孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  デモ隊の英大使館乱入事件とイラン国内権力闘争の関係 相次ぐ不思議な事件

2011-12-02 22:53:56 | イラン

(イギリス大使館に乱入する群衆 “flickr”より By UİÇ  http://www.flickr.com/photos/68890675@N04/6430023037/ )

在英イラン大使館閉鎖、イギリス大使館の全職員をイランから退避、欧州諸国も追随
国際原子力機関(IAEA)は11月8日、イランが03年に核兵器開発計画の中止を偽装しつつ、その後もひそかに開発を継続していた疑いを明らかにする報告書を発表しました。

これを受けて、イスラエルによる軍事攻撃のうわさも出るなかで、かねてよりイランの核開発疑惑を指摘してきたアメリカを中心に、イラン包囲網が一段と厳しくなりました。
イギリスもこうしたアメリカの動きに同調して、金融制裁を発動しています。

****米英加、対イラン金融制裁発動****
オバマ米政権は21日、核開発を続けるイランに対し、イラン中央銀行を含む全金融機関をマネーロンダリング(資金洗浄)の「主要懸念先」に指定するとともに、初めて制裁対象に石油化学産業を含める追加制裁策を発表した。英国とカナダも同調し、イランの全金融機関との取引停止を柱とする制裁の発動を打ち出した。これにより米金融機関はイラン側金融機関との一切の取引が禁じられる。(後略)【11月23日 産経】
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こうした欧米の制裁に反発するイラン側では、29日、抗議のデモ隊がイギリス大使館に乱入する騒ぎとなっています。

****デモ学生、イランの英大使館に乱入・国旗焼く****
英国による対イラン追加制裁への抗議を示すためテヘランの英国大使館を取り囲んでいたデモ隊の一部が29日、塀を乗り越えて敷地に乱入した。

英国国旗を引きずり下ろしたほか、本館に侵入し、窓から書類を投げ捨てるなどした。火炎瓶も使われ、敷地内の建物が放火された。イラン政府が対立を深める相手国の大使館への襲撃を防げなかったことで、国際的な非難が高まるのは確実だ。
大使館を取り囲んだデモ隊は数百人に上り、「英国に死を!」などと叫んでいた。ロイター通信によると、このうち約50人が敷地内に侵入した。
引きずり下ろされた英国旗には火が放たれ、代わりにイラン国旗が掲げられた。【11月29日 読売】
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一応、イラン外務省は29日、「容認できない。遺憾に思う」「我々は外国の外交官を保護するため、国際的なルールを常に尊重してきた」とする声明を発表しています。イランのファルス通信によると、これまでに学生12人が逮捕されたとも報じられています。

しかしイギリスやアメリカは、大使館襲撃を許したイラン政府の対応を非難しており、イギリス政府は30日、在英イラン大使館の即時閉鎖を求め、イランのイギリス大使館の全職員をイランから退避させています。
また、他の欧州諸国もイギリスに追随して、イラン大使召還を決めています。

****独仏、駐イラン大使召還…英の大使館閉鎖に同調****
・・・AFP通信によると、30日にはドイツ外務省が駐イラン大使を本国に召還したと発表したほか、ノルウェー政府も在イラン大使館の一時閉鎖を明らかにした。フランスとオランダも駐イラン大使の召還を決めた。仏外務省報道官は声明で「(大使館の保護などを定めた)ウィーン条約への目に余る、受け入れがたい違反だ」と英大使館への乱入を非難した。
ロイター通信によるとイタリア外務省も在イラン大使館閉鎖を検討している。米国はイランと断交しており、公館を置いていない。(後略)【12月1日 読売】
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【「反大統領派の画策」?】
今回のデモ隊のイギリス大使館乱入事件の背景に、イラン国内の権力闘争があるとの指摘もあります。
これまでも取り上げてきたように、アフマディネジャド大統領やその出身母体である革命防衛隊の勢力に対し、同じ保守派内にラリジャニ国会議長などの反大統領派が存在し、その抗争が激化していることが伝えられています。

****イラン:英国大使館襲撃事件 反大統領派が存在感誇示****
先月29日にテヘランで起きた在イラン英国大使館襲撃事件を巡る国際社会の非難に対し、アフマディネジャド大統領が沈黙を続ける中、ラリジャニ国会議長を頂点とする反大統領派が強硬発言を繰り返し、国内での存在感を誇示している。
今回の事件を「反大統領派の画策」とする見方が浮上しており、事件の背景には、国内の苛烈な権力闘争が反映されている可能性がある。

「(民兵組織バシジに所属する)学生たちの怒りは、数十年にわたるイランに対する英国の帝国主義的な態度の結果だ。国民の(反英)意識を象徴した行動でもある」。革命防衛隊系ファルス通信によると、ラリジャニ国会議長は30日、英国を非難し、襲撃事件への謝罪はなかった。
対外強硬姿勢で知られる宗教指導者アフマド・ハタミ師も30日、「英国は常にイランに対する陰謀に関与してきた」と批判した。反大統領派とみられる女性国会議員、エラヒアン氏は「(今回の事件は)英国のたくらみに対する学生たちの復讐(ふくしゅう)だ。今後も圧力や制裁に黙っていない」と襲撃者を擁護した。

だが、政界での影響力を低下させているアフマディネジャド大統領は事件後、発言を控えている。大統領の権限が強いイラン外務省は事件直後に「受け入れ難い行為で遺憾だ」とする声明を出し、襲撃者の行動を非難した。しかし、その後反大統領派の強硬発言が相次ぎ、かき消された格好だ。

イランの政権を握る保守派内では、来年3月の国会議員選挙、13年の次期大統領選に向け、内部の主導権争いが激化している。先月下旬には大統領顧問の一人が当局に一時拘束(直後に釈放)される事件があり、反大統領派の影響下にある司法当局の「攻撃」との見方が強まった。

イランの対外強硬姿勢は、国内の主導権争奪のための手段にすぎないとの見方があり、今回の事件についても「反大統領派が影響力を誇示するために仕組んだもの」(米メディアに勤務するイラン人記者)との指摘も出ている。【12月1日 毎日】
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もっとも、最近国内基盤が緩んできている大統領派が、政敵や国民の目をイギリスに向けさせ、政権への不満をかわそうとしたとの憶測もあるようで、大統領派なのか反大統領派なのか・・・よくわかりません。

ただ、個人的印象としては、イスラム原理主義者として、エキセントリックで反米的な言動が批判されることが多いアフマディネジャド大統領は、一方で非常に現実的な政治家でもあり、経済制裁などで国民生活が更に困窮するようなことは自らは行わないのでは・・・という感があります。

アフマディネジャド大統領は、ときに大衆迎合のバラマキ政策との批判も受けますが、それは選挙での民意をそれだけ気にしているということでもあります。独裁者というよりは、欧米的な民主主義に近い枠組みにいる政治家ではないでしょうか。

イラン軍事施設爆発:イスラエル諜報機関による陰謀説
イランのよくわからない事件としては、11月12日にテヘラン西郊の軍事施設で起きた爆発事故があります。
この爆発に関し、イスラエルの諜報機関モサドによる陰謀説もあるとか。

****イラン軍事施設爆発に陰謀説、イスラエルが関与との臆測****
イランの軍事施設で今月起きた爆発が臆測を呼んでいる。イスラエルではイラン攻撃論が取り沙汰されているだけに、イスラエルの諜報(ちょうほう)機関モサドの陰謀説も飛び出している。

爆発は今月12日、革命防衛隊が管理するテヘラン西郊の軍事施設であった。ミサイルシステムの開発を担った准将を含む17人が死亡したとされるが、死者はもっと多いとの情報もある。爆発音は約40キロ離れたテヘランでも聞こえた。「本当に攻撃が始まったのか」と身構える市民もいた。

爆発があった施設は、100メートルほどの岩山に隠れるように造られている。周囲の土漠にはフェンスと有刺鉄線が延々と張り巡らされ、監視所もあちこちにある。外部の人間が無断で立ち入るのは難しい。テヘラン市民の間では、「イスラエルの内部協力者がいたのでは」といったうわさが絶えない。
防衛隊報道官は、武器庫で弾薬を搬送中に起きた「事故」と説明。軍参謀総長は16日、イラン学生通信に対して「爆発はイスラエルや米国とは何の関係もない」と述べ、陰謀説を否定した。

防衛隊の任務は、イスラム体制を死守することにある。仮に事故だとしても面目は丸つぶれ。イスラエルが関与したとすれば大失態だ。政府の意向を反映してか、すでに国内メディアは爆発に関する続報を伝えていない。

一方、米タイム誌は13日、欧米情報筋の話として、爆発はイスラエルのモサドの仕業との見立てを報じた。国際原子力機関(IAEA)は今月、報告書でイランが核兵器開発につながる活動をしてきたと指摘した。同誌によると情報筋は、開発阻止のためイスラエルがさらなる破壊活動を計画していると話した。

イスラエル政府は、事件へのかかわりについて肯定も否定もしていないが、バラク国防相は、イスラエル軍放送のインタビューで「(イランでの爆発が)もっとあったらいいのに」とぽろり。
イスラエル紙エルサレムポストによると、イラン政府のコンピューターシステムに対するサイバー攻撃があったことが13日、明らかになった。このウイルスは昨年、イランの核施設をサイバー攻撃したウイルスの改良版だという。【11月19日 朝日】
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真相は藪の中です。

不思議な点もある駐米サウジ大使暗殺計画
10月に発覚したイランによる駐米サウジアラビア大使の暗殺計画もよくわからない事件でした。
暗殺計画の標的とされるアデル・ジュベイル大使はサウジ政府内で対イラン強硬派とされる人物で、ウィキリークスが公開した2008年の米外交公電では、米軍首脳に「蛇の首をへし折れ」と述べてイラン核施設への空爆を訴えたことが明らかになっています。

****駐米サウジ大使暗殺企てた疑い 米、イラン系米国人逮捕****
米司法省は11日、駐米サウジアラビア大使の暗殺を企てたとして、イランと米の両国籍を持つマンスール・アルバブシアル容疑者(56)を殺人未遂などの容疑で逮捕したと発表した。同容疑者に指示を与えていたとして、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「アルクッズ旅団」のゴーラム・シャクリ容疑者も所在不明のまま訴追した。

発表によると、アルバブシアル容疑者は今春~9月、メキシコで麻薬組織の関係者を装った米麻薬取締局(DEA)の協力者と何度も会い、サウジ大使の暗殺を頼んだとされる。大使がよく行くワシントンのレストランの爆破計画も話し合い、多くの巻き添えが出ることも容認したという。

同容疑者はアルクッズ旅団の幹部から指示を受け、計画も承認されているなどと、DEAの協力者に説明したとされる。暗殺の依頼金として、150万ドル(約1億1500万円)の支払いに同意し、手付金として8月に約10万ドルを米連邦捜査局(FBI)のおとり捜査用の口座に振り込んだという。【10月12日 朝日】
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ただ、マンスール・アルバブシアル容疑者は中古車セールスマン、串焼き肉店オーナーなどの職を転々としている“ド素人”で、どうしてこうした計画に彼のような人物が関わったのか・・・不思議な点もあります。

イランの大統領報道官は、暗殺計画は「でっち上げだ」などとして、関与を全面的に否定する声明を発表しており、イラン最高指導者ハメネイ師も、「無意味でばかげた言いがかり」、「敵(アメリカ)はイランを孤立させようと無駄な努力をしている」「イランをテロ支援国家に指定し続けるための口実だ」とアメリカを批判しています。

陰謀か、真実は単純なところにあるのか。
結果、アメリカ・サウジアラビアの対イラン批判は確実に強まりました。

アメリカ、「緊密な同盟国」日本にも対イラン圧力への参加要請
なお、イランの核開発疑惑に関し、アメリカはイラン制裁を強めていますが、アメリカ財務省のコーエン次官は1日、アメリカ議会上院の外交委員会で、核開発疑惑が深まっているイランに対する圧力強化の一環として、日本を含むアジアや欧州の「緊密な同盟国」に対し、イラン産原油の輸入を減らすよう働きかける考えを示しています。

****米、イランへの圧力強化 日本などに原油輸入削減要請へ****
・・・日本は昨年、原油の約1割をイランから輸入。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールに次ぐ第4位の調達先だ。コーエン氏は、日本のほか、欧州連合(EU)諸国、中国、韓国、インドなどの国名を挙げて、疑惑表面化後もイランからの原油輸入を減らしていないと指摘。同盟国と協調して輸入削減を進めたいとの考えを示した。
 上院は、イランが原油輸出で得る資金の流れを止めるため、イラン中央銀行と取引をする米国外の金融機関に制裁を科す措置も検討している。ただコーエン次官は一方的な強硬措置は国際的な協力関係を損なうおそれがあると指摘し、慎重な措置を求めた。【12月2日 朝日】
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