孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

経済危機のハンガリー  与党フィデスの独自路線でEU・IMFとの軋轢も

2011-12-24 21:12:22 | 欧州情勢

(メディア法に反対して、ハンガリー・オルバン首相へ抗議する欧州緑の党のメンバー “flickr”より By greensefa http://www.flickr.com/photos/greensefa/5370009412/

欧州委員会委員長、オルバン首相に書簡を送り、中銀法改正案に「強い懸念」を表明
欧州の経済危機と言えば、“PIIGS”と呼ばれる国々が話題になりますが、ハンガリーの状況もかなり悪化しており、欧州経済危機の懸念材料となっています。ハンガリーの負債は、GDPの81%にのぼると言われています。(日本がとやかく言える立場にはありませんが・・・)

クラシックファンは別として、あまり普段馴染みのない国ですが、ハンガリーは2008年にIMFとEUから200億ユーロの融資パッケージを受けたEU最初の国ですから、経済危機は今に始まった話ではありません。
その後も、状況は好転していませんが、EU・IMFとの関係がこじれているのが新たに懸念されるところです。

その背景には、ハンガリーの政治的な体質もあるように見えます。
与党フィデス・ハンガリー市民連盟は、事実上のメディア規制を行う法律を成立させましたが、憲法裁判所はこれを違憲としています。

****ハンガリー:メディア法など憲法違反と判断、破棄命令****
ハンガリーの憲法裁判所は19日、今年初めに施行されたメディア法の一部条項が憲法に保障された「報道の自由」を侵害していると判断し、破棄するよう命じた。宗教法人数の激減を招いた宗教法人法の改正についても、十分な国会審議が行われなかったとして無効とした。メディアや宗教界への影響力拡大に動いた中道右派のオルバン政権には、欧州連合(EU、27カ国)からも懸念が表明されていた。

メディア法は、国会の大多数を占める与党フィデス・ハンガリー市民連盟の後押しで成立。政府の影響下にある規制当局に強力な権限を与え、報道や番組をチェックさせることになった。公共の利益に反すると判断された場合、高額の罰金が科される。

ロイター通信などによると、憲法裁は、規制当局がメディアを事実上検閲するような権利を破棄。「情報源の秘匿」の制限条項も削除するよう命じた。ジャーナリストは裁判所による厳格な手続き無しに、情報の開示を強要されるべきではないとした。【12月21日 毎日】
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経済政策面でも、与党フィデス・ハンガリー市民連盟は“独自路線”を進んでおり、ハンガリー中央銀行を財務監査庁と合併する法案審議を行っています。
この合併がなされると、いわゆる中央銀行の政治からの独立が侵される懸念が強くなりますので、EU、IMFはこれに強く反対、撤回を要求しています。

また、財政案承認は国会の3分の2が必要で、それに満たない場合は大統領が国会を解散できるとした法案も同時に審議されています。
この法案が実施されると、与党は予算案を審議を人質にして、3分の2を獲得するまで解散総選挙を繰り返せることにもなります。

S&P ハンガリー国債をジャンク級へ格下げ
こうした混迷の事態を受けて、米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は21日、ハンガリーの長期信用格付けをジャンク級の「BBプラス」への1段階引き下げを行っています。

****ハンガリー:「BBプラス」へ1段階引き下げ 米S&P****
米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は21日、ハンガリーの長期信用格付けを投資適格の下限の「BBBマイナス」から、投機的水準となる「BBプラス」へ1段階引き下げた。S&Pは、欧州債務危機の長期化など外的な要因に加え、ハンガリーの政策の透明性や信頼性への疑問が投資環境を悪化させていると指摘した。

ハンガリーは先月下旬、国際通貨基金(IMF)とEUに金融支援を要請したが、ハンガリー中央銀行に政権の意向を反映しやすくするための中銀法改正案を巡り、「中銀の独立性を損なう恐れがある」と主張するIMF側と対立。金融支援の事前協議が中断する事態に陥っている。
ハンガリー・メディアによると、EUの内閣に当たる欧州委員会のバローゾ委員長は近ごろ、オルバン首相に書簡を送り、中銀法改正案に「強い懸念」を表明し、撤回を強く促したという。【12年22日 毎日】
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この決定により、22日のハンガリー金融市場では、国債利回りが1カ月ぶり高水準に達したほか、株式相場と通貨フォリントが下落し、トリプル安となっています。

ハンガリー国内の反応は・・・と言えば、国際的な懸念・批判とは大分様相が異なるようです。
****四面楚歌のハンガリー****
・・・・ところがハンガリー政府はS&Pの格下げに対して、「経済好転の兆候を意図的に無視した政治的な決断だ」などと反論している。
IMFの支援要請交渉についても、1月には再開する予定だと政府は言っているが、殆どの投資家は、最低でも中央銀行に関する法律が撤回されない限り交渉再開は無いと考えている。

ハンガリー政府は国際的には四面楚歌の状態だけど、外国語の通用率が低いし、メディア法で外国のニュースの配信は政府系の1社に絞られているから、殆どの人はハンガリー政府の話しか知らされない。だからハンガリー経済が悪いのは外国勢力のせいだと考える人が多いのだとか。 【haydnhil氏 12月23日ブログ“クラシックおっかけ日記”より】
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【“キリスト教民主主義”か“ネオ排外主義”か
こうした“独自路線”を進める与党フィデス・ハンガリー市民連盟については、“諸政策に国家の介入をより多く認める、キリスト教民主主義的・準社会主義的政策をとっている。(中略)左派メディアからは激しく嫌われており、極右政党であるかのごとき批判をされることもあるが、政治思想的にはオーストリア国民党、ドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)などに類似のキリスト教民主主義政党である。”【ウィキペディア】ともありますが、排外主義的体質への批判もあります。

****ヨーロッパに忍び寄るネオ排外主義****
ユダヤ人やイスラム教徒を標的にする極右政党の躍進が各国で相次ぐ不気味

ヨーロッパに新たな分断が生まれている。かつての鉄のカーテンとは違って、今回の「壁」は異質なものに対する強い拒否反応。西ヨーロッパではイスラム教徒、東ヨーロッパではユダヤ人とロマ人、同性愛者が標的になっている。

オランダでは3月3日の地方選で、イスラム教徒排斥を唱える極右の自由党が主要都市で躍進。続いて4月11日にはハンガリーで国会議員選挙の第1回投票が行われ、「ユダヤ資本」が「世界をむさぼり食おうとしている」と攻撃するフィデス・ハンガリー市民連盟が、過半数の票を獲得した。
フィデスよりもあからさまに反ユダヤ主義を掲げる極右政党ヨッビクも、今回初めて26議席を獲得し、従来の政権与党である社会党と2議席差に迫った。初の国会進出を果たしたヨッビクの幹部たちは、ネオナチ風の制服を着て登院したいと考えている。

最近の政治学者はこうした勢力を「反ユダヤ主義」ではなく「急進的ポピュリズム」と表現したがる。だがヨーロッパの歴史を学んだことのある人なら、政治的にユダヤ人が迫害された時代との共通点は無視できないはずだ。

「悪いのはユダヤ資本」
世界的な不況のあおりを受けて有権者が失業や所得減に苦しむなか、スケープゴートを求める風潮がかつてと同じ有害な政治を生み出している。
フィデスのオルバン・ビクトル党首は、ハンガリーが共産主義から脱却した頃は熱心な市場経済論者だった。しかし今はナショナリズム色の濃い主張を展開している。

ユーロ圏諸国に(今のところ)救済してもらっているギリシャと違い、通貨フォリントが下がり続けているハンガリーは孤立無援だ。市民は景気の良かった頃に組んだユーロ建ての住宅ローンや自動車ローンの返済に苦しんでいる。
悪いのは社会党政権やグローバル化、国際資本だとする声はよく聞く。しかしフィデスは、さらに踏み込んだ主張を展開。同党のモルナール・オスカル議員は「グローバル資本やユダヤ資本ではなく、ハンガリーの利益を最重視すべき時だ」と訴えた。

ヨッビクはハンガリーで15%近い支持率を獲得。一方、チェコではミレク・トポラーネク前首相が、ユダヤ人や同性愛者に対する差別的な発言を連発したせいで、5月の選挙を前に市民民主党の党首辞任に追い込まれた。

多様性と民主主義への嫌悪
ポーランドの政治学者ラファル・パンコウスキは新著『ポーランドにおけるポピュリスト急進右派』で、こう指摘している。「反ユダヤ主義はポーランドの右派ポピュリストにとって重要な要素だ。現在ユダヤ人の人口は歴史上最も少ない水準にあるが、反ユダヤ主義は多様性と自由民主主義に対する嫌悪感を暗示している」(後略)
【10年4月28日号 Newsweek日本版】
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EU27カ国とは言いつつも、その内実は多様です。
先のEU首脳会議ではイギリス・キャメロン首相が“孤立”を選択したとして話題になっていますが、スウェーデン、チェコ、デンマーク、そいて今日取り上げたハンガリーなども、新条約署名へ態度を保留しています。
危機的状況への対応こそが共同体の真価でもありますが、危機的状況になればなるほど、綻び・不協和音も高まるのが実態です。
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