(12月6日 モスクワ 抗議デモの参加者を拘束する警官 “flickr”より By hegtor http://www.flickr.com/photos/yuri_timofeyev/6472239733/ )
【広がるやり直し選挙を求める声】
4日投開票されたロシア下院選(定数450、任期5年)では、プーチン首相率いる最大与党・統一ロシアが238議席(得票率49.32%)と、現有議席の315議席を大幅に減らして惨敗したものの、過半数は維持する結果となっています。
しかし、選挙で不正が行われたとの批判が広まっています。
****「不正映像」動画サイトに次々=疑惑裏付けか―ロシア下院選****
4日のロシア下院選で、不正行為を撮影したとされる映像が相次いで動画サイト「ユーチューブ」に投稿されている。地方の知事らは中央から集票を指示されたと伝えられており、映像が本物なら、政権の働き掛けによる不正疑惑を裏付けることになる。
このうち、地方都市で投票前日に隠し撮りされたという映像では、与党側の関係者とみられる女性が、束になった投票用紙の政党欄に次々とチェックを入れる様子が分かる。
別の映像には、ある投票所で、後からインクを消せる特殊なペンばかりが置いてあるのを若者が発見、立会人に報告する様子が録画されている。
さらに、男性が1人で複数の投票所を回って何度も投票している映像や、隙間の大きく空いた段ボール箱が投票箱に使われているずさんな管理の実態を指摘する動画の投稿もあった。【12月8日 時事】
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あまりに劇的な数字で、にわかには信じ難いものがありますが、最大与党・統一ロシアの得票率が、中央選管発表の49.3%を20ポイント近く下回る30%以下だったとの民間団体による調査結果もインターネット上で発表されています。【12月9日 時事より】
こうした疑惑に対し、選挙直後からデモが続いており、拘束者も数百人規模に及んでいます。
抗議デモの拡大には、ソーシャル・メディアのフェイスブックなどのインターネットが大きく寄与していると言われています。
また、ゴルバチョフ元ソ連大統領や、得票率制限に届かず議席を獲得できなかったリベラル派政党、ヤブロコのヤブリンスキー党首などからもやり直し選挙を求める声が出ています。
****露、連日の反政府デモ 著名人続々 ゴルバチョフ氏ら賛同****
(中略)ゴルバチョフ氏は7日、「選挙結果が公正だと信じない人が日に日に増えている。(政権は)多数の不正があり、開票結果は有権者の意思を反映していないと認めるべきだ」とし、選挙をやり直すよう求めた。
得票率制限に届かず、下院の議席を獲得できなかったリベラル派政党、ヤブロコのヤブリンスキー党首も、「結果に不満がある政党は獲得した議席を拒否し、やり直し選挙を求めるよう提案する」と同調する姿勢を示した。
このほか、反政権派の連合体「人民の自由党」の共同代表3人も、今週末10日のモスクワでの反政府デモに参加する方針を決めた。代表の1人はプーチン前政権期の前半に首相を務めた後、たもとを分かったカシヤノフ氏が務めており、政党登録を拒否されて下院選への参加を阻まれていた。
日本文学に詳しいベストセラー作家のアクーニン氏が、自らのブログでプーチン氏以外の政党党首らに対し大統領選に出馬しないよう要請し、大統領選での投票ボイコットを呼びかけるなど、与党批判は政界を超えて広がりつつある。
欧米からも批判が寄せられるなか、政権側は選挙の正当性を強調する姿勢を崩していない。プーチン氏は7日に中央選管を自ら訪れ、大統領選への立候補を届け出るなど、大統領復帰に向けたシナリオに変化がないことを示してみせた。
露メディアによると、6日夜にモスクワ中心街のデモで拘束された約600人の大半が、7日も警察施設に留め置かれたもようだ。これほど多数の参加者の拘束が続くことは珍しく、政権側がデモ続発に神経質になっていることを示すものとみられる。【12月8日 産経】
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軍や治安当局は、「デモ参加者は兵役に送る」と相次いで警告。これに対し、兵士の母親らでつくる団体は「軍隊は『刑務所』ではない」と怒り心頭・・・といった話もあるようです。【12月10日 時事より】
各地で「不正があった」と訴える抗議デモが続く中、ロシア中央選管は9日夜、最終結果を公表して、結果が確定しました。
“チュロフ選管委員長は既に捜査当局に協力を要請する方針を明らかにしているが、イブレフ副委員長は選挙の合法性は揺るがないとの認識を示した”【12月10日 時事】とのことです。
【ロシアの反政権・民主化運動に、潮流の変化】
しかし、その後も抗議デモは収まらず、10日にはモスクワで、主催者側発表で4万人、警察発表でも2万5千人に達する異例の大規模デモが行われました。
****「選挙は無効」「プーチン退陣」と叫ぶ大群衆*****
ロシア下院選での不正に抗議する10日のモスクワでの集会は、プーチン首相が大統領に就任した2000年以降では異例の2万5000人規模にふくれあがった。
「選挙は無効」「プーチン退陣」と叫ぶ大群衆は、強権体制に対する無力感とあきらめに包まれていたロシアの反政権・民主化運動に、潮流の変化が訪れた可能性を示した。
モスクワでの集会は午後2時、クレムリンに近いボロートナヤ広場で始まった。参加者は若者が中心だが、高齢者の姿もあった。(中略)
今回の集会を主催したのは、1990年代後半にエリツィン政権で第1副首相を務めたボリス・ネムツォフ氏が率いる反政権の市民団体などで、野党の共産党や公正ロシアが加わった。
だが、集会参加者は、こうした政治組織を支持しているわけではなく、政権による選挙結果の不正操作がネットなどで伝えられたことでふくらんだ。多くの参加者は与党「統一ロシア」のシンボルマークにバツ印をつけたリボンを胸につけた。
プーチン氏の地元サンクトペテルブルクでも集会が開かれ約7000人が参加した。明確な指導者を欠く中、簡易投稿サイト「ツイッター」などで運動が拡大する展開は、中東の大衆行動「アラブの春」に重なる。【12月11日 読売】
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AP通信によると、同様の抗議デモは極東ウラジオストクから西部サンクトペテルブルクまで50都市以上に広がり、ソ連崩壊後で最大規模の抗議行動となっています。
興味深いのは、ロシア当局がこうした大規模抗議活動を許可したことです。
“拒否すればかえって逆効果との判断”とも報じられています。
****官僚の腐敗に批判、身内からも ****
抗議集会のうねりは、プーチン氏の大統領復帰に向けた「双頭体制」の戦略にも修正を迫っている。
「業界の声を無視するこうした役人が、政権の、党の、そしてあなた、プーチンさん自身の支持率を下げているんです」
8日、プーチン氏が今春つくった運動体「全ロシア国民戦線」の会合で、タクシー連盟の代表が地方官僚の腐敗について直訴した。
野党勢力ではなく、身内から出た激しい与党批判。プーチン氏が党首の統一ロシアは、「汚職にまみれた官僚党」のイメージで大きく議席を減らしていた。
下院選直後、プーチン氏が大統領選の選対本部を置いたのは国民戦線だった。不評の統一ロシアから距離を置く意図は明らかだ。
「政権は野党と対話すべきだ」。抗議の高まりとともにプーチン氏の発言は軟化した。10日の集会もモスクワ市が許可を出したが、この規模では異例。拒否すればかえって逆効果との判断があったとみられる。(中略)
下院選で反与党の受け皿となった「公正ロシア」(中道左派)のグトコフ議員は「政治リーダーを持たないロシア市民が怒った」と語る。集会は下院選で政党登録を認められなかったリベラル勢力「国民自由党」のメンバーらが呼びかけたが、プーチン氏の長期政権を嫌う市民層まで支持のすそ野を広げつつある。
真の野党かどうか踏み絵を踏まされているのは、今回の下院選で議席を維持した「体制内野党」だ。共産党は市議会議員の参加を決定。公正ロシアは党レベルでは集会は支持しないものの、個人判断で参加した。反プーチンで野党勢力の結集にまでいくかどうかが焦点だ。【12月11日 朝日】
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事態を憂慮するメドベージェフ大統領は、大統領やプーチン首相の退陣要求には不快感を示しつつも、選挙での不法行為がなかったか調査するよう命じたことを明らかにして、国民の反発に対し一定の配慮を示しています。
****ロシア:大統領が違反調査指示…下院選、国民の反発に配慮****
ロシアのメドベージェフ大統領は11日、今月4日の下院選の際に不法行為がなかったか調査するよう命じたことを明らかにした。これまでは「選挙違反はなかった」との考えを示してきたが、ロシア全土で10日、選挙結果に抗議し、再選挙を求める集会が開かれたことから、国民の反発に対し一定の配慮を示した格好だ。
大統領は交流サイト「フェイスブック」に「投票所で公選法が順守されたのかどうか調べるように指示した」と書き込んだ。ペスコフ首相報道官も10日の声明で「抗議者の主張を尊重する」との見解を示した。
一方で大統領は各地で開かれた抗議集会について「憲法で『言論と結社の自由』が保障されているが、集会で唱えられたスローガンや発言には賛成できない」と明記。大統領やプーチン首相の退陣が要求されたことに不快感を表明した。
モスクワの抗議集会の参加者は▽下院選における選挙違反の調査▽再投票の実施▽チューロフ中央選管委員長の解職▽過去の抗議集会で拘束された参加者の釈放などを要求。今月24日に再び集会を開く予定で、政権側が要求に応じない限り、抗議を続ける意向を示している。
10日の抗議集会は、モスクワで10万人近くが参加し、「60都市以上」(AP通信)でも開かれた。インタファクス通信によると、各地で合計130人以上が拘束された。【12月12日 毎日】
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【プーチン首相、「一発当選」できないかも・・・・】
以前は“盤石”とも見られていたプーチン体制ですが、不正選挙批判でほころびが生じています。
ただ、依然としてロシア国民の大勢は、プーチン体制による安定と“強いロシア”を評価しており、プーチン首相を否定することにつながる、強権支配体質や人権軽視の姿勢への批判というのは、そう大きくないのでは・・・というような印象を持っています。「アラブの春」云々は、やや抗議活動の過大評価ではないでしょうか。
ただ、3月4日の大統領選の第1回投票で当選できない可能性も指摘され始めています。
****ロシア:統一ロシア「総崩れ」 苦境のプーチン首相****
ロシアで下院選の不正疑惑をきっかけとした抗議デモが「反政府」色を強める中、プーチン首相は苦境に立たされている。事態を収束させる見通しはたっておらず、現段階では、来春の大統領復帰は揺るがないものの、3月4日の大統領選の第1回投票で当選できない可能性も指摘され始めた。
今月4日の下院選で議席を激減させた統一ロシアは最終的な全国得票率が49.32%で、数々の不正疑惑もあり、過半数を割った。州や共和国など83の連邦構成体別にみると、モスクワ北部のヤロスラブリ州で最低の29%。プーチン氏とメドベージェフ大統領の出身地である北西部サンクトペテルブルク市や極東の沿海地方など30の自治体でも3割台の得票にとどまった。
統一ロシアは地方行政機関と一体となってプーチン体制を支えてきたが、北カフカスのチェチェン共和国など一部を除き「総崩れ」となったのだ。
プーチン氏は8日、自ら設立した運動体「全ロシア国民戦線」に大統領選の選挙本部を置き、著名な映画監督のゴボルヒン氏を本部長にすると発表した。統一ロシアと距離を置き、批判をかわす狙いだ。ただ、市民の間に体制の抜本的変革を求める声が強まっており、政権側の小手先の対応で事態が収束に向かうとは限らない。
デモが今後も拡大すれば、プーチン氏のさらなる権威失墜につながるため、強硬手段で抑え込みにかかる可能性はある。
また、プーチン氏は支持率低下が続いており、このままでは第1回投票での勝利は難しいとの見方が出ている。プーチン氏は00年と04年の大統領選で「一発当選」しており、決選投票は避けたいのが本音。今後、国営メディアや行政組織を総動員したキャンペーンに出ることが予想されるが、支持率回復につながるかは疑問だ。
一方、下院選で躍進した共産党や公正ロシア、自由民主党は勢いに乗るが、これまで政権に協力的だったことから「体制内野党」とやゆされ、大統領選に出馬予定の各党首も新鮮さに乏しい。在野のリベラル系政党や市民組織を含め、ウクライナで04年の民主化運動「オレンジ革命」を率いたユーシェンコ前大統領のような指導者は見当たらず、プーチン氏の当選を阻止する戦略は描けていない。【12月12日 毎日】
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