(12月13日 ユネスコ本部 パレスチナ正式加盟式典を果たし、祝福を受けるアッバス議長(中央) しかし、行き詰まる状況で、自治政府が“イスラエルに便利な存在”になってしまっている現状への忸怩たる思いもあるようです。 “flickr”より By Parti socialiste http://www.flickr.com/photos/partisocialiste/6506053533/ )
【事態打開に困窮する自治政府】
イスラエルとの交渉が行き詰るなか、パレスチナ自治政府・アッバス議長はユネスコへの正式加盟を果たしました。
****パレスチナの旗、ユネスコ本部に翻る****
仏パリにある国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)本部で13日、正式加盟したパレスチナの旗の掲揚式典が行われた。
式典に出席したパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、ユネスコへの正式加盟はパレスチナが「国家」として初めて承認されたことを示す重要な事柄で、他の国際機関もユネスコの後に続くことを願うと述べた。
パレスチナのユネスコ加盟に対しては米国とイスラエルが強硬に反対したが、パレスチナの外交的勝利となった。
ユネスコへの正式加盟が、パレスチナの国連への正式加盟申請に影響することはない。国連に正式加盟する場合には、安全保障理事会の15か国中9か国の賛成票を必要とするが、常任理事国の米国が拒否権を発動する意志を明言している。【12月14日 AFP】
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“パレスチナの外交的勝利”とはいいつつも、本命である国連加盟申請のほうは、アメリカの拒否権の存在以前に、アメリカを拒否権行使に追い込むだけの賛成国を安保理で得られておらず、見通しがたたない状況です。
自治政府は、イスラエルによる占領地への入植拡大に関しても安保理に対応を要請していますが、これも、アメリカが安保理での協議には反対する構えです。
****パレスチナが安保理に対応要請 イスラエルの入植拡大で****
パレスチナ自治政府のマンスール国連代表(国連大使相当)は13日、イスラエルによる占領地への入植拡大に関して、国連安全保障理事会に対応を要請したと記者団に明らかにした。東エルサレムなどへの入植拡大の承認は「扇動的な違法行為」と強く批判。地域の平和と安定を脅かす深刻な問題として安保理に即時の行動を求めた。
イスラエルが一方的に住居や農地を拡大する入植活動は、独立国家の樹立を目指すパレスチナにとって「領土問題」となり、中東和平交渉の再開を阻む最大の要因となっている。ただ、イスラエルを擁護する立場の米国は、安保理での協議に反対する構えだ。
中東和平を仲介する国連、米国、ロシア、欧州連合(EU)の4者は14日にイスラエルとパレスチナの双方とエルサレムで協議する予定。入植問題と併せ、膠着状態に陥っているパレスチナの国連加盟問題への対処方針を協議する見通しだ。地域の緊張を緩和し、直接交渉再開への道筋をつけられるかが焦点となる。【12月14日 日経】
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国連正式加盟申請でパレスチナ住民の間では高揚感がありましたが、現実の壁は厳しいものがあります。
また、対イスラエル闘争を続け、ガザ地区を実効支配するハマスとの関係も、11月にカイロでアッバス議長とハマス政治部門最高指導者メシャール氏との間で交渉が行われましたが、後述記事によれば、これもうまくいっていないようです。
一方で、国連正式加盟申請やハマスとの交渉に対して、アメリカ・イスラエル側の報復が行われており、自治政府は財政的に追い詰められています。
【脅しだと分かっている だが、はったりで墓穴を掘る羽目になることも】
そんな閉塞状況で、アッバス議長がイスラエル・ネタニヤフ首相にあてて、自治政府解体を伝える書簡を書いた・・・という、興味深い記事がありました。
記事にもあるように、多分に、「もし自治政府がなくなったら、困るのはイスラエルだろう・・・」という“脅し”“はったり”ではないかと見られていますが、自治政府・アッバス議長の窮状を物語るものです。
また、「はったりで墓穴を掘る羽目になることもある」ということもあります。
****アッバス 「自治放棄」の真意****
パレスチナ もはやヨルダン川西岸はイスラエルに任せる
国連加盟の行き詰まりでPLOが「自治政府解体」を持ち出す理由
ダン・エフロン(エルサレム支局長)
パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は苦難の時を迎えている。パレスチナを国家と認めさせるため国連への加盟申請に踏み切って2ヵ月半、交渉は行き詰まっている。アメリカからの援助は干上がり、先月は政敵であるイスラム原理主義組織ハマスとエジプトのカイロで何度目かの和解を試みたが、またも失敗した。
本誌が独自に入手した情報によれば、パレスチナ側は最近、自治政府の解体を検討していた。アッバスの側近中の側近はこの1カ月の間に、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に宛ててヨルダン川西岸に関する「すべての権限と責任」をイスラエルに移管する用意がある、という内容の書簡の草稿を書いていた。
書簡は実際に送られたわけではなく、自治政府の指導者が近くそうしようとしている気配もない。
この草稿はむしろ、アッバスが万策尽きたと判断するしかないような緊急事態への対策の1つらしい。草稿を見たという情報源によれば、そこには軍の指揮権や、教育・保健など行政権の段階的移管に関する手順が記されていたという。
それはネタニヤフに宛てた2枚の書簡で、文末にアッバスの名前はあるが署名はなかったと、この情報源は言う。書いたのは、アッバスの腹心でイスラエルとの和平交渉代表のサイブ・エレカトではないか、とみられている。エレカトは本誌の取材を拒否したが、手紙の存在を否定もしなかった。
パレスチナ解放機構(PLO)の幹部2人によれば、PLO上層部で構成するある委員会は、国連加盟が果たせなかった場合の多くの可能性の1つとして自治政府の解体を議論してきたという。
イスラエルに便利な存在
ほかの可能性としては、パレスチナ自治区を構成する西岸とガザで住民投票を行い、その結果をもって自治区をパレスチナの領土として国連の信託統治に託す案もあるという。同幹部らによれば、委員会は過去1カ月で3回開かれたが、結論にはまだ達していない。
自治政府が自らの解体案を文書にしようとした理由は不明だ。自治政府は93年にイスラエルとPLOの間で交わされたオスロ合意によって94年に誕生し、最終的な和平合意が成立するまでの3~5年の間、西岸とガザの自治が認められることになった。それから7年、和平はいまだに成立していない。
アッバスの周辺のパレスチナ人の間では最近、自治政府はイスラエルにとって便利な存在になり過ぎたという声が強まっている。西岸に住むパレスチナ人を自治政府が面倒見るおかげで、イスラエルは手間も費用も省けている。パレスチナ警察が自爆テロや外部からのテロリスト侵入を防いでいるため、イスラエルは西岸に割く兵力を削減できた。
その一方でイスラエルはずっと、自治区を事実上支配し、ユダヤ人の入接地を拡大し、パレスチナ人が自分たちの領土の一部と見なしている土地を侵食し続けている。
イスラエルにとってはまさに「ウィンウィン」の状況だと、エレカトは言う。昨夏、エレカトはこう言った。「もし自治政府が独立を達成できないなら、いっそ存在しないほうがいい」
自治政府が弱体化し切っている事実も、そうしたムードを後押しする。イスラエルは先月、自治政府に代わって代理徴収してきたパレスチナ自治区向けの輸入関税の送金を凍結した。パレスチナの国連加盟の試みと、対イスラエル闘争を続けるハマスと和解を試みたことに対する報復だ。
毎月約1億ドルに上るこの関税収入は、自治政府予算の約半分に相当する。その送金を止められて、自治政府は政府職員への給与やその他の支払いを銀行借り入れに頼ってきたがそれも限界だった(先月末に凍結は解除された)。
理由はほかにもある。10月にイスラエル兵捕虜1人とイスラエルが政治犯として拘束していたパレスチナ人約1000人の「捕虜交換」が実現したとき、ハマスは元政治犯に月額2000ドルの俸給を支払うと約束。元政治犯の支持がハマスに集まるのを恐れたアッバスは、1人5000ドルを約束した。イスラエルはこれを一種のテロ支援と見なし、アッバスに支払い停止の圧力をかけている。
自治政府が突如としてなくなれば、その影響は甚大だ。大混乱を避けるためには、イスラエルは94年以前と同じ西岸の完全な占領者に戻らなければならない。イスラエル政府が数年前に行った委託研究の試算では、パレスチナ自治区の支配を再度確立するためには年数十億ドルの費用が掛かる。
国連のロバート・セリー中東和平特別調整容は先月、それだけの支出を行えばイスラエルも借金まみれになると語った。「何か起ころうと、国連の支援は二度と期待すべきではない」
国民の半分が撤退を要求
イスラエルの政治的亀裂も深まる。問題は費用だけでなく、大規模な占領軍を展開することにも反対は根強い。世論調査では一貫して、国民の約半分が占領地の拡大ではなく撤退を求めている。自治政府が雇った数千人のパレスチナ人治安部隊も脅威になるだろう。
パレスチナ人にとってもこれは大問題だ。自治政府は西岸とガザで約20万人を雇う最大の雇用主。その給料で自治区の人口の約4分の1が生活している。それが突然崩壊すれば、経済危機に陥る心配もある。パレスチナ政策調査研究センターが9月に行った世論調査によると、パレスチナ人の61%は自治政府の解体に反対だ。
自治政府解体はパレスチナの脅しだと分かっている だが、はったりで墓穴を掘る羽目になることもある
結局、解体などはあり得ないのだと、多くの専門家は指摘する。パレスチナ人外交官のナセル・アルキドワは、指導者は「自分から権力を手放したりしない」と言う。「解体が起こる気配などどこにも見えないし、将来も同じだ」
イスラエル側では、はったりのにおいがする、とギオラ・エイランド元将軍が言う。「ここでは多くの心理戦が戦われている。今度の件もその1つだろう」
それでも、手紙が書かれたとすればそれは自治政府の絶望を示唆している。イスラエルとパレスチナはもう3年近くまともな交渉をしていない。20年間を振り返ってもこれほど長く断絶状態が続くのは珍しい。何か危機が起きたとき、機密を託せる信頼できる裏のパイプもないと双方の幹部は言う。【12月21日号 Newsweek日本版】
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