孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマーをクリントン米国務長官が訪問 ミャンマー・アメリカ・中国の思惑

2011-12-03 21:03:39 | ミャンマー

(“クリントン長官は「あなたは我々にとって励みとなる存在だった」とスー・チーさんの長年にわたる民主化闘争を称賛。スー・チーさんは、「長官を派遣してくれたオバマ大統領と米国に感謝する」と述べた。2人は両腕を互いの背中に回してきつく抱き合い、満面の笑みで頬を何度も寄せ合っていた”【12月2日 読売】
写真は“flickr”より By East Asia and Pacific Media Hub http://www.flickr.com/photos/eapmediahub/6441370575/ )

閣僚ポストは断り、議員として議会で改革を訴えていく
ミャンマーでは、これまでも取り上げてきたように、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんの国政への参加が具体化しています。

****スー・チーさん、ヤンゴンの選挙区から立候補へ****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが主導する国民民主連盟(NLD)の幹部は3日、来年3月にも行われる議会補選に出馬する意向を示したスー・チーさんは、下院選のヤンゴンの選挙区から立候補すると明らかにした。
首都ネピドーで立候補するとの見方も出ていたが、NLD本部や自宅があるヤンゴンを選んだ。

NLD幹部は「スー・チーさんは仮に閣僚などのポストを推薦されても断り、議員として議会で改革を訴えていくだろう」と述べた。(後略)【12月3日 読売】
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スー・チーさんは、その決意を「選挙参加は私の尊厳を損なうと考える人がいるが、政治を志す人は尊厳など考えていてはいけない」と語っています。

ミャンマー・アメリカ・中国 三者三様の思惑
一方、先月末にはクリントン米国務長官が、米国務長官としては1955年のダレス長官以来56年ぶりにミャンマーを訪問、テイン・セイン大統領やスー・チーさんとの会談を行っています。
この歴史的な米国務長官の訪問は、最近のテイン・セイン政権の民主化に向けた変革を一定に評価して実現したもので、両国関係改善のみならず、ミャンマーの本格的な国際社会復帰へ向けた第一歩となることが期待されています。

これまでのアメリカ主導の経済制裁のなかで、ミャンマーは中国への依存を強めてきました。
今回のクリントン米国務長官訪問を機に、経済制裁の緩和などによってアメリカの影響力が強まることも予想され、ミャンマー・アメリカ・中国の関係は微妙な段階にあります。
また、今後の“民主化”がどこまで進むのかについても、それぞれの思惑が絡んできます。

ミャンマー:「(米中)どちらの国が、より多くの利益をもたらすかを検討
“欧米の経済制裁はミャンマーを中国、東南アジア諸国、インドとの相互接近へと押しやった。輸出先ではタイが1位、中国は最大の輸入相手国だ。だが、経済は慢性的に伸び悩み、物価上昇、外国投資と企業進出の停滞などに悩まされ、欧米の経済制裁はとりわけ、縫製業などの産業に打撃を与えている”【12月2日 産経】というミャンマーにとって、経済制裁解除は事態打開の第1歩であり、“テイン・セイン大統領にとり、クリントン長官の訪問は「民主化措置という釣り糸の針に、米国が食いついた」(専門家)という格好でもある”【同上】とも言えます。

今後については、経済制裁解除を求めるミャンマー、テイン・セイン政権としては、中国と一層の民主化を求めるアメリカのバランスを維持しながら、また、国内保守派の反発に配慮しながら慎重に・・・というところです。

****ミャンマー 民主化に高いハードル 米中との「等距離外交」腐心****
ミャンマーの民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさんとの会談で締めくくられたクリントン米国務長官の訪問を通じ、ミャンマーは全政治犯釈放や少数民族との和解、北朝鮮との軍事協力断絶など国内に反対勢力を抱えるハードルの高い課題を突きつけられた。米国が後ろ盾となる民主化勢力や、米国との接近に伴う中国とのスタンスの取り方も、微妙になる。米中との“等距離外交”に腐心しそうだ。

「全政治犯の釈放と、将来一人の政治犯もつくらないことが重要だ」。アウン・サン・スー・チーさんは2日、クリントン長官との会談後、記者団にこう語った。
しかし、消息筋によると、軍の一部には釈放への反対がある。とりわけ著名な政治犯を釈放すれば、民主化勢力を助長することになるとの懸念があるという。

カチン族など少数民族問題も前途多難だ。AP通信によると、2日、ミャンマー政府は反政府武装勢力シャン州軍と停戦合意した。しかし軍による少数民族への暴行や略奪など少数民族側の怒りは激しく、他民族との合意につながるかは不透明だ。

また、ミャンマーは北朝鮮の支援で、弾道ミサイル・スカッドの製造を進めているとされる。とりわけ2008年以降、緊密化した軍事協力によるスカッドの製造は、ミャンマーの「核保有」の意図とリンクしていると懸念されてきた。
クリントン長官が、北朝鮮との軍事協力を断ち、国連の核不拡散体制を尊重するようミャンマー側に求めたのも、このためだった。
ミャンマーは中国やロシアからも武器の供給を仰いでいるが、北朝鮮との軍事協力断絶という重大な決断に踏み切るかどうか疑問視する向きもある。

こうしてみると、米国が経済制裁の緩和・解除へ向け設定したハードルは、決して低くない。クリントン長官は2日、帰国を前に、「ミャンマーの改革が前進するのであれば、米国は(制裁解除など)前進する用意がある。しかし、歴史はわれわれに用心深さを教えている。われわれはまだ、対話の初期段階にいるにすぎない」と述べ、ミャンマーの改革を楽観視していないことを指摘した。

隣国、中国への配慮も必要となる。テイン・セイン大統領はクリントン長官との会談で、「中国は長年にわたる良き隣人であり、地政学的にも重要だ」と、わざわざ言及した。
クリントン長官の訪問に先立ち11月28日には、訪中したミャンマー国防軍のミン・アウン・フライン総司令官と中国の次期最高指導者に内定している習近平国家副主席との間で、軍事協力の強化で合意している。
中国でも「中国とミャンマーとの経済関係を米国が取って代わることは不可能だ。しかも米国は内政干渉が得意。ミャンマーが米国主導を受け入れることはない」(専門家)との見方がある。

米中を両にらみする「等距離外交」に進むとすれば、地域における米国のプレゼンスは相対的に高まる。米中のつばぜりあいは、中国をめぐるASEAN内の構図にも微妙な変化を及ぼしそうだ。【12月3日 産経】
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テイン・セイン大統領の顧問は「(米中)どちらの国が、より多くの利益をもたらすかを検討しなければならない」と11月30日付の米紙ワシントン・ポストに語っているとか。

アメリカ:「米国はずっとあなたを支える」 国内に警戒論も
アメリカはクリントン国務長官とスー・チーさんの親密ぶりをアピール、スーチーさんとアメリカが協調してテイン・セイン政権に民主化を迫っていく姿勢を内外に示しています。

****ミャンマー:米国務長官「スーチーさん重視」を明示****
ミャンマーの民主化運動指導者アウンサンスーチーさんが2日午前、ヤンゴンの自宅で同国訪問中のクリントン米国務長官と会談した。スーチーさんは会談後「私たちが手を携えれば、民主化への道が後戻りすることはない」と述べた。両者は記者団を前に固く手を握って肩を抱き合い、親密さをアピール。
政権主導の改革の進展で国際社会がミャンマー政府との関係改善に乗り出す中、スーチーさんと米国が協調してテインセイン政権に民主化を迫っていく姿勢を内外に示したものだ。(中略)

クリントン長官は首都ネピドーからヤンゴンに到着した1日夜にもスーチーさんと夕食を取りながら会談。AFP通信などによると、長官は夕食の場で「米国はずっとあなたを支える」とのオバマ大統領からの親書を手渡し、自身も「あなたに励まされ続けてきた」と初対面のスーチーさんに最大限の賛辞を伝えた。

2回の会談では全政治囚の釈放や少数民族武装組織との和平実現に向け、政権への圧力を強めていくことで一致したとみられる。長官は2日午後の記者会見で、スーチーさんの国会補選立候補について「理解と支持」を表明したことを明らかにした。
クリントン長官は1日のテインセイン大統領との会談で、政権の改革姿勢に一定の評価を示し、臨時代理大使級から大使級への外交格上げなどミャンマーとの関係改善の第一歩を踏み出す意向を表明した。

クリントン長官が示した「スーチーさん重視」の姿勢は、今後の活動の大きな支えにもなる。
米国にとっても、一方的に政権との関係改善を進めれば「スーチーさんを見捨てた」との批判を受けかねない。スーチーさんへの強い信頼感や協調姿勢を強調することで、スーチーさんの懸念を払拭(ふっしょく)するとともに、テインセイン政権にスーチーさんの意向を尊重するよう圧力をかける狙いがありそうだ。【12月2日 毎日】
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ただ、アメリカ国内には「ミャンマー軍部の暴漢どもに誤った信号を送りかねないことを危惧する」(ロスレーティネン下院外交委員長)といった、ミャンマー側の民主化の取り組みへの疑念も強く、今後、民主化などの人権問題が進展しない場合、来秋の大統領選を前にオバマ政権は内政に加えて外交でも難題を抱え込むことになります。【12月2日 産経より】

中国:「米国の支援はアメに過ぎない」「(中国の支援は)米国よりも純粋だ」】
中国は、アメリカとミャンマーの接近に苛立ちを見せています。

****米国務長官ミャンマー入り 中国、いらだちと不満****
 ■「アジアの仲間さらわれる」
クリントン米国務長官のミャンマー訪問に対し、ミャンマーの長年の盟友、中国はいらだちと不満を覚えている。米国の影響拡大によりミャンマーの中国離れがますます加速することを警戒しているからだ。30日付の共産党機関紙、人民日報傘下の環球時報は社説で「米国は中国のアジアの仲間を一人ずつさらっていこうとする」と米国への不快感をあらわにしている。
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今年3月に民政移管されたミャンマーは、軍事政権時代に中国と蜜月関係を構築してきた。北朝鮮、パキスタンと並んで、中国の3大盟友の一角を占め、中国からは経済、インフラ建設、軍事など多くの分野で支援を受けてきた。ミャンマーが人権や民主化問題などで、国連など国際社会から批判にさらされたときも、かばってきたのは中国だった。

一方、中国は、中東から運ばれる原油をミャンマー西部の港を経由して中国国内へ運ぶパイプラインを建設し、雲南省など国内の電力確保のためにミャンマーで発電所開発計画を進めるなど、ミャンマーに対し絶対的な信頼を寄せていた。中国海軍の将来のアジア展開をにらみ、中国はミャンマーの港湾整備にも積極的に関わってきた。

しかし、中国資本がミャンマー経済を牛耳るようになり、中国系住民の影響力が拡大するのにともない、ミャンマー国民の反中感情が高まったのも事実だ。
こうした状況を受け、ミャンマーの新政権は中国と距離を取るようになり、国際社会との融和を目指し始めた。

ミャンマーの中国離れが進むことは、中国にとって重要な盟友を失うだけではなく、これまでの支援と投資が無駄になり、対アジア外交政策の全般の見直しが迫られるほど重要な意味を持つ。北京の政府系シンクタンクの研究者は「ミャンマーに裏切られた気持ちはあるが、今は米国とどこまで接近できるのか静観するしかない」と話す。

クリントン長官訪問に先立つ11月28日、中国の習近平国家副主席は、訪中したミャンマー国防軍のミン・アウン・フライン総司令官と会談、軍事交流を深めることのほか、「中国はミャンマーの民族団結と経済発展を支持する」と語った。「民族団結を支持する」とはミャンマーの少数民族である中国系住民の武装勢力を支援しないとの意味が込められ、ミャンマーへの懐柔を始めたと受け取られている。【12月1日 産経】
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****中国:米国務長官のミャンマー訪問を批判…環球時報紙****
中国の国際問題情報紙「環球時報」は2日、クリントン米国務長官のミャンマー訪問について、中国とミャンマーを離反させるものだとする社説を掲載し、「米国の支援は政治的な武器であり、アメとムチのアメに過ぎない」と批判した。

社説は「米国のかつての覇気や自信は跡形もなく、度量の小ささを示した」と指摘。「中国の対外支援も欠点がないとはいえないが、米国の支援よりも純粋だ」と主張し、「自然な振る舞いの中国と意図的な米国のどちらがより疲労し、どちら(の対外支援)が長続きするかは容易に予測できる」と結んだ。

中国政府は「ミャンマーと西側諸国は接触を強化し、関係を改善すべきだ」(洪磊(こうらい)・外務省副報道局長)との立場だが、社説は、中国を意識した米国のアジア回帰に対する中国側の不快感を代弁したものといえそうだ。【12月2日 毎日】
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中国:ミャンマーの国際社会参加を歓迎する考え方も
しかし、中国国内にも、ミャンマーが第2の北朝鮮となることを危惧し、「ミャンマーが国際社会に参加して安定すれば、中国の利益になる」とする意見も多くあるようです。

****ビルマの門戸開放に中国の思いは複雑*****
11月30日からクリントン米国務長官を迎える予定のビルマ(ミャンマー)。この訪問によって、ビルマの唯一の同盟国とも言える中国の立ち位置も変わらざる得ないだろう。

中国では、ビルマに対するアメリカの影響力が強まることを警戒する声がある。その一方で、より聞かれたビルマは中国にとっても望ましいとの認識も広がりつつある。
中国にとって望ましくないのは、ビルマが第2の北朝鮮になること・・・・中国に頼り切った閉鎖的な孤立国家になることだ。
「孤立したビルマは不安定なビルマだ」と北京大学の国際経済学者、査道畑は言う。「ビルマが国際社会に参加して安定すれば、中国の利益になる」

中国では今、資源の豊かな隣国ビルマとの関係をどう維持するかが盛んに議論されている。(中略)
ビルマの民主化に一定のブレーキをかけつつ、自国の経済的権益を確保したい。それが中国の本音のようだ。【12月7日号 Newsweek日本版】
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