(09年のベツレヘム聖カテリナ教会のクリスマスミサ 平和への祈りは今年も変わっていません “flickr”より By Directions to Orthodoxy http://www.flickr.com/photos/directionstoorthodoxy/4215140628/ )
【「中東全体の平和と安寧を望む」】
パレスチナの和平交渉の停滞、自治政府・アッバス議長をとりまく困難な情勢については、12月16日ブログ“パレスチナ自治政府解体論も 「もし自治政府が独立を達成できないなら、いっそ存在しないほうがいい」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111216)で取り上げたところですが、例年どおりアッバス議長も参加してベツレヘムでクリスマスミサが執り行われました。
****ベツレヘムの教会でクリスマスミサ 中東の平和を祈る****
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ベツレヘムの聖カテリナ教会で24日深夜から25日未明にかけてクリスマスミサがあり、大勢のキリスト教徒らが集った。
ミサでカトリック教会のフアド・トゥワル・エルサレム総大司教は「中東全体の平和と安寧を望む」と述べ、エジプト、シリアなどの指導者が良識を持って民衆のために尽くすよう求めた。ミサにはパレスチナ自治政府のアッバス議長やファイヤド首相も出席した。
パレスチナ人の大部分はイスラム教徒だが、多くの市民が夜遅くまで教会前の広場に集まり、キリスト教徒とともにクリスマスを祝った。【11月26日 朝日】
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毎年のことではありますが、こうした平和な祈りが、イスラエル・パレスチナ全土に、また、クリスマス以外の日々にも何故広がらないのか・・・と、素朴な疑問を感じるところです。
【「中東和平を目指す努力を台無しにする決定だ」】
ただ、現実は厳しく、イスラエル政府は東エルサレムの入植地で約1000戸の新規住宅建設の入札を行うと発表し、パレスチナの反発が高まっています。
****入植住宅1千戸入札=「和平努力台無し」パレスチナ反発―イスラエル****
イスラエル政府は18日、東エルサレムの入植地ハルホマなどで約1000戸の新規住宅建設の入札を行うと発表した。住宅・建設省報道官によると、入札実施から建設の開始までは通常1年半程度かかる。
10月にパレスチナが国連教育科学文化機関(ユネスコ)加盟を決めた直後、イスラエルのネタニヤフ首相は、東エルサレムなどで入植住宅の建設を「加速させる」と発表していた。
パレスチナが将来の国家の首都と位置付ける東エルサレムなどでの入植活動の継続に対し、パレスチナ自治政府のアブルデイネ議長府報道官はAFP通信に「中東和平を目指す努力を台無しにする決定だ」と非難した。【12月19日 時事】
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今回のイスラエルの入札発表は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)でパレスチナの正式加盟が可決されたことへの報復措置として占領地への入植活動を決定したことによるものですが、英仏独ポルトガルの国連安全保障理事会理事国は20日、連名で非難声明を発表しています。
ただ、安保理ではアメリカがイスラエル非難に消極的ですので、安保理としてのまとまった対応はできないのが実情です。
****イスラエル:国連安保理4カ国が非難声明…入植者住宅建設****
東エルサレムやヨルダン川西岸で入植者住宅の建設を進めるイスラエルに対し、英仏独ポルトガルの国連安全保障理事会理事国は20日、連名で非難声明を発表した。議長国ロシアが「深刻な懸念」を表明するなど、入植活動には15理事国のうち米国を除く14カ国が懸念を示すが、拒否権を持つ米国が非難に消極的で安保理として対応できず、個別に意見を表明する異例な形となった。
声明で欧州4カ国は「イスラエルの行為は、中東和平を進めようとする4者(米国、ロシア、国連、欧州連合)協議の努力を踏みにじるものだ。入植者の暴力行為も非難する」とし、パレスチナとイスラエルに速やかな交渉再開を促した。
議長国ロシアのチュルキン大使は記者団に「ある国が安保理でのいかなる種類の声明も望んでいない」と付言し、米国を暗に非難した。(後略)【12月21日 毎日】
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【「入植者たちの暴力の台頭を防ぐ努力も、罰することもしていない」】
また、ユダヤ人入植地では、ユダヤ人の原理主義者たちがパレスチナ人のモスクに放火する事件が相次いでいるとも報じられています。
****ユダヤ人入植者によるモスク放火相次ぐ、パレスチナ****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で、イスラエル軍が政府に承認されていない違法なユダヤ人入植地の一部を解体したことに対し、ユダヤ人の原理主義者たちが腹いせにパレスチナ人のモスクに放火する事件が相次いでいる。(中略)
こうした襲撃事件は、イスラエル政府が違法入植地を解体する過程で、ユダヤ人入植者側の反動として起きている。一連のモスクに放火し「値札」の落書きを残す襲撃は通常、パレスチナ人が標的とされるが、9月にガリラヤのベドウィン村のモスクが放火されて以降、アラブ系住民を標的とするものも増えており、またイスラエル人の左派運動家やイスラエル軍も標的となっている。
今週12日、原理主義ユダヤ人入植者たちは抗議デモを実施し、ヨルダンとの境界沿いにある立ち入り禁止の軍事地域内に侵入。13日にはヨルダン川西岸にあるイスラエル軍基地を襲撃、車両を破壊した。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は14日夜、自らが率いる右派政党リクーの会合で、「わが軍の兵士たちに対する彼ら(原理主義のユダヤ人入植者)の攻撃は許さないし、われわれの隣人との宗教戦争を誘発することも許さない。モスクの神聖を冒涜させもしないし、ユダヤ人でもアラブ人でも傷つけることは許さない。彼らを拘束し、裁いてみせる」と強く非難した。
ただ、これまでもイスラエルの指導者たちはこうした事件を直ちに非難してきたが、実行犯が拘束されることは滅多にない。
一方、パレスチナ人社会は一連の襲撃事件に激怒している。パレスチナの指導者たちは、実行犯を罰しもせず放置しているとしてイスラエル政府を非難。マフムード・アッバス自治政府議長の報道官、ナビル・アブ・ルデイナ氏はAFPの取材に対し「モスクへの放火は、ユダヤ人入植者たちによるパレスチナ人への宣戦布告だ」と怒りをあらわにした。
パレスチナ自治政府は、イスラエル軍が「入植者たちの暴力の台頭を防ぐ努力も、罰することもしていない」と批判し、「そうした方針がパレスチナ人とその礼拝の場への入植者たちの憎悪犯罪をたきつけている。イスラエル政府がそのような原理主義者を無罪放免にする方針だから、こうした事件がいつまでも続いている」と強く責めている。【12月16日 AFP】
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パレスチナ側の“イスラエル軍が「入植者たちの暴力の台頭を防ぐ努力も、罰することもしていない」”という批判には、下記のような実情がるようです。
****ユダヤ過激派が「無罪放免」される理由*****
今月初め、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のモスクが放火された。同地区とイスラエルを合わせると、この2年で6件目のモスク放火事件だ。
一連の事件はパレスチナ人に憎悪を燃やすユダヤ過激派の仕業だとみたイスラエル警察は、2ヵ月前に特別捜査班を設置。だがこれまでに起訴された者は1人もいない。事件が一向に解決されない理由の1つは、イスラエル当局がユダヤ人の訴追に消極的なためだ。
イスラエルの軍法は、パレスチナ人の容疑者については長期間の身柄拘束を許しているが、ユダヤ人の場合は24時間以内に起訴の是非を判断しなければならない。それを承知しているユダヤ人容疑者は黙秘を続け、自白が取れない場合は解放される。
問題は当局の仕事が捜査ではなく、自白の強要になっていることだ。ハーレツ紙によれば、警察は指紋の採取やアリバイ確認、目撃者の聴取といった基本的な捜査活動さえ行っていない。
今回の放火に関して警察の広報担当者は、既に指紋採取などを済ませ「適切な捜査を行う」と話す。この2年を振り返ると、にわかに信じ難い言葉だ。【12月28日号 Newsweek日本版】
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日本だけでなく、世界の多くのキリスト教が一般的でない国々でもクリスマスは祝われていますが、ユダヤ教のイスラエルではクリスマスを祝うことは殆んどないようです。
宗教的に揺らぎがないと言えばそうですが、その頑なさが、パレスチナ和平の停滞、あるいはユダヤ人に対する偏見などの影響しているようにも思えます。
クリスマスだろうが何だろうが祝ってしまう日本人の軽薄さも、多くの民族・異なる文化の人々がつきあっていくうえでは必要なことかもしれません。
【宗教的な分断が生む狂気のテロ】
もうひとつ、クリスマス関連で目を引いたのは、ナイジェリアの惨状です。
****ナイジェリア、クリスマスに爆弾攻撃相次ぐ 礼拝中の教会狙う****
ナイジェリア各地で25日、クリスマス礼拝が行われていたキリスト教会などを狙った複数の爆弾攻撃があり、少なくとも40人が死亡した。すべての攻撃について、イスラム過激派「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪の意)」が犯行声明を出し、アフリカ大陸で最大の人口を持つナイジェリアで、ボコ・ハラムによるテロ行為への恐れと怒りが広がっている。
首都アブジャ郊外の教会では、クリスマス礼拝を終え信者らが外に出始めたところで爆発が起き、少なくとも35人が死亡した。なかには車に乗り込んでから爆発に巻き込まれ、車両ごと焼死した犠牲者もいる。また負傷者も多数出ており、重傷を負いながら神父にすがる信者の姿もみられた。
このほか中部ジョスでも、教会を狙った爆発があり、警察官1人が死亡。北東部のダマトゥルでは、秘密警察ビル前に停車中の軍用車を狙った自爆攻撃があり、犯人のほか警察官3人が死亡した。
ナイジェリア政府は軍を投入してボコ・ハラムを取り締まり、多数メンバーを逮捕したと宣言していたが、今回のボコ・ハラムの犯行を防ぐことはできなかった。
ナイジェリア治安当局は、一連の爆弾攻撃がボコ・ハラムの犯行であることを認め、バチカンや米国を始めとする欧米各国もボコ・ハラムを非難する声明を発表している。
ナイジェリアは、イスラム教徒が多数を占める北部とキリスト教徒を主とする南部とで宗教的な分断がある。【12月26日 AFP】
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これまでも何回かとりあげたように、ナイジェリアは上記“宗教的な分断”があり、両者間の衝突が繰り返されています。
それにしても、祈りの日の教会を狙ったテロというのは“狂気”としか思えません。