孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米軍撤退のイラク  宗派対立再燃の動き スンニ派副大統領に逮捕状 増大するイランの影響力

2011-12-21 20:31:26 | 中東情勢

(イラクにあるイラン反体制派の拠点ともなっている難民キャンプ・アシュラフが、イランの要請もあって、年内に閉鎖されることが決まっています。イラン政府は反体制組織メンバー引渡しやキャンプ閉鎖を求めてきましたが、キャンプには子どもも含む一般の難民もおり、両国政府の懸案事項となっていました。
今年4月にはイラク治安部隊と同キャンプのメンバーとのあいだで衝突が起こり、30人以上が死亡しています。
【flickr】より By SabaHaft http://www.flickr.com/photos/28353822@N07/5613140490/in/photostream/ )

ハシミ副大統領に対し、爆弾テロなどに関与した容疑で逮捕状
18日にはイラクからの米軍撤退が完了したばかりですが、治安はいまだ不安定で、特に、シーア派とスンニ派の宗派対立の再燃が懸念されています。イラクでは宗派間対立の激化で06~07年には、最大で月間3000人以上が死亡する混乱状態が続きました。

当初、治安などを考えると米軍残留も想定されていましたが、大統領選挙を控えたアメリカ・オバマ政権は外交上の成果として年内撤退を世論にアピールしたいという思惑があり、また、イラク国内ではイランとの関係が深いシーア派サドル師が米軍残留に強く反対したという双方の国内事情もあって年内撤退という形になっています。
結果、イラクの現状は、そうした「早過ぎた撤退」の懸念を裏付けるような危うい情勢となっています。

****イラク副大統領に逮捕状、政権内の宗派対立再燃か****
イラク当局は19日、タリク・ハシミ副大統領に対し、爆弾テロなどに関与した容疑で逮捕状を出した。ハシミ副大統領は20日に記者会見を開き、容疑を真っ向から否定した。
イラクは挙国一致政権の発足から21日で1年を迎えるが、18日に駐留米軍の撤退が完了したばかりで、宗派間対立を内包した脆弱(ぜいじゃく)な連立政権のほころびが早くも表面化した。

ハシミ副大統領が属する世俗派とスンニ派の政党連合「イラキーヤ(イラク国民運動)」は逮捕状発行に反発し、閣議をボイコットする構えだ。
ハシミ副大統領の周辺では、この数週間で少なくとも13人のボディガードが当局に一時身柄を拘束された。ハシミ氏側によると、このうち逮捕されたのは3人。国営テレビでは、内務省がハシミ氏のボディガードだとする人物がテロ計画を自供し、ハシミ氏の援助と資金を得ていたと語る映像が放映された。

しかしクルド自治区アルビルで会見したハシミ氏は、この映像について「政治的にねつ造された」ものだと非難し、自己のテロ関与を一切否定するとともに、アラブ連盟首脳らに問題とされたテロの捜査への介入を求めた。また、ボディガードの自供についても、政治的な陰謀に基づく虚偽の自供だと語った。
会見以前にハシミ氏側は、ボディーガード拘束の件に加え、治安部隊がハシミ氏の自邸前を数週間にわたって封鎖するなど「意図的な嫌がらせ」を受け続けているとしてマリキ政権を批判している。 

前週末には、ハシミ氏と同様にイラキーヤ内部のスンニ派であるサレハ・ムトラク副首相が、シーア派のヌーリ・マリキ首相率いる連立内閣を「独裁」と呼んだことで、マリキ首相がムトラク氏に辞任を求めた。この時点ですでにイラキーヤは、連立から離脱はしないものの、閣議をボイコットする構えを示していた。【12月21日 AFP】
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イラクでは副大統領は3人で、宗派・民族構成を考慮してシーア派、スンニ派、クルド人から1人ずつ選出されています。
今回逮捕状が出されたハシミ副大統領はスンニ派で、実権を握るマリキ首相は多数派のシーア派です。
現在、ハシミ副大統領は北部クルド人地区に逃れています。クルド地域政府のバルザニ大統領は各派に対話を呼びかけており、同地区で逮捕状が執行される可能性は低いとされています。【12月20日 朝日より】


宗派対立にイラン・サウジがテコ入れ強化
多数派シーア派とフセイン時代に実権を握っていた少数派スンニ派の対立は従前からですが、特に、米軍撤退を控えた最近活発化しているように見えます。

****イラクを待ちうける次の占領****
・・・・イラク人指導者は宗派閥対立を抑えるどころか、むしろあおっているように見える。ヌーリ・マリキ首相の現政権はここ数週間、中央政府転覆の陰謀に関係した容疑でフセイン政権時代の政権党だったバース党の関係者とされる600人以上を逮捕してきた。

ただでさえシーア派主体の現政権に懸念を抱いている多くのスンニ派は、この大量逮捕を全面的な「魔女狩り」と見なしている。「極めて暴力的な衝突が起きないか心配だ」と、スンニ派のサレハ・ムトラク副首相は言う。

それだけではない。宗派閥対立が再燃すれば、中東全域で激しい勢力争いを繰り広げているイランやサウジアラビアの介入を招きかねない。両国は米軍撤退後のイラクでの「対決」に備え、既に準備を進めている兆候がある。
大量逮捕に猛反発したスンニ派指導者は、独自の自治区創設を要求し始めた。この自治区にはサラハディン、ニナワ、アンバルの3州が含まれる可能性があり、アンバル州には油田とガス田の候補地がある。これに対してマリキを含む政府当局者は、中央政府の弱体化を図る試みだと批判している。(後略)【12月14日 Newsweek日本版】
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スンニ派自治区が誕生すれば、イラクは事実上の分裂状態になるだけでなく、シーア派を後押しするイラン、スンニ派を支援するサウジアラビア、両地域大国が介入しての代理戦争状態も懸念されます。

一方、これまでイラク各派は政権のポストを分け合うことで連立を保ってきましたが、ここにきてシーア派マリキ首相はスンニ派のポストだった国防相を任命せず、決定権限を自らに集中しています。
こうした動きにハシミ副大統領らスンニ派と世俗派からなる議会会派イラキーヤが反発し、17日に議会のボイコットを表明しています。
イラキーヤ所属のスンニ派ムトラク副首相はマリキ首相を「サダム・フセイン以上に悪質な独裁者」などと批判、これに対し、マリキ首相は18日、国民議会に対しムトラク副首相に対する不信任決議を要請しています。

アメリカは事態を憂慮
こうしたムトラク副首相に対する不信任決議要請、ハシミ副大統領に対する逮捕状・・・という宗派対立再燃の動きにアメリカも懸念を強めています。

****イラク首相に懸念表明=米副大統領****
バイデン米副大統領は20日、イラクのマリキ首相と電話会談し、駐留米軍撤退が完了したばかりのイラクでハシミ副大統領への逮捕状発行など政治情勢が混乱していることに懸念を示した。ホワイトハウスが明らかにした。
バイデン副大統領は、マリキ首相と他会派の指導者が協議し、緊急に政治対立を克服する必要があると強調した。【12月21日 時事】
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アメリカ・オバマ政権としては、来年大統領選挙までは何とかこの積み木の城が持ってほしいところでしょう。
宗派対立による内戦状態再燃、イランの影響力拡大・・・という事態は何とか避けたいところですが、共和党からは「出口戦略を急ぎ過ぎた」との批判が出ています。
また、スンニ派のムトラク副首相は、「アメリカによるイラク占領は災難だったが、無責任な撤退はそれ以上の災難だ。彼らが全面撤退した後のイラクは、イランに占領されてしまう」と語っています。

なお、イラクはシーア派・スンニ派の対立以外に、北部のクルド人問題も抱えています。宗派対立で政情が不安定化すれば、クルド人問題の方も表面化することが予想されます。難題山積です。
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