
(ザルダリ大統領(右)の妻ブット前首相が爆殺されたのが07年12月末でしたが、今年2月、ザルダリ大統領がドバイでアメリカ在住の女医、ザマニ(左)さんと再婚した・・・との報道がなされました。与党PPPはこの結婚を否定していました。その後の報道も目にしていませんので、真偽のほどはわかりません。
そもそも与党PPPはブット家の所有物のようなもので、ザルダリ大統領が政治的力を持てるのもブット前首相の夫という立場があってのことでしょうし、大統領当選も暗殺されたブット前首相への国民の思いがあってのことです。それを任期中に再婚なんて・・・と、つい思ってしまいます。
もちろん愛を阻むことはできませんが、国内メディアは再婚の背景として、政治的思惑や財産目当てといったことを報じていたようです。 “flickr”より By zardarizamani http://www.flickr.com/photos/zardarisupportgroup/6151967275/ )
【「極秘メモ騒動」で軍の怒りを買った大統領、帰国できず】
パキスタンのザルダリ大統領が12月初めに入院治療のためとして中東ドバイに出国したまま帰国のめどが立たず、国内で軍との関係が悪化する中、亡命や辞任の観測が飛び交う事態となっているそうです。
****パキスタン大統領、帰国できず…軍と関係悪化*****
・・・・ザルダリ大統領はドバイで6日に入院し、14日に退院した。パキスタン政府は「左腕のマヒと一時的な意識の喪失」があったと大統領の症状を説明したが、退院後もドバイで療養を続けているとしている。
大統領は、11月に駐米パキスタン大使の辞任に発展した「極秘メモ騒動」で軍の怒りを買ったとされる。
このメモは5月に、在米パキスタン人男性の仲介でマレン米統合参謀本部議長(当時)に渡ったもの。ザルダリ大統領がパキスタン軍によるクーデターを懸念し、米国による抑制を求めているとの内容だが、差出人名は書かれていない。
メモ作成への関与を取り沙汰された大使は辞任し、大統領との関連についても12月に入って最高裁が究明に乗り出している。【12月18日 読売】
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突然の出国当時から、辞任の準備ではないか・・・との憶測報道はありました。
「いくらなんでも・・・」とは思っていたのですが、まんざらその可能性がなくはないようです。
それにしても、パキスタンは核保有国です。核管理体制はどうなっているのでしょうか。
帰国できない大統領に核攻撃権限があるのも怖いですが、大統領にその実権がなく、軍が管理しているのはもっと怖いです。
パキスタンはアメリカにとって、アフガニスタン戦略のうえで欠くことができないパートナーですが、無人機誤爆による民間人犠牲者の増大もあって国民の反米感情が強い上に、パキスタン潜伏中のウサマ・ビンラディン容疑者を4月末に米軍が“無断で”強襲殺害したことで主権が侵害され、パキスタン国軍の面子が潰れてしまった事件や、11月26日、NATO主体の国際治安支援部隊(ISAF)のヘリコプターが軍検問所のパキスタン兵24人を死亡させた越境攻撃で両国関係は悪化し、後者の事件への報復として、アフガニスタンに展開するISAF向けの物資輸送が遮断されていることは周知のところです。
【「軍からの圧力が強まれば文民政権は耐えきれない」】
上記記事にある「メモゲート」とも呼ばれる「極秘メモ騒動」は、ISAF越境攻撃事件の前に起きたもので、同越境攻撃に対する国軍の姿勢を硬くする背景ともなっています。
****パキスタン大統領側の極秘メモ暴露 軍との関係悪化****
パキスタンのザルダリ大統領が、軍による政治介入を恐れ、軍首脳に釘を刺すよう米軍トップに要請していたとされる極秘メモが暴露された。政権側はメモを否定しているが、同国の政治に強い影響力を持つとされる軍との関係は極めて悪化。最大野党が18日、最高裁に調査を求めるなど政権への風当たりは強まっている。
極秘メモは今年5月に国際テロ組織アルカイダ指導者オサマ・ビンラディン容疑者が同国北部で米軍により殺害された直後に、パキスタン系米国人男性の仲介でマレン米統合参謀本部議長(当時)に渡された。この男性が先月明らかにし、マレン氏側も今月16日に「受け取ったが信用性が疑わしかったため無視した」とメモの存在を認めた。
地元メディアが全文を報じたメモによると、ビンラディン殺害作戦直後、責任の所在をめぐり軍と政権が対立した。メモは「軍からの圧力が強まれば文民政権は耐えきれない」と危機感を示し、キアニ陸軍参謀長を抑えるようマレン氏に要請。米国の介入があれば、国防幹部チームを刷新し、対テロ戦での米国への協力を強化すると約束した。
仲介した男性は地元紙の取材にザルダリ氏の意を受けたハッカーニ駐米大使から依頼されたと暴露。ハッカーニ氏は否定しているが、辞意を表明しており、事情説明のため米国から近く帰国する。【11月20日 朝日】
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【「ボスの承認は得ている」】
駐米パキスタン大使であるハッカニ氏から米軍トップ(当時)のマレン米統合参謀本部議長へのメモを仲介したのが、パキスタン系米国人のビジネスマン、マンスール・イジャズ氏ですが、同氏が事件の全容について12月14日Newsweek日本版に寄稿文を送っています。
それによると、メモ作成の経緯については
****米パ「密約」の動かぬ証拠****
念のために言っておくと、ハッカニは5月9日に私に連絡してきた。私からではない。彼は私に(最初は口頭で) マレンにメッセージを送るのを手伝ってくれと言った。ハッカニは今、この事実を否定している。
メモの内容と構成はすべて彼が考えたもので、16分間に及ぶ最初の電話で説明を受けた。そしてその日のうちに電話、メール、ブラックベリーを使って中身を練り上げた。
その晩、私はメールで第1稿を送った。彼は「微調整(tweak)」して翌朝に電話するとブラックベリーで連絡してきた
そして私が最終稿を送った15分後の翌朝9時6分16秒に電話をよこし、11分間にわたって内容を確認した。そうして私に計画の続行を指示した。ハッカニは現在、こうした事実を否定している。しかし事実は嘘をつかない。
このメッセージが書面化されたのは、アメリカ側がパキスタン人の口約束を信用しないからだ。最終的に、このメモはジョーンズ経由でマレンに渡った。
ハッカニは午前9時6分の電話を切る直前に、「ボスの承認は得ている」と確約した。そこで私はパキスタン政府最高幹部がこのメモを承認していると書面に記し、ジョーンズに伝えた。この場合の「ボス」は明らかにザルダリのことだ。【12月14日 Newsweek日本版】
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とのことです。
なお、文中の“ジョーンズ”とは前大統領補佐官のジェームズ・ジョーンズ氏でしょうか。
イジャズ氏はメモについて、「私はザルダリ本人の発案だったとにらんでいる」としています。
【「どっちに転んでもザルダリとハッカニには有利だ。計画としては悪くない」】
また、ビンラディン殺害の背景として
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ザルダリもハッカニも、アメリカがパキスタンの主権を侵害してでもビンラディン殺害を実行することを事前に知っていたはずだ。CIAがパキスタン領内にいるビンラディンの潜伏先を見つけ出した後、決行を了承していた可能性もある。
アメリカが単独で作戦を決行すれば、なぜこれまでビンラディンを国内にかくまっていたのかと、国民の間で軍部や情報機関への非難が高まると踏んだのかもしれない。そうなればアシュファク・キヤニ陸軍参謀長とアハメド・パシャー軍統合情報局(ISI)長官を辞任に追い込み、自分たちに好都合な人物を後釜に据えることもできる。
思惑が外れても、ザルダリはアメリカに非難の矛先を向け、パキスタン国民の間で反米意識をあおればいい。うまくいけば、ザルダリは文民(もちろん自分の仲間だ)を軍のトップに据えるという念願も果たせるだろう。
アメリカはビンラディンを、ザルダリは目の上のたんこぶであるキヤニとパシャーを「葬る」ことができるわけだ。どっちに転んでもザルダリとハッカニには有利だ。計画としては悪くない。【同上】
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と、記しています。
このあたりは、「そんなとこかもしれないな・・・」という感はあります。
【「ハッカニは致命的なミスを犯した。それは計画を私に託したことだ」】
イジャズ氏の事件暴露の真意については
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ハッカニは致命的なミスを犯した。それは計画を私に託したことだ。私はパキスタン軍と情報機関の脅迫まがいの政策と強圧的な姿勢を嫌い、そのことをたびたび表明してきた。暴力にものをいわせる情報機関がコントロールしている警察国家に民主主義はあり得ない。
だが権力を乱用し、国の命運の懸かった問題でも私利私欲を追求するためだけに民主主義を擁護するふりをしてきた文民政治家はもっと嫌いだ。
このメモが思いもかけず世界中のメディアの関心を呼び、事実関係が明らかになれば、パキスタン社会は強くなる。メディアは今回の一件を大々的に取り上げ、脅迫に屈することなく報道を続けた。パキスタン国民が本当に白分たちのために働いてくれるリーダーを選べるようにするには、こうした透明性の確保が欠かせない。
パキスタン国軍が、あっさり文民統制を受け入れるとは思えない。だが、軍部と文民政府が対等な立場で渡り合えるような制度への移行は、既に始まっているのではないか。
いつの日か、こうした真の文民政府が確立され、パキスタンの真の国益を守ってくれることを私は願う。大事なのはカシミールでもアフガニスタンでも、核爆弾でもない。真の国益は教育の普及や貿易関係の拡大、そして国民の求める十分なエネルギーの確保にこそある。【同上】
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としていますが、意味不明です。
【再び軍政復活の可能性も】
事件がイジャズ氏の言うとおりであれば、確かにハッカニ駐米大使はイジャズ氏に計画を託すという“致命的なミス”を犯したことになります。
しかし、アメリカ側に太いパイプを持つハッカニ駐米大使が、どうしてイジャズ氏のような自称ベンチャーキャピタリストといった人物に、こんな重大なメモを託したのかはよく分かりません。
また、イジャズ氏がメモ暴露で目指すものが何なのかもよくわかりません。
確かに、過去のブット、シャリフの文民政権はいずれも汚職にまみれ、国民の支持を失って崩壊しており、国民の間には、文民政権よりも軍事政権に信頼を寄せる人が少なくないという事情はあります。
また、ザルダリ大統領はブット政権当時“ミスター10%”とも呼ばれた、腐敗・汚職の張本人でした。
しかし、イジャズ氏によるメモ暴露が“軍部と文民政府が対等な立場で渡り合えるような制度への移行”“真の文民政府”にどのように繋がるのでしょうか?
確実なのは、ただでさえ軍の支持がなく、党内基盤も弱いザルダリ大統領の立場が、この事件でガタガタになったということです。
そして、再び軍政復活の可能性も増したということです。