孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EUサミットを間に、米格付け会社による“市場の圧力” 欧州に広まる「ドイツ支配」への不満

2011-12-08 21:58:29 | 欧州情勢

(“メルコジ”とも呼ばれた欧州のリーダーですが、最近はサルコジ大統領の陰が薄く、もっぱらメルケル首相だけが目立ちます。“flickr”より By 梓婷 http://www.flickr.com/photos/60829931@N05/6287462393/

市場の圧力、EUサミットに対策を迫る
欧州の財政金融危機に関して、8~9日に開かれるEU首脳会議(サミット)の直前の5日、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が独仏を含むユーロ圏15カ国の長期国債の信用格付けを引き下げる可能性があると発表して話題となっています。
S&Pは、8、9日のEU首脳会議の後、速やかに結論を出すとしています。

****S&Pがユーロ圏15カ国格下げの可能性****
・・・・ユーロ圏17カ国のうち、投資不適格水準のギリシャと、すでに見直しに入っているキプロスを除く国が対象。最高位の「AAA(トリプルエー)」に格付けされる独など5カ国とベルギーは1段階、仏など他の9カ国は最大で2段階、それぞれ格下げする可能性があるという。
今回の見直しは、通常は原則として今後90日以内に、50%の確率で格下げとなることを示している。【12月6日 朝日】
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今回の措置は、欧州各国に対する“市場の圧力”とされていますが、懸命の努力をしている欧州側からすれば“脅迫”にも近いものとして不興を買っています。

****EUサミットへ、市場の圧力 独仏も格下げ検討****
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)がユーロ圏15カ国の国債の格付けを引き下げる可能性があると発表した。欧州を支える独仏まで格下げされれば、投資家の不安が膨らみ、国債がさらに売られるおそれがある。危機回避への対策にも響きかねない。

S&Pの発表は、独仏首脳が欧州時間の5日夕に財政規律の強化策を打ち出した後だった。結果的に、両首脳の提案に冷や水を浴びせる形となった。
欧州の危機回避策が進むとみて上昇していた5日午後のニューヨーク株式市場の株価は、値上がり分を打ち消す寸前まで下落。6日のユーロ圏の株式市場もやや安値で取引されている。

S&Pは、最高位の格付けを持つ独仏まで格下げの可能性がある理由を「景気後退に向かう兆候がユーロ圏の周辺国であり、影響が中核国の独仏に広がりつつあるからだ」と説明した。

欧州連合(EU)の各国政府は反発する。ロイター通信によると、フランスのバロワン財務相は「仏独の提案を考慮していない」。ルクセンブルクのユンケル首相も「大きな誇張で、不公平だ」と不満を示した。

ただ、投資家の間では、EU首脳が短期的に市場を落ち着かせられる対策を出せるのか、不安がくすぶっているのは確かだ。8~9日に開かれるEU首脳会議(サミット)を目前に控え、サミットで投資家を安心させるような内容を示して欲しい、という市場の要求を格付け会社が追認したとも言える。

■国債急落の恐れも
S&Pが実際にユーロ圏各国を格下げすると、「欧州の金融市場は取り返しがつかない状況に追い込まれる可能性がある」(みずほ総合研究所の中村正嗣氏)と心配する声もある。
各国の国債が売られて価格が下がり、金利が上がれば、各国は借り換えのために発行する国債の金利負担が増え、財政がさらに悪くなる。国債を多くかかえる銀行の損失も膨らみ、金融危機を起こす恐れもある。

財政危機の国を助ける「欧州金融安定化基金」(EFSF)の機能も落ちることが予想される。EFSFが各国の支援につかうお金は、最上位格付けを持つ独仏など6カ国の信用を背に借りたものだ。6カ国すべてが格下げされてしまうと、安い金利で借りにくくなり、財政危機の国を助ける力が弱まる。

ただ、EUは危機対応の役割を担わせる組織の軸足をEFSFから、欧州中央銀行(ECB)などに移し始めている。欧州以外の国からお金を集めてEFSFの規模を拡大することが難しくなっているからだ。
このため、独仏が提案したように財政規律の強化策をEU各国で実行し、財政への信頼を高めたうえで、短期的にはECBによる国債の買い支えや国際通貨基金(IMF)による資金支援を思い描く。

各国の格付けを維持し、思惑通りに危機対策を進めるためにも、EUサミットの場で、独仏が提案する財政規律の強化策について各国が速やかに合意できるかが重要になる。
■独仏提案(5日)の骨子
・財政赤字が国内総生産の3%を超えたら自動的に制裁
・借金を増やさない規定をユーロ圏各国の憲法などに明記させる
・来年3月の合意を目指す 【12月7日 朝日】
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これまでもしばしば格付け会社から引き下げを宣告され、その度に市場の圧力にさらされてきた欧州側には、アメリカ系の格付け会社が欧州の実情を正確に把握しておらず、欧州に不当に厳しい・・・との不満もあるようです。
ただ、11月28日に、欧州系格付け会社フィッチ・レーティングスは、アメリカ国債の長期信用格付けについて最上位の「トリプルA」を維持する一方、今後の見通しを「安定的」から「弱含み」に変更したと発表していますが、アメリカ系のS&Pはすでに8月上旬、財政赤字問題などで史上初めてアメリカ国債の最上位の格付けを1段階引き下げていますので、欧州だけに厳しい・・・という訳でもないようです。

欧州に広がる“ドイツ支配”への不満
S&Pの発表に不満を示す欧州各国ですが、ひとりドイツは、「それが格付け会社の責任だ」(メルケル首相)、「格下げ見通しは8、9日の欧州連合(EU)首脳会議で各国首脳に約束を守らせる最も効果的な薬だ」(ショイブレ独財務相)と余裕の対応です。

欧州各国に“ドイツ流”の財政規律遵守を迫る「強いドイツ」に、「ドイツ支配」を懸念する欧州各国からの反発も強まっています。

****強いドイツ:「独り勝ち」に欧州各国から警戒の声****
欧州各国が財政危機にあえぐ中、域内最大の経済大国として勢いを増す「強いドイツ」に対し、各国から警戒の声が上がっている。
背景には、強固な輸出力で黒字を続ける「独り勝ち」への反感のほか、2度の世界大戦を通じ欧州の脅威であり続けたドイツへの歴史的な不信もあるとみられる。メルケル首相は懸念の払拭(ふっしょく)に躍起だ。

メルケル首相は2日、ユーロ圏諸国の財政を監視する「経済政府」構想について、「これは欧州のためであり、ドイツが欧州を支配する意図は全くない」と強調し、「ドイツ支配」に対する反発に配慮した発言をした。
ユーロ圏の統合強化により、ドイツの影響力拡大を懸念する英国などを念頭に置いたとみられるが、実際に英国では「ドイツの支配する欧州には住みたくない」と発言する一部の政治家や、「(ナチスの第三帝国に次ぐ)第四帝国の台頭だ」とあおる大衆紙がドイツ脅威論をぶち上げる。

ドイツは今年、ユーロ安の影響で輸出額が前年比で12%も増え、初めて1兆ユーロ(約104兆円)を突破する見通しとなり、大幅な貿易黒字が見込まれている。8月の時点で失業率は7.0%と、90年の東西ドイツ統一後最低にとどまり、経済は絶好調だ。

こうした状況下、各国はドイツの「財布」に期待する。現在、各国が個別に発行する国債を欧州で「共同債」に移行すれば、財政危機国は資金繰りが容易になるため、導入を望む声が根強いが、メルケル首相は「(他国の債務を)共同で保証するなど考えられない」と突っぱねている。

「強いドイツ」に、周辺国も気を使う。フランスのサルコジ大統領は「経済の話でいえば、ドイツも(第一次大戦後の巨額のインフレで)悩んだ過去がある。フランス人はそれを理解し、尊重しなければならない」と過去の歴史にまで言及し、厳格な財政規律を重視して負担増を渋るドイツへの配慮を見せる。

一方で、第二次大戦でドイツに侵攻されたポーランドのシコルスキ外相は「私はおそらく、ドイツの勢力拡大を恐れない最初のポーランド外相だろう。ただ、ドイツが(危機に際し)何もしないことを恐れる」とドイツ台頭を持ち上げながら、やんわりと負担増を要求した。

独紙ウェルトは「好かれないドイツ人」との論説を掲載。「ドイツは今、米国がこれまで経験してきたことを経験している。国が強くなれば他国からの要求ばかり増え、それを全て完璧にはこなせず、結局は嫌われるという経験だ。ドイツは危機のスケープゴートにされている」と指摘した。【12月3日 毎日】
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今朝のTVニュースでも同趣旨の報道を行っていました。
欧州各国の抗議デモでは、メルケル首相をナチスのヒトラーになぞらえた批判もあり、また、フランス野党議員からは、「メルケル首相はドイツ帝国初代宰相のビスマルクをほうふつさせる」との発言もあるようです。

こうした各国の反応に、ドイツのマスメディアは非常に高い関心を払っているようですが、ドイツ国内の街の人々の声は、“ドイツのどこが悪い!”といった感じでした。

****ドイツ主導、欧州反感 債務危機克服へ緊縮財政迫る****
 ■「メルケル首相はビスマルク」
欧州債務危機でドイツのメルケル首相が単一通貨ユーロ圏の引き締めを強く迫る中、「ドイツに支配される」という歴史的なドイツ恐怖症が欧州で再び頭をもたげている。
フランスのサルコジ大統領が同首相に追従する場面が増え、仏野党議員は「メルケル首相はドイツ帝国初代宰相のビスマルクをほうふつさせる」と批判。重債務国が予算案を自国の野党より先にドイツに見せているとも報じられるなど、欧州のドイツ化への反感が広がっている。
                   ◇
(中略)ドイツは債務危機の発源地ギリシャに徹底した財政規律を要求、同国から「大戦中にナチスが奪った金塊を返せ」と反発された。
国際競争力がないギリシャやポルトガルには、支出削減と増税、賃下げを強いた結果、景気を低迷させ、逆に国内総生産(GDP)比の財政赤字を膨らませる悪循環を招いた。

メルケル首相から緊縮財政を迫られ、ベルルスコーニ前首相が辞任したイタリアでは4日、経済学者の女性閣僚が年金支給年齢引き上げを発表した際に涙ぐんでしまい、いじめっ子・ドイツのイメージが決定的となった。

7日付の国際紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは、アイルランドの来年度予算案が先月、同国の野党議員が見る前にドイツ連邦議会において出回っていたと伝えた。

サルコジ大統領は「欧州は選択ではない。必須だ。フランスはドイツとともに救われるか、沈没していくかだ」と仏独協調をアピールする。しかし野党・社会党の有力議員は、メルケル首相を19世紀の普仏戦争に勝ったビスマルクに例え、「ユーロ圏の廃虚の上に財産を築こうとしている」と非難。ジュペ外相から「ドイツ恐怖症という悪魔を復活させる恐れがある」といさめられた。

しかし、緊縮一本やりのメルケル首相に、仏紙ルモンドは「欧州のドイツ化を恐れるフランス」と懸念を示し、極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は「ナチ時代の棍棒(こんぼう)でたたかれる欧州」と発言した。
債務危機によるユーロ安で貿易黒字を積み上げるドイツが主導する財政健全化策が重債務国の景気を冷え込ませ、ドイツへの反発をさらに強める恐れがある。【12月8日 産経】
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市場が不安を煽り、金利が上昇、結果的に財政が破たんし不安が現実のものとなる・・・・
財政立て直しのために緊縮策を行い、景気が更に悪化し、結果的に財政はますます悪化する・・・・
経済は、下り坂では悪循環に陥ってしまいます。
この悪循環を断ち切るためには・・・・何でしょうか?
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