孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  イスラム主義政党の台頭 第2回投票でも流れ変わらず

2011-12-25 20:13:02 | 北アフリカ

(11月28日 アレキサンドリアの投票風景 “flickr”より By samar fouad http://www.flickr.com/photos/samarfouad_86/6424458049/

激化する軍部批判の一方で、デモへの反感も高まる
ムバラク政権崩壊後の人民議会(下院)選挙が行われているエジプトでは、暫定統治する軍最高評議会への不満が強まっており、1週間で15人が死亡する事態となっています。
ただ、抗議者のなかには暴れたいだけの若者も少なからずいて、市民の多くは辟易しているのが実情・・・とも伝えられています。

****エジプト、深まる分裂 軍・デモ隊、双方へ反感****
エジプトで、ムバラク政権崩壊後に全権を掌握した軍部に対する批判が強まっている。この1週間で治安部隊とデモ隊の衝突で15人が死亡。過剰な暴力行使を批判する複数の市民グループが23日に再びデモを呼びかけた。一方、続く混乱にデモへの反感も高まり、社会の分裂が深まっている。

カイロ中心部タハリール広場では23日午前、数千人の市民が軍政の即時退陣などを求めて叫んだ。首相府や議事堂に向かう通りは軍部が封鎖。衝突を警戒し、救急車数十台が待機した。
民政移管などを求めて11月下旬から続く反軍部デモを排除しようと、軍部は今月中旬、治安部隊を動員して衝突となった。デモ参加者の女性をこん棒でめった打ちにして路上で衣服をはぎ取るといった手荒なやり方に、国連からも批判が出た。軍部が23日以降、デモ隊排除に乗り出せば、暴力が再燃する可能性がある。

衝突のさなかに古文書を収めた国立施設が何者かに放火され、貴重な歴史資料が失われるなど、社会の混乱が続いており、デモへの反感も高まっている。23日にはカイロの別の地域で軍政支持を訴えるデモも呼びかけられている。

動員力を持つイスラム団体、ムスリム同胞団もデモと距離を置いている。11月末から地域ごとに投票が行われている下院選挙で、系列の政党が第1党となる勢いを見せているため、選挙活動に集中して政局の主導権を握りたい構えだ。
デモを主導する青年らでつくる「革命継続連合」やリベラル派は選挙で伸び悩んでおり、タハリールのデモ隊からは「同胞団は権力の分け前がほしいだけだ」との批判も強まっている。【12月24日 朝日】
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イスラム系2政党が、比例区で計7割近い得票
こうした混乱のなかで、地域別に行われている人民議会(下院)選挙は第1回の首都カイロなどに続いて、北部ギザや南部アスワンなど行われた第2回投票の結果が発表されています。
結果は、第1回同様、ムスリム同胞団の政治組織であるイスラム穏健派の「自由公正党」がリードしており、厳格派の「光の党」も合わせると、イスラム系2政党が比例区で計7割近い得票を得ており、世俗派やリベラル派は伸び悩んでいます。

****イスラム政党、優勢続く エジプト下院選第2回投票****
エジプトで地域ごとに投票が行われている人民議会(下院)選挙で、イスラム系政党の勢いが続いている。カイロ近郊ギザなど9地域で行われた第2回投票の結果が24日に発表され、穏健派と厳格派のイスラム系2政党が、比例区で計7割近い得票を得た。

イスラム穏健派の自由公正党が比例区で約37%を獲得、小選挙区(計60)では半数を超えた。より厳格なイスラム法の導入を求める光の党も比例区で29%を得た。世俗・リベラル派は伸び悩んだ。比例区ではワフド党が10%で3位、リベラル新党連合のエジプトブロックが4位だった。

首都カイロなどで行われた第1回投票と同様の傾向で、イスラム勢力が新議会を主導する見通しだが、両党は今のところ議会での連携を否定している。
東部シナイ半島などでの第3回投票は来年1月3日から。選挙違反が理由で再投票となる選挙区などもあるため、全体の結果が確定するのは1月中旬以降となる見通しだ。【12月25日 朝日】
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「ファラオ(古代エジプトの王)の時代以来の高投票率だ」(イブラヒム選管委員長)という第1回の結果が、比例区で自由公正党は37%、光の党は24%とのことでしたので、傾向は変わっていません。
(なお、第1回投票率については、当初の62%から52%に大幅訂正されました。非常に奇妙ではありますが、詳しい事情はわかりません。)

「エジプト・ブロック」や「革命継続党」などリベラル系会派・政党は第1回投票後、選挙区での候補者調整を協議しましたが難航し、ごく一部での選挙協力にとどまったとのことです。【12月14日 毎日より】
「エジプト・ブロック」は、イスラム主義政党による「新しい独裁」が始まると危機感を訴える選挙戦術を展開しましたが、流れは変わらないようです。

第1党が確実なイスラム穏健派と評される「自由公正党」は、ムバラク政権時代に弾圧されたエジプト最大のイスラム組織ムスリム同胞団を基盤としています。「イスラムの精神に基づいた近代的な市民国家づくり」を主張、キリスト教徒を副党首に据えた「市民政党」の体裁を取っており、政治路線は現実主義的とされています。
一方、イスラム厳格派と評される「光の党」は、法制度を全面的にイスラム法とするよう主張しています。
政治路線の違いから、両党が議会で連携するかどうかは、不透明とされています。【12月8日 朝日より】

【「アラブの春」で台頭するイスラム主義
「アラブの春」による変革後、イスラム主義政党が台頭するのは共通現象です。
組織力・資金力があるのがそうしたイスラム主義政党だけで、世俗派政党の体制が整っていないという事情もありますが、これまで行ってきた福祉活動などが一定に評価された“民意”でしょう。

****アラブの春」契機 チュニジア焼身自殺1年 イスラム勢力、我が世の春****
中東・北アフリカに民衆デモが拡大し独裁政権が相次いで倒れた「アラブの春」のきっかけとなった、チュニジアでの青年の焼身自殺から17日で1年を迎える。民主化プロセスが進む中、各国の選挙ではイスラム勢力がほぼ“独り勝ち”し、さながら「イスラムの春」の様相を呈している。今後は国のあり方をめぐる議論が焦点となるが、国内政治の安定や経済の立て直しなど課題も多い。

1月にベンアリ前大統領が亡命し、その後の「政権崩壊ドミノ」の先駆けとなったチュニジア。今月14日に、10月の制憲議会選で第一党となったイスラム政党アンナハダ幹事長のジバリ氏が新首相に指名され、アラブの春以降では初のイスラム勢力主導政権が誕生することになった。
民主化が進む一方、インフレが国民の生活に重くのしかかり、生活の改善に強い期待がかかる。

王制国家モロッコでは11月、イスラム政党が第一党に躍進、同じく王制のヨルダンでも今年に入り、イスラム勢力のデモなどで首相が2度にわたり交代した。

さらに、域内外からの注目が集まるのが、8千万人超の人口を抱える地域大国エジプトの動向だ。
2月のムバラク前政権崩壊後、初めてとなる人民議会(下院に相当)選が11月に始まり、これまでのところ、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団傘下の自由公正党が、比例投票枠で36%の票を獲得。最終結果は全選挙区で投票が終わる来年1月の発表だが、第一党となる公算は極めて大きい。
16日付の政府系紙アルアハラムは中間集計として自由公正党や、より復古主義的なイスラム政党、ヌール党が得票率を伸ばしていると報じた。

イスラム勢力の躍進について政府系シンクタンクの専門家は「政策そのものへの支持よりも、慈善活動などを通じて社会への浸透を図ってきた成果との側面が大きい」と分析。「現実の政策に関わるようになれば、穏健化していくだろう」と予想する。
だが、選挙での優勢が顕著になるにつれ、同胞団幹部からは「ビキニ着用は非イスラム的だ」といった発言が出始めている。劣勢のリベラル派には、イスラム化が進むことで主要産業である観光に悪影響が出るとの懸念の声も強い。

今後の新憲法制定プロセスでは、同胞団などの意向が反映され、イスラム色の強いものとなる可能性もあるが、暫定統治を担う軍部がどういった態度に出るかは不透明なこともあり、当面は各政治勢力間で激しい駆け引きが続きそうだ。
内戦と欧米の軍事介入の末、カダフィ政権が倒れたリビアでも、最近では民兵組織同士の衝突が続発し、平和的に民主国家移行が実現するかはなお不透明だ。【12月17日 産経】
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厳格派も現実路線をアピール・・・・、今後軍部は?】
なお、エジプトで第2位につけており、穏健派「自由公正党」との連立が注目される厳格派「光の党」党首は、「良好な対米関係の維持に努め、イスラエルとの平和条約など国際的な取り決めを順守する」と、今のところは現実主義的な外交路線を示しています。

****対米関係維持、現実路線へ=「光の党」党首が単独会見―エジプト****
ムバラク政権崩壊後初めてのエジプト人民議会選挙で躍進が見込まれるイスラム原理主義の厳格派「光の党」のエマド・ガッファール党首は、9日までに時事通信と単独会見し、外交方針について「良好な対米関係の維持に努め、イスラエルとの平和条約など国際的な取り決めを順守する」と述べ、初めての政治参加に際して現実路線を取る意向を示した。

1月まで地域ごとに段階的に実施される議会選の第1回投票で、光の党は穏健派イスラム政党、自由公正党に次ぐ議席を獲得した。光の党はシャリア(イスラム法)導入を唱えており、エジプト国民や国際社会の中で警戒論も出ている。会見に応じた同党首には、穏健な姿勢を強調し、こうした懸念を薄める狙いもあったようだ。

ただ、ガッファール党首は、対米関係を維持する一方で「多極的な関係の構築を目指す」と表明。イスラエルとの関係についても「イスラエルは国連決議などを順守しておらず、そうした問題に対しては、われわれなりの立場がある」と述べ、条約の見直しに含みを残した。【12月9日 時事】 
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第3回投票でも大きな変化はないと思われますので、今後はイスラム主義政党間の連立、イスラム主義政党の台頭を警戒する軍部との関係が注目されます。
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