する形で積極的に働きかけており、ベトナム側担当者が「日本はもっと積極的に進めて欲しい」旨の発言をしていました。

コスト・資金調達の話はともかく、日本の新幹線の最大のセールスポイントは営業開始以来人身事故が起きていない安全性でしょうが、その安全性を支えるのは正確な運行管理です。
東南アジアでは、タイやマレーシアでも高速鉄道の計画があるようですが、ベトナムを旅行した印象では、正確でシステマティックな管理はベトナム人の国民性にも合っているようにも思えます。
(タイやマレーシアがルーズだと言う訳ではありませんが・・・もし、ミャンマーやラオスが高速鉄道を作りたいたいと言ったら、少し考えた方がいいようにも思えます。)

【カントー橋崩落事故とPCI贈収賄事件】
近年、ベトナムと日本の間では、国道1号がメコン川の支流ハウ川をカントー市へ渡る地点に日本のODAによって日本企業が建設するカントー橋建設現場で起きた崩落事故(ベトナム人作業員54名が死亡)や、やはりODA事業である「サイゴン東西ハイウエー建設事業」をめぐる日本の大手コンサルタント会社「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)からホーチミン市局長への贈収賄事件といった“不祥事”が目立ちます。
カントー橋建設は事業に参加できるのは日本企業に限るという「日本独占」(タイド)事業で、事業体にも施工管理にも日本大手企業が名を連ねたオール日本の事業です。
日本政府や参加企業の責任も取りざたされましたが、ベトナム政府の公式報告書では「不可抗力」に近い事故だったと結論付けられています。

ことはODA事業や途上国援助の在り方という根深い問題に行き着きますが、とりあえずは、「南北高速鉄道」においてはこうした“不祥事”が起きないことを願います。

【台湾高速鉄道】
話を高速鉄道に戻すと、一昨日もロシアとインド、フランスとロシアの航空母艦や強襲揚陸艦売買にふれたように、武器・兵器取引は国際関係を左右する影響を持ちますが、日本にはそうした選択肢がありません。
ロケット技術も国際的には難しいものがありますので、国際関係にも影響するような日本が輸出可能な大型プロジェクトとしては、原発とか新幹線でしょうか。海底トンネルといった大型工事もあるかも。
むろん、草の根レベルの国際交流も重要ですが、技術立国を目指す日本としては、こうした大型プロジェクト輸出は、単なる経済取引以上の意味があるように思えます。

すでに新幹線が輸出された事例としては台湾高速鉄道があります。
しかし、台湾高速鉄道は、当初は欧州システムを基準に進められたため、分岐器はドイツ製、列車無線はフランス製、車輌などは日本製という、日欧混在システムとなっています。
欧州が最初に契約したときは国民党が与党であり、日本が契約に成功した時は民進党が与党であったというような、単なる技術・経済性を超えた、政治的なむすびつきも事態を左右するようです。【ウィキペディアより】
そこがまた、素人には窺い知れない怪しげな動きの温床にもなるのでしょうが。

いずれにしても、システム全体の一貫性のなさが新幹線技術のメリットを十分に発揮できない足かせになっているという思いが日本側にはあります。

【オバマ政権の高速鉄道計画】
世界中で計画されている高速鉄道の中でも、日本をはじめ世界各国の関係者が注目するのが、アメリカ・オバマ政権が打ち出した高速鉄道計画の行方です。

****オバマ米大統領が高速鉄道計画を発表 当初予算は80億ドル ****
オバマ米大統領は16日、米本土の主要都市を結ぶ高速鉄道計画を公表した。環境・エネルギー対策を視野に入れた21世紀型の大量輸送網の整備と、雇用創出を狙ったもので、景気対策法の予算枠から当初80億ドル(約8000億円)を支出するほか、向こう5年間で計50億ドル(約5000億円)を政府が追加投資する。
大統領は日本の新幹線など海外の高速鉄道を挙げて、「より速く、安価で、便利なものをめざす」と述べ、鉄道大国の復権を図る考えを表明した。
オバマ政権の高速鉄道計画をめぐっては、2月の日米首脳会談で麻生太郎首相が新幹線技術の有用性を米側に提言。JR東海など日本の鉄道各社も計画に強い関心を示しており、今後受注競争が激化しそうだ。

公表された計画によると、主な路線には▽ロサンゼルス-サンフランシスコ間などカリフォルニア州内▽ニューヨーク-ワシントン間など東部から南部にかけて▽シカゴを軸とした中西部などの計6つがある。
オバマ大統領は米国の交通基盤整備として、1950年代の高速道路網整備に匹敵する事業規模をめざす考えを示した。計画全体では「長期的なプロジェクトになる」としているが、主要路線の早期運用開始に向け、ただちに計画に着手する構えだ。
環境技術の向上を掲げるオバマ大統領は、鉄道の温室効果ガス排出量(乗客1人当たり)が自動車、航空機より格段に少ない利点を強調し、整備に本腰を入れるとしてきた。【4月17日 産経】
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アメリカがどこの国の技術を採用するかが、世界中の他の高速鉄道計画にも影響すると見られています。
JR東海の葛西敬之会長も6月29日、ワシントンでラフード米運輸長官と会談し、オバマ政権が掲げる米国の高速鉄道整備計画に新幹線の採用を働きかけるトップセールスを行っています。
“JR東海が参入を働きかける主力機種は、東海道・山陽新幹線で運行されている新型車両の輸出型「N700-I」だ。葛西会長は、時速330キロでの営業運転を視野に置く速度や安全性、旅客輸送効率などで、仏TGVをはじめとするライバルの欧州勢を大きく引き離している点をセミナーで説明した。
葛西会長は、N700-Iが「世界の高速鉄道の中で一番米国にふさわしい」と述べ、車両から信号システムまでのトータルシステムとして採用を働きかけてゆく考えを示した。”【6月30日 産経】

ただ、以前放映されたTV番組では、日本が希望するトータルシステムとしての採用は厳しいようなことも言っていました。

厳しい雇用情勢が続く中、医療保険制度改革への巨額の公的資金投入への批判が強いアメリカの国内事情からすると、巨額の資金が必要な高速鉄道計画が現実に動き出すのか・・・。
温室効果ガス云々についても、それほどの費用をかけるほどのメリットがあるのか、費用対効果の点での反対もあるようです。そもそも車社会アメリカで鉄道の復活が可能か・・・。

サンフランシスコとロサンゼルスの間を、日本の新幹線が疾走する日が来るのでしょうか?

コメント
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